第6話 ダステル国

 ヴェスターでの一件があってから5日の時が過ぎたダステル国の王宮は少し騒がしくなっていた。

「まだ帰ってこないのか?片道4日もかからんのだろう?他国とのいざこざも考えねばならんのに何を道草くっとるのだ?」

ダステル国国王ミエナル=アーサラスである。帰ってこない自分の戦士団に対して苛立ちを覚えているようであたりに立つ戦士団を睨みつけていた。

「申し訳ございません陛下。只今情報も入ってきていないため何かしらの事件かまたは、、」

そこでダステル国戦士団長であるヴィラ=コーナーは言葉に詰まる。まさか自国の王に対し全滅した可能性もあるとは簡単に口にできない。それを見たアーサラスはひとつため息をつき目を瞑る。

「念のためだ国内で不思議な動きを見つけ次第報告を怠るな。」

そうして帰ることのない部下をアーサラスは待ち続けていたのであった。


同刻、ダステル国首都イル・イラス門前ではテトラとチャイカが入都に向けて行列に並んでいた。テトラは見た目は人種であり問題は無いがチャイカはそうはいかない。テトラの幻影魔法によって他の人種からは普通の人種として見えている。行列は9割が人種で構成されており残りの1割はその人種が連れる他種の奴隷が占めている。

「ほんまに、奴隷奴隷って人種は他種族をなんやとおもってんねん」

チャイカはその怒りをなんとか顔には出さずに耐えていた。その姿をテトラは努めて見て見ぬ振りする。しかし内心はテトラも同じだ。400年前も奴隷と呼ばれる者は確かに存在していた。しかし見る限りその数は大幅に増加していると言えるだろう。チャイカ調べによるとこのダステル国は他の国から見ても奴隷が多く奴隷商も多く見受けられるそうだ。そうこうしている内に2人の番になる。

「はい、身分証はお持ちですか?」

門番の1人が声をかけてくる。その問いにテトラは答える。

「すみません旅の商人なんですけど野宿している時に置き引きにあってしまい手持ちが何もないんですよ。」

申し訳なさそうな表情を浮かべるテトラに門番の男は浮かない顔をしつつチャイカに目をやる。チャイカは何も言わずにただ首を縦に振っている。

「まぁいい、変な事は起こすなよ」

(おこさないわよ。しかしこんなに簡単に入れるなんて門番の意味ないわね)

2人は意気揚々と中へ入っていく。

「なぁテトラ。情報収集ってどこにいくん?」

ふふっとテトラは笑うとスタスタと歩き露店のおじさんと話をしたかと思えばそそくさとチャイカの元へと帰ってきた。

「え?え?なんや?どゆことや?」

チャイカは訳わからないという風に尋ねるがテトラは「こっちよ」と一言だけいうとまた歩き始める。仕方なくチャイカはその後ろを歩きついていく。


「ここよ!」

少し歩くと立ち止まりテトラは指を指す。そこは酒場だった。

「情報を聞くには冒険者に聞くのが一番よ!そして昼間の酒場は情報の宝庫なの!元冒険者が言うんだから心配無いわよ」

テトラは目からは強い力をチャイカは感じ取っていた。

(なんや?、、まぁウチは人種のことはよぉ分からんからなぁ。とりあえずついていくかぁ)

カランカランという音を立てて中へ入ると一瞬中にいた人たちの視線を一心に浴びる事になる。店の前から大きな声と笑い声がきこえていた事からなんとなくチャイカは察していたが2人が席についたころにはテトラの声が聞き取りづらいくらいの賑わいを見せていた。

「おい、聞いたか?魔人種討伐に行った戦士団が帰ってこないらしいぜ?」

隣の席から何やら魔人種の話をチャイカは耳にする。

「この酒場ではその話で持ちきりだぜ?はっ今更魔人種に負けるなんて情けねぇぜ」

もうひとりの男はヘラヘラ笑いながらに話している。チャイカの拳は硬く握られ今にもその席を立ちたそうにしていた。それを止めているのは一重にテトラの魔法のおかげと言える。"次元束縛(ディメンションチェーン)"椅子から伸びた鎖により縛りつけられていた。そのままだと鎖が丸見えなためそこに透明化の魔法を重ね掛けしている。チャイカからしたら窮屈極まりないがこれを解けば大暴れするのは目に見えている。

「ほらチャイカ。後もう少しだから待ってなさいって」

はぁとため息をするとテトラは答える。それを聞いたチャイカは首を少し傾げた。それもそのはず店に入ってからというもののテトラは何もしていないと言って良いだろう。最初に頼んだお酒一杯をちびちびと飲んでいるだけだ。何か言いたげな表情をチャイカが浮かべるとテトラは口元に人差し指を当てる。

「よぉ、ねーちゃんたち。この街は初めてかい?」

そこに現れたのは2人組の男。その顔に不敵な笑みを浮かべていた。

「そうなのよね〜だからこれからどうしようかと思ってたところよ」

いかにも待ってました!というようにテトラは静かに確実に食いつく。

「おほぉ、じゃあ俺たちと少し遊ぼうや。俺の名前はワイゼ。んでこいつがビレードだ。いい店紹介するぜ」

ワイゼとビレードの顔はほのかに紅潮している。その分かりやすさにチャイカは少し呆れる。

「ほんとー!?助かるよ!それじゃあ、、ここじゃなくて外で話さない?」

テトラは艶かしく2人を誘う。その姿にチャイカも頬を赤らめる。

(なんでチャイカまで、、)

テトラは目を細めチャイカを凝視しすぐさま笑顔を作ると席を立ちテトラ、ワイゼ、ビレード、チャイカの順で店を出た。

店を出るときにチャイカは少し違和感を抱いた。それの正体は見当もつかない。

「よし、ここでいいわ」

皆が店を出た事を確認してテトラは2人に告げた。

「え?いやでたばかり、、」

「え?もっと人通りの少ない、、」

2人の男は困惑する。しかしそれはチャイカも同じであった。ふとチャイカは通りすがりの人種にぶつかりそうになる。いやぶつかったはずだ。その人種はチャイカの身体を通り過ぎた。避ける事なく通り過ぎたのだ。

「"次元の裂け目(ディメンションクラック)"ここは少し次元のズレた世界。ここでは互いに外と中を干渉することは出来ない。私の世界へようこそ」

そう言い終えるとテトラは鋭利な身体を発動しワイゼとビレードの片腕を切り落として見せた。

「さぁ、知ってる事を答えてもいましょうか」

うずくまるワイゼとビレードの上を人たちは無情にも通り過ぎていった。

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