第8話 拒まれる者

ウェニエル=ミラスターはダステル国が誇るA級冒険者である。黄色の一閃という初心者パーティの付き添いとしてクエストに参加している。


黄色の一閃

ウェニエル=メンターE級冒険者ミラスターの弟。シルヴァニア=ピッチE級冒険者。アール=シックスD級冒険者。ベラ=ピアニD級冒険者。サル=フラージュD級冒険者からなるダステル国の冒険者パーティ。今回は弟ピッチのお願いでイル・イラス近郊の湿地帯にて調査依頼を進行。


ミラスターを含めた6人で湿地帯に入ろうととしていた。というのも国王から冒険者による周辺調査の勅命が出されたのだ。安全確保のためD級以下のパーティにはB級以上の冒険者同伴ということになっている。そのためミラスターに白羽の矢が立ったのだ。「わが弟のためならば!」とミラスターも乗り気で今回参加していた。

「にしてもどーしたんでしょうかねー?冒険者に勅命が出されるなんて。ミラさん今まであったんですかー?」

ピアニはどこか浮ついた感じだ。そのようなことがダステル国で起こったことはミラスターが知る限り今までに無かった。ことの重大さをひしひしと感じているミラスターは少し言葉に詰まる。

「わかんないなぁ。まぁだからこそ危険だと思ったらすぐに逃げるからな」

そう言うミラスターはいつもの軽い感じは少なく気を張っているようだとメンターは気づく。

(これが冒険者としてのお兄ちゃん、、A級冒険者ウェニエル=ミラスターなんだ)

緊張感がメンターの心を支配しつつもそこには確かに兄への尊敬と誇らしさがあった。

「ミラスターさん!前方にスケルトン!」

シックスの一声で6人は一斉に戦闘態勢に入る。先陣をきったのはミラスター。スケルトンは6体順に切り込んでいく。6体目を難なく討伐したミラスターは異変に気づく。それは遠くの方に上がる土煙が確信に変わる。

「あれは、、スケルトンの軍!?」

100体は優に超える大軍だ。

「お前ら!!逃げろ!!」

後ろを振り返ると先ほどまでは湿地帯が広がっていたそこはスケルトンによって埋め尽くされていた。よく見るとスケルトン以外のアンデットの姿も見受けられる。これほどのアンデットを使役する大物。ミラスターはひとつの可能性にたどり着く。

「不死王、、」

そんなミラスターの言葉は空へと溶けて掻き消える。5人は目の前で起こった事が受け入れられずその場に剣を落とす者、座り込んでしまう者もいる。そして皆言葉にならない言葉を必死に紡いでいた。立ち向かうミラスターとの差が歴然にあらわになっている。

「我が名はヴァナアス=アン=タドゥである。我を崇めよ。慈悲を乞え。」

6人の目の前には他のスケルトンよりひと回り大きいスケルトンが。しかしその圧倒的なまでの威圧感はミラスターでも相手にはならないと直感が囁くものだった。

「お前ら!逃げろ!!」

きた道を遡るようにアンデットの大軍にミラスターは切り込むが5人はまだ足を動かせずにいた。そのミラスターの前に立ちはだかっていたアンデットの大軍は突如土に溶け込むように消えていく。入れ替わるようにいつの間にかそこにはヴァナアスが立っていた。

「阿呆が。我の姿を見ても剣を納めぬとは我に剣を突き立てているのと同義。"突然死(サドンデス)"」

その瞬間ミラスターはその場に倒れ込みその横を音を立てずに歩き去る。A級冒険者がたったひとつの魔法により倒れたその事実が残る5人に電撃のように走る。一層身体に力が入らないのは必然だった。

「人種の子よこのままこの地を去るのであればお主らに罪はない。我は死を運ぶ者なり」

その眼球の無い目は確かに5人を見据えていた。真っ先に立ち走るのはピアニ。その顔に表情は無くただ前を見ているようだった。それに続き残り4人も立ち走る。

「死魔法(デスマジック)降り注ぐ死(デスペラード)」

差し出された掌から4つの黒い矢のような軌跡は順にピア二、ピッチ、シックス、フラージュを貫く。

「何故だ!かえしてくれるのでは無いのか!!」

メンターは酷い喪失感に襲われながらも力強く言い放つ。それは悪足掻きのようにも思えた。

「フッフッフハハ。何を血迷ったことを言っているのだ?我は"死者を導く者(アンデットロード)"。死を運ぶ者なり」

そう告げると空虚な瞳は真っ直ぐにメンターを見据える。そこには確かな威厳と風格を感じ取れる。

「然しながら味気ない。貴様は見逃してやろう。なに貴様はもう死ぬ身であろう?我が手を下すまでもないその弱さと臆病さに身を震わせながら最期を迎えると良い。」

そう言うとヴァナアスは後ろを振り向き夜闇へと消え去った。そな頃には周りにいたアンデットの軍も跡形もなく消え去っていた。

「くそっ!!」

メンターはふやけた地面を殴りその涙はこぼれおち地面へと吸い込まれて消える。メンターは意を決しイル・イラスへと歩みを進めた。

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