第11話 洞窟探検②


僕たちが奥に進んですぐ、ようやく魔物の足音が聞こえ僕とグリーンさんは顔を見合わせる。


衝撃音が洞窟内に響く。振動が地を這って僕たちのもとまで届く。魔物の足音も徐々に僕たちに近づいてくる。

黒い巨体に大きな石斧を手に振り回す、頭に二本の角を持った牛頭男ミノタウロスが曲がり角から姿を現す。


「「うそでしょ……」」


僕とグリーンさんはそろって後ずさる。

牛頭男の討伐に必要なレベルは最低でもチームレベル平均が20だと言われている。それに比べて僕たちは二人ともレベル15前後。勝てるわけがない。

牛頭男もこちらに気づいていたようで、こちらに向かって歩を進める。手に持った石斧を振り回し、通路の壁を粉砕する。


「リク、逃げるよ!」


僕は首をコクコク振って、洞窟の出口に向かって走り出す。後ろからは背を向けた僕たちを追って壁を削りながら進んでくる。

僕たちは来た道を引き返し、曲がり角を進み、空洞に出た。空洞の反対側には出口につながる一本道がある。僕たちはそこを目指して駆ける。

しかし、僕たちを待ち受けていたのは、見えない壁だった。


「なんだこれ……」


必死に見えない壁を叩くが、ビクともしない。


「聞いたことがある。ボス系モンスターの特殊スキルで『フィールド化』っていうのがあるって」


これがグリーンさんの言うフィールド化なのだろう。少したって、僕たちを追ってきていた牛頭男が空洞にやってきた。


ブゥモォォォオオオ!!!


牛頭男は咆哮ハウルすると、石斧を振り、床にある石材を弾き飛ばす。狙いは僕たちだ。僕たちはそれを回避しようと試みるが、先の咆哮で体が硬直して動くことができない。

避けることのできない僕たちを標的に石礫が直撃する。HPバーのゲージがみるみる減っていく。レッドゾーンに入り、残り一割ほどでようやくゲージは止まってくれた。グリーンさんも同じ状態だったようで、すぐにポーションを飲んでいた。 僕もアイテムボックスからハイポーションを取り出し、中身を飲み干す。


先ほどの攻撃で壊れたらしく、牛頭男の持っている石斧はボロボロと崩れていく。これ幸いと僕とグリーンさんは攻撃を仕掛けるが、剣での攻撃はイマイチでダメージを与えられている気配はない。現に牛頭男のHPゲージはほとんど減っていない。こちらの攻撃はなかなか効かないが、牛頭男の攻撃は一撃で僕たちのHPを瀕死にさせる。

僕たちはHIT&AWAYで応戦しているが、それもポーションが尽きるまで。僕の手持ちのポーションは残り半分をきり、グリーンさんに限っては残り少ない状態だ。

僕たちが少し互い違いに小休憩を取っていると、突然牛頭男が壁に腕を突っ込んだ。するとその腕を突っ込んだ箇所からボロボロと崩れ始めた。崩れ切った壁には先ほど手に持っていた物と同じ石斧があった。牛頭男がそれを手に取ると、休んでいる僕たち向かってそれを投擲してきた。

石斧は休んでいたグリーンさんに直撃し、残り少なかったHPをミリまで削っていく。

牛頭男は石斧を作っては投げ、作っては投げを繰り返し、僕たちのメンタルとHPを削っていく。石斧の投降を防いでいた岩場も幾度の攻撃で半壊してしまっている。ポーションの残りはゼロ。絶体絶命だ。


「なんだこれは?!」


突如空洞内に男の声が反響する。


「どうしてこんな場所に牛頭男がいるんだ?!」


洞窟の入り口から入ってきたのは、男二人(剣士)と女二人(治癒師ヒーラーと魔法師だった。

牛頭男の狙い《ヘイト》が男たちに向き、僕たちはその間に新たな岩場の影に隠れる。


「僕たちもよくわからなくて!下の層まで潜っていたらこいつが居て!」


僕は事の経緯を簡単に説明して、共闘してくれるか誘ってみる。


「分かった。パーティーの招待を送るから、リーダーはどっち?」

「私よ」

「わかった」


少しすると、一つのウィンドウがポップアップする。

―――――――――

プレイヤー名:りきとーが臨時パーティー(共闘)

の招待が届いています。


拒否|承認

―――――――――

パーティーのリーダーはりきとーさんと言うらしい。

僕とグリーンさんはりきとーさん達のパーティーに会釈をして、承認をタッチする。


「これからどうしますか?」

「前衛の僕たちが牛頭男のゲージを一つ削って、そしたら一旦引いて、その後態勢を整えて、最後のゲージを削りきろう」

「了解です」


ボス系モンスターにはHPゲージがあり、そのゲージ数はモンスターの強さによる。牛頭男は中ボス扱いのため、HPゲージは二つしかない。


「リク君の武器はその剣だけか?」

「はい、そうですけど」

「じゃあ、魔法スキルか何か持ってる?」

「持ってないです」

「そうか、じゃあこれを使ってくれ」


そういってりきとーさんは僕に一本の巻物スクロールを渡してくれる。

巻物は高価なものだ。自分で作るのなら別だが、店で買おうとすると、一番安い物でも2000Gはするだろう。そして今回渡された巻物は『筋力ライジング・増強ストレングス』と言う増強系の巻物だ。増強系にもピンからキリまであるが、最低のやつでも5000Gはするだろう。

まぁ、今は勿体ないとか言ってられないのでりきとーさんにお礼を言って巻物を使う。


「ライジング・ストレングス」


巻物を開いて唱えると、体の表面を一瞬赤いオーラが走る。ステータスを見るとSTRの部分が五割ほど上がっている。

りきとーさん達のパーティーも魔法師のバフを受けて、すでに牛頭男に攻撃を始めている。


「じゃあ、リクいくよ!」


僕とグリーンさんもりきとーさん達に続いて、牛頭男に向かって行った。

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