第7話 ダステル国2
「いやぁ、さっすがテトラやなぁ。一回のきょうは、、質問でとてつもない情報量やわぁ」
(今脅迫って言いかけたか?)と思いつつチャイカに目をやると何やら頭をぽりぽりかいてテトラと目を合わせないようにしていた。
それにしてもさっきの男どもはテトラが思ってた以上に情報を持っていた。機密そうな情報もあったため全てが真かは分からない。しかし一介の冒険者程度が詳しい情報を持っているという事は国がそれほど混乱しているということでもあろう。
もう1組位は話を聞きたいところであったがテトラは後ろに付けている気配を感じたりため一度イル・イラスを出ることにした。
「テトラー。気付いてるとは思うんやけど。どうするん?」
チャイカはいつに無く真剣な眼差しで目だけで後ろを振り返る。その眼差しはまるで獲物を狙う獣のような熱くも冷めているといった感じだ。
「そうね。もうだいぶ離れたし。いいかな。」
テトラはひとつため息を吐きスッと後ろを振り返る。
「で、なんのようかな?私たちそんなに暇じゃないのよ。」
しかしその言葉に反応はない。
「暇じゃないって言ってるんだけど?"次元束縛"」
地面から現れた鎖はそのまま空を掴み束縛する。
「うぎゃあぁぁ、すまないっす〜!」
その声と共に姿を現したのは『獣人種』だった。短く切りそろえた茶髪を拘束されながらも必死に動かし謝っている様子だ。
「にしてもやなぁ中々の隠密能力やな。居たのはわかったんやけどどこにおるかまでは分からんかったわ。よおテトラは分かったなぁ」
チャイカは目を丸くしてテトラを見る。
「まぁ多少の息遣いでなんと無く、、かな?」
「いや、これほどいてほしいっす〜!」
獣人種の女性は頭に生やした耳をピンと立てながら講義をしているようだ。彼女から敵意は感じられない。
(全面的に信頼することはできないけど獣人種と仲を悪くする必要は無いわね)
テトラは鎖を解くと目でジロリと彼女を見ると「ひぃっ!」と言いながら彼女は後ろに体重を移した。
「それで、あなたは誰?なんでついてきたの?」
テトラは焦れったく感じたように問いただす。その横でチャイカは首を縦に振っていた。
「ぼ、僕はチセ。チセ=アルカナっす。酒場の前通った時に突如アナタ達2人が現れたんすよ。そしたら魔人種じゃないっすか?怪しいなと思って今に至るっす」
「チセはチャイカが魔人種だと気付けたのか。」
テトラはふむふむと頷いている。見た目だけ人種に似せてもどうやら獣人種からは意味がないらしい。それはこれから獣人種に潜り込むことが困難であると頭の中で結論づけた。
「何故、魔人種だと気付けたんだ?」
それはきっとこの先のため知っておいて損はないだろう。
「においがしたんすよー」
「におい?」とテトラとチャイカは聞き返す。チセは少し気持ち良さそうに胸を張りながら目を細めた。少し偉そうなのが鼻に付いたがテトラは黙っていた。
「獣人種はっすねー鼻がめちゃくちゃ良いんすよー!狩猟の種というだけあって隠密能力に他の種より長けてるんすねーこれが!」
なるほどなと思いながら一番気になっていた疑問をぶつけることにする。
「チセはなんで人種の国に居たの?」
その疑問は的を射ていた。というのも人種の国で最も多く使われる奴隷の種は獣人種である。それは400年前から変わらない。それをテトラはダステル国遠征において確認することができた。そんな中隠密能力に長けているとはいえ単独で人種の国に潜入するということはそれほどリスクを背負ってでも何か情報を得たいということなのだろう。
(そう、例えば獣人種はこの奴隷制度に対して異を唱えたい等といったところだろうか)
「それはっすねー、、」
チセはなにやら歯切りが悪い。チラッとチャイカを見れば「はっきり喋れや」と言わんばかりの剣幕だ。もう一度テトラは話すように促す。
「じつはっすね。人種の軍を返り討ちにした魔人種がいるらしいんすけどね」
そう続けるとチセはチラッと2人を見た。それを見る限りどうやらその魔人種とはテトラたちだと踏んでいるらしい。どこで情報を得たのかは分からないがあまり深く詮索するのはやめておくことにした。
「それたぶんウチのところやなぁ」
チャイカは人差し指を口に当てながら呟く。それを聞いたチセはやはり驚いた様子はなかった。知っていたからだろう。
「そ、そうなんすねー!よかったらなんすけど僕の。獣人種の国にきてくださいっすよー!」
どうやらそれがつけていた理由らしい。とてもよく目が泳いでいる。どうやら隠れるのは上手くても嘘をつくのは下手な様子だ。なんだかテトラは少しおかしく感じてしまった。
「いいわよ。案内してくれる?」
テトラは満面の笑みで快く答えた。
「ありがとうっすー!こっちすよー!」
チセは嬉しそうに尻尾をピョンと跳ねさせている。その姿はとても愛くるしいものだ。冒険者をしてた時はこのような自然体な獣人種を見れることはとても稀であった。まぁそれも人種が獣人種にしていることを考えれば当然のようなことなのだろう。今この瞬間のチセをテトラは心に留めておくことにした。
「私はテトラよ。フェ、、テトラ=フェアー。よろしくね」
「ウチはチャイカ=ヴェスターやで。チャイカって呼んでほしいわぁ。よろしゅうなー!」
3人はチセを先頭に歩き出した。
同刻、テルワ連邦国。人種最大の面積を誇る国である。今は最高司令会議と呼ばれる周辺国家(ダステル国、ステバン国、ギノ帝国)の主要人物を巻き込んだ会議の最中である。
「えー。最近どの国でも農産物の収穫が例年より落ち込んでいることが前回の会議で話題にのぼりましたが、、ん?ギノ帝国ミルヘン国家官なんでしょうか?」
テルワ連邦国国家官テラジア=ワイゼンがすすめているところにスタック=ミルヘンは異を唱えるように手を挙げ遮る。
「はい、その話よりもお聞きしたい事が。どうやらダステル国の戦士団が魔人種討伐に行ったきり帰ってこないそうですが全滅したと考えてよろしいのですかな?スフィアさん?」
ミルヘンはニヤッと笑いながらその細めた目をダステル国国家官ミラー=スフィアに向ける。
「それは、、現在捜査中です。確実な事がまだわかりませんので」
スフィアは心許なさそうに目を下に伏せる。
「そうですか。報告だけはよろしくお願いしますよ」
そう言うとどうぞと譲るように手をワイゼンに差し出す。
「で、ではそのことに関しては私どもの方でもネクルサス様にお聞きしておきましょうか?」
ネクルサスとは人種が信仰している唯一の神である。ネクルサスは実在し全知全能であると言われている事から度々このようにお話を伺う事がある。これを『神義(しんぎ)』という。
「あ、ではお代はダステル国の方で、、」
「当たり前です。」
渋々決断するスフィアの言葉をミルヘンは遮る。
「なぁ、ミルヘンもダステルを目の敵にするのはやめろよ。見苦しいぞ」
最後に口を開いたのはステバン国国家官メルクス=ネクージャだ。やれやれというように首を横に振っている。ミルヘンはどうも納得がいかないという様子である。
そんなあまり実りのない会議は月に5回程行われている。最後に飛ばされた農作物の話を終え会議は終了のはこびとなった。
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