第7話 ポーリンとポーション
『メイリーン』に帰ってきた僕は様々な露店が開かれている噴水広場に向かった。
噴水広場には色々なジャンルの露店が開かれ、その中にはユウリさんの露店ほどではないが、個性あふれる外見をしたお店もある。そんな中を冷やかしながら僕はポーションを扱っている露店を探し歩く。
数分探し回ると、噴水広場の端に構えるポーションを扱っている露店を見つけ出した。露店にはポーションとハイポーションが等間隔に置かれている。その他にもしびれ薬や毒消し薬なども置かれていた。僕が露店の前でうろうろしていると、店主の女性プレイヤーが声を掛けてくれた。
「いらっしゃい。ポーリンの薬屋になにかようかい?」
店主のポーリンさんに声を掛けられた僕は内心『ドキッ』としながら商談をする。
「こ、こんにちは。『ドーラの清水』を6ℓ売りたいんですけど……」
「あー、ごめんね。今日はもう『ドーラの清水』の仕入れは終えちゃったから……。ほんとにごめんね」
僕はがっくりと顔を俯き、手に出した『ドーラの清水』をアイテムボックスに仕舞う。その時、アイテムボックスの中に複数の薬草があることに気づいた。昨日『ドーラの草原』に向かうときに採った薬草と、今日山頂に向かうときに採った薬草がかなりの数仕舞われている。
「じゃあ、薬草を売りたいんですけど。大丈夫ですか?」
「薬草ならまだ受け付けてるから、薬草をここに入れてね」
ポーリンさんが交換用のアイテムボックスを出現させ、僕はその中に売りたい薬草を放り込む。
「薬草30個と上薬草13個、アネモネの花を15個ですね。薬草は一個10G、上薬草は50G、アネモネの花は150Gで買わせていただきますね。合計で3200Gですね。間違いなかったらOKをタッチしてください」
10×30+50×13+150×15=3200。僕は計算機で確認すると視界に表示されたOKをタッチした。ポロンッという音がすると取引が成立し僕の残金が3221Gになった。
「もしよかったら何か買っていきませんか?」
僕はポーリンさんの話に乗って露店の商品を見回す。ポーションでも買おうとしている時に自分が【調合】のスキルを持っていることを思い出した。【調合】スキルを持っているとポーションを自作できるんだっけな。
「『調合セット』って売ってますか?」
「もちろん売ってますよ。初級・中級・上級のどれにしますか?」
商品のネームプレートには初級が1000G、中級が2500G、上級が5000Gと値段が書かれていた。上級はお金が足りず買えない。となると、初級か中級だけど、今日はお金にも余裕があるし中級でもいいかな。
「中級でお願いします」
僕はポーリンさんから『調合セット(中級)』を買い、その足で初めてログインした時の宿に向かった。
宿の扉に手を掛けると勝手に扉が開き、一人の女性プレイヤーと衝突しかける。
おっと、向こうも扉の先に人がいたとは思わなかったようで、扉すれすれに体を寄せ、僕とすれ違う。僕は開かれた扉を通り、宿屋の中に入る。カランカラン、扉を開けたまま入ったにも関わらずドアベルが鳴るのは変な感じだ。多分プレイヤーを感知して鳴るのだろう。宿屋は入って右側が少し大きな食堂になっていて、左側はスタッフルームのような部屋と受付台があった。受付台にはきれいな黒髪を伸ばしたNPCの女性が座っていた。
「宿泊ですか?休憩ですか?」
ここでいう宿泊はログアウトのことだ。宿泊だと次回ログイン時にステータスにボーナスが付く。休憩は誰かと待ち合わせだったり、色々なことに使える。僕はもうログアウトするつもりだから宿泊を選ぶ。
「では宿泊ですと500Gになります」
僕はなけなしの500Gを支払って部屋の鍵をもらった。鍵の形状はウォード錠で防犯はちょっと不安なのだが、そこはゲーム。しっかりとシステムがカギをかけてくれるらしい。僕は指定された部屋を目指して階段を上り、目的の『302号室』に向かった。部屋の扉には覗き穴とその下にドアノッカーが付いていて、扉の上の木製のプレートに部屋番号が書かれていた。鍵を開けるとアイテムボックスに鍵を仕舞ってドアノブをひねった。
部屋は洋式で土足OK。床にはカーペットが敷かれ、ベットは脚付きのマットレスで部屋の半分ほどを占め、圧迫感がある。一応クローゼットもあるが、服関連はアイテムボックスに仕舞うのが普通のためただの飾りだろう。部屋の角に置かれた机には室内販売用のカタログが置かれていた。
僕は今日買ったばかりの『調合セット(中級)』をアイテムボックスから取り出し、ベット横の空きスペースに広げた。『調合セット(中級)』には、『薬研』、『乳鉢』、『乳棒』、『ガラス瓶』、『マジックランプ』、『薬瓶』×20、『説明書』が入っていた。まずはポーションを作ってみるか。『説明書』にはポーションとハイポーションの作り方と、そのほかの状態異常薬、その解毒薬のレシピが載っていた。僕は『説明書』の手順に従って、薬草とオトギリソウを別々で『乳鉢』に入れて『乳棒』で粉末状になるまでつぶす。その後、『薬研』で粉末状にした二つの生薬を均等になるように混ぜ合わせる。そして『ドーラの清水』と混ぜた生薬をガラス瓶の中に入れて『マジックランプ』で煮詰める。『マジックランプ』は利用者のMPを消費して燃え続ける便利な魔道具だ。この『マジックランプ』で煮詰めるときに【調合】スキルを使う。スキルを使うタイミングで品質が変わってくる。と『説明書』には書いてあった。実践してみよう。
まずは薬草とオトギリソウを粉々にしてっと。ゴリゴリ これは結構力がいるな。 ゴリゴリ 思ったより疲れる。 ゴリゴリ 数分の間『乳棒』で磨り潰しているといい感じに粉末状になったので、二つの生薬を『薬研』に慎重に移した。ギィギィ 『薬研』はかなり難しく、すぐに『薬研』が外側に寄ってうまく混ぜられない。 ギィギィ 『薬研』が真ん中に寄ると、次は生薬が端によってうまく混ぜられない。 ギィギィ 数分間格闘して、ようやく生薬が均等に混ざり合った。
そして最後に『ガラス瓶』の中に今日取ってきた『ドーラの清水』と混ぜた生薬を入れて、『マジックランプ』の根元に三秒間手をかざした。すると勝手にMPが消費され火が付いた。その上にガラス瓶を置き、沸々と沸いてきたところで【調合】のスキルを使った。すると一気に黄色に『ガラス瓶』の中の色が変わった。これで完成だ。
「初めてにしては上々かな?」
―――――――――
『ポーション』 ☆
■HPを少し回復する
□回復アイテム/HP回復
□複数効果/なし
■品質:LQ
―――――――――
ポーションなど、アイテムは品質で性能が変わり
■F :
■HQ:
■S :
■LQ:
■BQ:
の五段階に分かれている。そして今回のはLQ。BQじゃないだけマシだ。
その後も一時間ほど続け、手持ちの薬草が切れるまで続けた。収穫は品質:LQが五個。品質:Sが三個。一度だけ【調合】スキルを使うのを忘れ、品質:BQが一個。僕はちまちまとした作業が好きみたいだ。ポーションを作っている間も時間が過ぎるのを忘れていたし、一切苦と感じなかった。あーあ、もっと作りたかったな。
ん?まてよ。確か【万能の創造】に「薬草の創造」だったよな?僕はシステムウィンドウを開いてスキル欄で【探求力(Lv1)】と【万能の創造】を交換する。僕は期待に胸を躍らせ、呟く。
「スキル【万物の創造】。薬草……」
視線を下に向けると、床に一枚の薬草が落ちていた。僕はそれを拾って一度アイテムボックスに仕舞って、再度取り出す。薬草は消えることなく僕の手の中にある。
(うぉーーーーーー!)
僕は心の中で叫び、ガッツポーズをする。その後、システムウィンドウからもスキルが使えることを知り、ポーションを作っては創造し、ポーションを作っては創造を繰り返した。そろそろログアウトしようと思い、今まで作ったポーションや『調合セット(中級)』をアイテムボックスに仕舞ったとき、今日ユウリさんから買った『薬草図鑑』を思い出した。僕は『薬草図鑑』適当に開く。開いたページはちょうどレア度:☆☆☆☆☆☆☆の
「スキル【万能の創造】。『カサブランカの霊薬』」
そういうと目の前に『薬草図鑑』に乗っている写真そっくりの花が現れた。僕は『カサブランカの霊薬』手に持ち、ベットに横になる。僕は『カサブランカの霊薬』片手にこのスキルの有用性を考える。残念ながら
僕は目を開け、VRドライブを頭から外した。部屋の時計に目をやると、時計の針は2時を指している。げっ、もう夜中の二時じゃん。時間制限掛けておいてよかった。僕はトイレに行って、布団に潜り込んだ。目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきて意識を夢の中に持っていかれた。
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