2 宇治拾遺物語の狐
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宇治拾遺物語 巻三 二〇
狐家に火つくる事
昔、甲斐国の館に仕えていた侍が、夕方に館を出て家に向かっていると、狐と出会った。
侍がこの狐を追いかけ、
射られて転ばされた狐は鳴きながら腰を引きずって草の中へと逃げて行った。
この侍がまた
家まであと四、五町ほどになったころ、二町ほど先に例の狐が火をくわえて走っていた。
男は「火をくわえて走るなど何事だ」と馬を走らせたが、狐は男の家まで走っていくと、人の姿になって家に火を放った。
「人が火をつけたのか」と男は矢をつがえて馬を走らせたが、火をつけ終えた狐はもとの姿に戻って草の中へと走っていってしまった。この家は焼けてしまった。
このような狐も復讐を行うので、この話を聞いたなら、こういったモノを追いかけていじめるべきではない。
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巻四 一 狐人に憑きてしとぎ食ふ事
昔、物の怪の憑いた人から、その物の怪を追い出そうとしていた。
その物の怪が言うには
「私は祟るような物の怪ではなく、浮かれて通りがかった狐だ。塚の家に子供などがいて、この子らが腹を空かしているものだから、こういった場ならば食べ物もあるだろうと来た。しとぎでも食べたら帰ろう」
とのことだったので、しとぎを用意し、折敷いっぱいに乗せて出すと、少し食べて「ああうまい、うまい」と言った。
「この物の怪憑きの女はしとぎが食べたかったから、物の怪憑きを装っているのだ」と悪口を言っていると、「これを紙に包んで持って帰って、婆さんや子供に食わせよう」と物の怪憑きの女が言うので、紙を二枚交差させてしとぎを包んで腰にさすと、胸の辺りまであるほどだった。
そうして「追い出してくれ、帰るから」と物の怪憑きの女が言ったので、験者が「去れ、去れ」というと、物の怪憑きの女は立ち上がって倒れた。
やがて起き上がった女の懐には何もなかった。消えてしまったのか、不思議なことである。
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火をつける狐の方は、そもそもこっちからちょっかいを出しているので妥当な復讐である。
しとぎの方は霊的に去るだけでなく、お土産は物体的にテレポートさせてる案件。というとなんだか面白い。
『宇治拾遺物語』は現存していない『宇治大納言物語』の収録から漏れたものを集めたとされる説話集である。散逸悲しい。
成立としては1213~1221年が有力視されてはいる。
『今昔物語集』と共通する話も数多く収録されているが、仏教の啓蒙の色や教訓の色はそこまで濃くない。
語られる内容は上述の通りなので、特別な解釈をする必要もないだろう。
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