第9話 獣人の国1
そこはサーの大森林と言われる森の奥底。人種はその場には近づかない。いや近づけない。なぜならばそこには--
「ようこそっすー!ここが僕たちの国。ワースリールンっすよー」
獣人種最大の国が存在するのだ。
「ほえー、ここがワースリールンかぁ。ウチも来たんは初めてやなぁ。」
チャイカはまるで観光客のように手を額に当てみやっている。そんな子供のようにはしゃいでいるチャイカを見ているとテトラは少し優しい気持ちになった。
これが噂に聞く”母性本能”ってやつなのかしら・・・まさかね・・。
テトラはそんな考えを大きく頭を振り即忘却の彼方へと旅立たせた。それを目の当たりにしたチャイカは不可思議という表情を浮かべていたがそれは無視することにした。
「奴隷狩りは被害を拡大させて小さい村からどんどん廃村になっていったんす。今では獣人種の人口が減りこうして複数の国が合併したんす。そうして出来たのが--"ワースリールン"っすよー!」
なるほどね、400年前も獣人種は確かに奴隷狩りの被害を一番に受けていた。人種は”同種第一主義”という考え方が最も高いと思ってはいたけどここまで何も考えずに行動していたなんて異常だわ。
「"ワースリー"とは"古獣語(ワースラマ)"で獣人種。"ルン"は繁栄って意味なんすよー!」
ワースリールンのひと通りの説明を終え3人はその中へと足を踏み入れた。道ゆく獣人種たちはチセの姿を確認すると挨拶をしに近づいてはチャイカとテトラを見つけ足を止めるのだった。それを繰り返すうちに3人の周りには獣人種の人だかりが完成している。つまりは野次馬である。
「なんや?ウチらあんまし歓迎されてないようやなぁ」
確かにそんな気が立っている時に最後の砦というような地に多種が立ち入るのは警戒するだろう--。
「まぁ、仕方ないでしょうね。多分ここにチセがいなかったらと考えると寒気がするわ?」
テトラは彼らを値踏みするかのように見渡すとふと一点を見つめた。それは小さな女の子、それも双子だ。まだ幼そうに見える彼女たちからは気配が全く感じ取れないのだ。テトラの気配察知は凄まじい精度であると自負していた。それこそこの人だかりであっても個々の気配を感じ取り分けられるまでに--
あの子達そんなに完全に気配を完全に遮断出来るほどの実力者には見えないのだけれどどういうことかしら?それに何処かで見覚えが・・・
その視線に気づいた双子はこちらに笑顔で手を振っている。大人に比べて肝が据わっているわねと苦笑して答えた。
「チセ様、お疲れ様でした。してこの方達は一体・・?」
一人の大柄な男が3人に近づき挨拶を終えると問うてくる。その身長はチセの倍くらいはあろうかというものだった。その見た目からは異質とも思える二人の関係性がなんだか可笑しく思える。
「ティマンありがとうっすねー。彼女たちは僕が招待したんす。みんなも丁重に持て成すんすよー」
そんな軽い言葉の指示が伝えられると野次馬は大きく頷き合いながら元の作業へと戻っていた。
どうやらチセはこの国の長のような存在であるらしい。それもかなり信頼されているようだ。どういう魔法を使えばこんなちんちくりんが長になれるのかとも思ったがそれは口には出さないのが吉であろう。
「ん??なんかテトラ失礼なこと考えてないっすかー?」
あれ、もしかしてバレた?
いや、クールで定評のある私が顔に出しているわけはないか。
「いや?」と短く返すテトラの顔をチセはじぃーっと疑いの目を向けている。
やめて。見ないで。
400年より長い時間そうしているのでは?と思ったそんな時に助け舟は出された。
「なんやぁ?偉そうやなぁ。背と態度が釣り合ってへんでー」
何を隠そうチャイカその人である--。
その船出と共に航海は荒れ模様となる。
「背のことは、、」
ティマンと呼ばれた男は一歩身を引きその顔を青ざめさせていた。
「いま、なんつったんすか?」
どうやらチャイカは獣の尾を踏んだようだ。気付けば私たちを除いて周りには人がいないではないか。仕事をしていた者も家の中へと避難しこちらの様子を窺っているようだった。
「ほえ?なんやなんや??どーしたん??」
はぁ。チャイカは何も考えずに余計な事を口走る節があるわね。どう見てもそれは禁句でしょうね。
テトラは額に手を当てるとその目を下に落とす。しかしこれは好機かもしれない。"今の獣人種"の実力をチャイカを囮にして見せてもらうことにテトラは決めた。
「僕を怒らせるとワリと怖いっすよ?」
そう短く言い放つそのチセの目は獰猛な獣のように思われた。一歩地面を踏み込むとその地面は抉れ砂埃が上がる。それを掻き消すようにチセはチャイカへと一直線に進みその脚を叩き込んだ。
「ちょ、チ、なんやね、、ブヘァ!!!」
そのまま真後ろへ吹き飛ばされ民家へと突き刺さる。
不意をついたとは言え魔人種の中でも最上位のチャイカを吹き飛ばすとは少し驚いた。その家の住人は真っ青になりより遠くへ逃げているのが少し可笑しく思える。
その一発では飽き足らないのかチセは尚もチャイカへと歩みを進めていた。その身体はより獣に似たものになっている。
そうか、これが"獣人種の獣王化"なのね。これはまた面白いものが見れそうね。お菓子でも食べながら傍観していたいわ。
笑みを浮かべるテトラを他所に近づいてきたティマンは「お止めしなくても宜しいんですか?」と恐る恐る口にする。
「では、貴方がどうぞ?」
「い、いや!そ、それはーどうか、、」
とてもティマンは歯切れが悪くなっている。その目でテトラに懇願するもテトラは「ふふ」と鼻で笑うだけであった。
復讐行進曲 RinG @ring-
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