第五話 周知の事実は未だ新事実
第5話
「生きてるってどういうことだよ」
「まあ、そうなるよなぁ。
全部話してやる。来な」
「来なってどこにだよ」
「屋根の上だよ」
次の瞬間、男はいなくなった。
屋根の上に行ったってことか。
いや、置いてくなよ。屋根の上なんて生まれてこの方、登ったことないんですけど。
屋根の上からは、満月が綺麗に見えた。そうか今日は中秋の名月だったのか。まさかこんなどこからともなく現れたおじさんと満月を見ることになるだなんて思いもしなかった。しかも屋根の上で。
「俺の名前は桃太郎だよ。
君もなんだろう?」
「いや僕はダイアだ」
「めんどくさいやつだなぁ。でもさ、桃から生まれたのは確かだろう?」
「ひょっとして、おじさんもなのか?」
「いや、おじさんてダイア君…。おじさんの前段階にお兄さんって言葉があるとだろう。」
「お兄さんって言葉があることを踏まえて、僕はおじさんのことをおじさんって呼んだんだよ」
確かに、おじさんと言うにはその男は若かったのかもしれない。しかしお兄さんと呼ぶには歳をとっていたことも確かだ。
「じゃあダイア君、これから、おじさんのこと、代わりにこう呼んでくれ。」
「ん?」
「初代桃太郎」
「初代って…僕とおじさん以外にいるのか?桃太郎が」
「もちろんいるさ、俺を含めてダイア君が5人目だ」
「…多くないですか」
「それも全員ここの家で産まれてるよ」
そう言って初代桃太郎は僕達が座っている、屋根を指さした。
「設定に難がありすぎだろ」
だからおばあさんはあんな冷静な反応だったのか。
待てよ、だとするとおじいさんのあの驚きようはなんだ。5人目でこれって1人目の時どんなだったんだ。
いや、そんなことより。聞かなきゃならないことがある。
「なあそんなことより桃太郎」
「どうした?」
「生きてるってどういうことだよ」
「それはなんだ?俺の人生観について聞かれてるのかい?」
「違うわ!村の人達の話だよ」
「ああ、そういえばその話だったね」
こいつ忘れてやがったぞ。
「そのままの意味だ。生きてるんだよ。まあ生命の危機なのは確かだが」
「あの豆粒みたいなのが、村の人達だとでも言うのか?」
「とでも言うんだよね、それが。鬼に喰われたあとどうなるか知ってるか?」
「知る由もないな」
「鬼の消化作用は人間とは違う。鬼の胃に入るとまず、物体の大きさが小さく縮んでいくんだよ」
「え…それって上手く栄養吸収出来ないんじゃ…」
「人間の常識が鬼に通用すると思っちゃいけないよ」
「ずるいなその説明。ともかく僕はどうしたらいいんだ?小さくなった村の人達に」
「生死について言ってんなら問題ないだろうな。見た感じ300分の1くらいの大きさになってる。つまり食事はいつもの300分の1で充分ってことだよ」
「村人はざっと30人。1人の1日分の食糧があれば村人全員の10日分の食糧になるってことか」
「いや、食糧は要らん」
「殺せってか」
「仮死状態に入るんだよ」
「虫かよ!仮死状態になるのはいいとして、それを助けるにはどうしたらいいんだ?」
「鬼の秘宝、
ウチデノコヅチを使うことだね」
「なんか聞いたことある名前だな!」
桃太郎に続き、また昔話ネタかよ
「そしたら、それを僕が鬼ヶ島から取って来いってか」
「その通りだ。一度襲った村に二度は来ないだろうから安心してここを離れ、鬼ヶ島に行くがいいさ。」
「さっきの瞬間移動でお前が盗みに行っちゃだめなのか?」
「ダイア君は俺を殺す気なのかい?」
「え?」
「俺のあの瞬間移動は、神通力のひとつ、神足通を使ったからだ」
「神通力使うのがどうして死ぬ事に繋がるんだ?」
「神足通は使ったあと、その移動した距離を走るのと同じだけの疲労がくる。それをお前、鬼ヶ島までの距離って…」
「そうか、悪かったよ。でも今までにもこうやって、鬼が襲ってきた事あったんじゃないのか?」
「あるよ、何度も。その度に来た鬼全てを倒し切ってたからな。新しい桃太郎が来たから大丈夫だろうと思っていたのにお前…。鬼を見るなり動物に頼ろうとするって…鬼畜の所業だろう」
「それは言うな!僕だってお前みたいな力があれば、一人で戦ってたよ!」
「お前にもあるぞ。力が。神通力ってのはいくつか種類があるからな」
「本当か!?」
やっとだやっと始まるんだ。僕の異世界生活が!誰にも負けない特別な力で鬼を打ち負かすんだ!目にも見てろよ!鬼!
「お前の力は恐らく宿命通だ」
「どんな能力なんだ?」
宿命通!これが僕に秘められた力!強そう!この力を使って僕は鬼を倒し莫大な富を…
「自分の前世を知る力だ」
…え?
「つ、つまり?」
「君はもう最大限、宿命通を活用してるね。前世の記憶、はっきり残ってるんだろ?」
…なっ
「ぼ、僕には分からないんだけど。いやあの強い…んだよな?」
「いや、弱い。そのくせ神通力持ってるやつなら誰でも持ってる力だ。」
「へ?」
「言うなれば、ハンバーガーにセットでついてくるポテトだ」
「…あ、ああそういう事か。僕にはもう一つ能力が…」
「ない」
はっきり否定された。
「…じゃあ俺無理じゃん。鬼ヶ島行っても勝てないじゃん」
「いや、今から言う2つを行えば、お前も鬼と渡り合えるぜ」
「何したらいいんだよ」
僕はふてくされ気味に聞く。
「一、この粉を使う」
そう言って初代桃太郎は前の戦いで鬼に投げていた黒い粉を取りだした。
「そう言えば、これなんだったんだよ?鬼に投げたら鬼が花びらになってたよな」
「花咲灰だ」
また、昔話ネタ。
「なるほどもう説明しなくても分かる」
「そうか、とはいえ俺、在庫はないよ。自分の分は自分で探してもらおう」
「ええっ?」
「簡単だ。犬に探させればいい」
「いや簡単じゃないだろそれ」
桃太郎は無視して続ける。
「二、神通力を持つ仲間を増やす」
「そんな奴簡単に見つかるものなのか?」
「簡単に見つかるものだと一瞬でも思ったのか?」
「簡単には見つかんないってことか」
「その通りだよ」
「まあ、俺から話せることはこの位かな」
「神通力をほぼ持ってないに等しい俺は花咲灰を探し、神通力を持つ仲間に出会い、ウチデノコヅチを鬼から取って、村の人達を助けると」
「その通りだよ。もうひとつ付け足しておくと、お前みたいに自分の神通力を理解していない奴はまずいないね。神通力を持ってるやつはその神通力の内容を理解してるはずだ」
「なんで僕だけ、理解して無かったんだ?」
「知らないな。本来、別の世界から転生してくる場合だと、担当の神が、ちゃんと教えるはずなんだけどね」
「なるほど、その情報だけで充分だ」
僕の脳裏には、あの軽いノリの神様が蘇っていた。
あいつめ、面倒くさがったな。
「それじゃあ、俺は鬼とは別件のことで忙しいからこの辺で切り上げさせてもらおうかな」
「鬼以外にも問題があるのかこの世界には」
「あぁ、だから桃太郎が5人も生まれてるんだろうね。ダイア君も少しは役に立ってくれよ」
「あぁ、できる限りな」
「そうだ、あそこに赤い星が見えるのがわかるか?」
「ああ、見えてるぞ」
「あれが見えてるって事はまた桃太郎が産まれるってことだよ」
「6人目のか?」
「6人目のだ。確かに異例の早さではあるな」
「僕が、川へ向かった方がいいのか?」
「そうだな、該当者が川の近くまで来ると自動的に桃が流れる仕組みになってるから」
「なんだ、その都合良すぎる設定」
「そうじゃなきゃ、確率的に誰も拾わない事の方が多いだろ。だからまあ、焦ることは無いが、6人目の桃を取りに行ってくれないか?嫌とは言わせないぞ。今まで桃取ってくれてた人を仮死状態にしてるのはダイア君なんだから」
「することなければ泣いてろとか言ってたくせに、そんなこと言うなよ」
「冗談だよ。君を過信してた僕にも責任がある」
「…やっぱ僕のせいなのかな」
「ともかく俺は行かなきゃならない」
「6人目の桃太郎と鬼ヶ島の件頼んだよ」
そう言って初代桃太郎は姿を消した。
…さっきの話だと体力の問題できっとまだ近くにいるのだろうが。
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