第4話

放課後、僕たちは部室に向かった。

僕たちと言うのは、詩織、先生、僕の三人だ。

部室の三階に上ったときに、仁先輩と詩穂先輩が部室に前に立っていた。

カギでも開いていないのか?

僕たちは、そのまま、歩いて行った。

「どうしたんですか」

「あ、‥‥ああ、実はこれ」

と僕が話しかけた時にやっと僕たちの存在に気が付いた二人。

そして、仁先輩は部室の中に視線を送る。

僕たちもつられて視線を部室の中に移す。

「‥‥!」

僕は言葉が出てこなかった。

「何これ」

「え、え、ちょ、な、な、え、え⁉」

詩織はその景色を見て、言葉を零していたが、先生は驚きのあまりに、何も言えていない。

「酷いな」

仁先輩も言葉を零す。

その景色とは、部室のかはそこまで綺麗ではないが、さらに汚く、荒らされていた。まるで、誰かがこの部室に盗みに来たかのようだ。

僕は靴を脱いで、部室に入った。

僕は現場を写真を撮った。荒らされ方から、何かを探していたような感じだ。

いろいろな資料を閉まっていた、段ボールが空になるほど、床に散らかっている。

仁先輩も写真を撮りはじめた。

「春樹後輩、ちょっと来て」

僕は仁先輩に言われて、現場を荒らさないように仁先輩の元へ行く。

「これ、どう思う?」

それは床に散らかった、紙に靴の足跡がくっきりあった。

「男性で、身長は一七五cm程度なのが推測できますね。それにこんなにいい靴は教師しかはかない。犯人は男性教師ですね」

「だよな。俺もそう思う」

この紙以外にもいろんな紙に足跡は残っていた。

僕は一通り写真を撮り終えたのて、スマホに向かって

「智菜、さっき取った写真で気になるとこ、犯人の目星を付けられるか?」

と言った。だが、智菜は出てこない。

バグでも起きたのか。

「「そういう事か」」

僕は智菜がなんで、起動しないのか理由が分かり、そして、犯人も分かった。

それも仁先輩も同じのようだ。

僕は床に散らかった、資料拾い集める。

「え、片付けるの⁉」

詩穂先輩は驚く。

「ああ、もう事件は解決した」

仁先輩も拾い集めだし、詩穂先輩に言った。

そして、三〇分程度経過した。

「大体、こんなもんかな」

とさっきより綺麗になった部室を仁先輩は見渡す。

「そうですね。じゃあ、そろそろ、事件の事を教えますよ」

僕がそういうとみんなは、部室の真ん中にある、円い机を囲う様に座る。

「まず、今回の事件の原因は先生にあります」

「え、え、わ、私⁉どうい事ですか⁉」

先生はすごく焦っている。だが、僕は続けて

「先生、最近困った事とかありませんか。特に教師との間で」

先生の方はギクッと驚くように震えた。

「ええっと、言わなきゃダメですか」

「別に構いません。先生は、最近ある男性先生に付きまとわれていると思います。そして、先生はその人、今はAさんにしましょう。Aは先生に好意を抱いていた。けど先生はその好意を受け止めなかった。すべて断った。そして、今日、Aにとどめを刺すことを言った。

それは、修正部がやむを得ないときに使う、機密資料の事を言ってしまった」

「結局全部言うんですか‥‥‥」

先生は暗くがっかりしていた。

「先生は最初から犯人が分かっていた。だから、あとで一人で解決しようとしていたが、俺たちが分かってしまった」

仁先輩が先生に言う。先生の心には大きな刃物が心にささる。

精神的に重症だろう。

「そろそろ、出てきたらどうですか?」

「え?」

「え、出てって、え⁉」

「そういう事ね」

「なるほど!さすが仁!」

仁先輩の言葉で修正部員が騒ぎ始める。

だが、部室に修正部以外の人間はいない。

隠れて、その場をやり過ごすつもりかもしれない。

僕は立ち上がり、ロッカーからほうきを取り出して、段ボールの近くに行った。

そして、段ボールを思いっきり、ほうきで叩いた。

バン!

「どわ!す、すいません!」

と低めの声が部室に響く。

「やっぱり、あなたが犯人ですか。森先生」

仁先輩は森先生を睨む。森先生は仁先輩の視線を感じて、ビビっている。

「で、どうする。これ以上先生を付きまとうなら、俺たちはあなたをセクハラで訴えますが」

僕は仁先輩とまでは言わないが、森先生を睨む。僕はしつこい男は嫌いだ。

男なら、振られたら、そこで終了。そこからはちゃんと切り替えるべきだと僕は思う。まあ、現実そう、うまくいかないだろう。

「すいません、勘弁してください!」

と言いながら、森先生は走って逃げ行った。

「何なんだ?おい、さっき、誰か走っていったぞ」

と拓斗先輩が部室に来た。今日は休むつもりだと僕は思っていたけど、違ったようだ。

「あれは森先生でしょ」

と聞き覚えのない優しい声が僕の耳に入ってきた。

すると拓斗先輩の後ろから、拓斗先輩より、身長は小さいが、それでも僕より大きい。だけど、細くてとても容姿がいい。

その女子生徒は拓斗先輩の腕に抱き着く。

僕はそれを見て、すぐに分かった。

拓斗先輩の彼女、木村陽那花先輩だ。

「こんにちは。修正部の皆さん」

「あ!陽那りんだ!」

詩穂先輩が言う。それにしても、なぜ、詩穂先輩は女子の名前の語尾に何か言い付け足すのだろうか。謎だ。

「あの、今日、私のお父さんが皆さんに話が有るそうです。時間大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫です‥‥が‥‥‥聞いていたのとは全然人が違う。拓斗先輩と付き合っているのが謎なくらい、良い人じゃないですか!」

「おい!微妙に俺のディスるな!」

僕が思わず声に出してしまって、それに拓斗先輩がツッコミを入れてきた。

それを見ていた木村先輩は

「ふふふ、仲がいいね。今日は拓斗を借りてもいい?」

といつの間にか、拓斗先輩の腕から離れていた手をまた、拓斗先輩の腕に抱き着き、少し大きい胸に腕を押し込んでいるのが分かる。その胸の感触を腕で感じたのか拓斗先輩は顔を赤くしていた。

「ああ、いつでも、連れていけ。今日は沢山、行ってこい」

「ありがとう、仁君」

「あ、でもゴムは忘れずに」

「わかっとるわ!って、やる前提に話すな!」

いや、やる気満々じゃねぇか。やべえ、変態の塊でしか見えなくなってきた。

「大丈夫です。ちゃんと持ってますから」

と木村先輩は言う。持っているなら、大…丈‥‥夫⁉

「いま、持っているんですか⁉」

思わず僕は口にしてしまった。

「冗談ですよ」

いや、冗談にもほどが有るような、無いような‥‥‥複雑。

そうして、二人は仲良く、イチャイチャ帰っていった。

木村先輩からの伝言の木村刑事との話は部活が終わった後だから、それまで僕たちは、部室の片づけをした。

「そういえば、なんでお兄ちゃん、森先生がここにいるってわかったの?」

と詩織は片付けながら聞いてきた。

「ああ、それは智菜だよ。智菜は俺たち以外の人間がいると起動しない仕組みになっているって言っていたからだよ。だよな、智菜」

『はい、そういう事です』

「ああ、そうだ。さっきの写真をファイルにまとめて僕のPCに送っといてくれるか?」

『了解です』

そう言って、智菜は画面から消えていった。

それから、一〇分程度、片付けを続けていた。部室は元通り、綺麗ではないが、初めの時よりましになった。

「あ、あの~」

と入り口から声が聞こえる。

「修正部の部室ですか?」

と入り口には男子生徒と女子生徒がいた。

「そうだよ!」

と歓迎している詩穂先輩。

「依頼があります」

と男子生徒は強く言った。その声は何かにずっと悩んでいた事をやっと決意した声だった。

「わかりました。とりあえず、話を聞かせてください」

仁先輩は隅の置いていた、綺麗な椅子を二つ出した。二人はその椅子に座る。

そして、修正部全員自分の椅子に座り、二人の話を聞く姿勢を取った。

僕はひそかにスマホの録音を始めた。

「まず、学科、学年、クラス、部活動、名前を答えてください」

「俺は、普通科二年一組、長谷川幹弘です。部活は‥‥‥」

そこで彼は黙った。僕はなぜ、彼が黙り込んでしまったのか気になった。

だから、彼の体格、最近習得した、脈の速度を調べた。

彼の脈の速度は、正常の割には早い方、運動部なのが分かる。

体格は、そこまで良いとは言えない。球技系のほとんどが除外される。

そして、黙ってしまうほど、自信がない部活。

「ダンス部ですね」

僕は彼に聞く。

「え、は、はい、そうです。なんでわかったんですか?」

「まず、脈の速さが正常の時で、八〇前後。こんなに正常の時に速いって事は、運動部なのが分かります。そして、あなたはそこまで体格が良くない。野球や、サッカー、陸上などの部活をしていると、自然と体格が良くなるのに、あなたはなっていない。つまり、体格を必要としない運動。そして、人に言う事にためらいがある部活。それは、一度廃部した、部活、ダンス部なのが分かります」

僕はさっきの推理を彼らに分かるように説明をした。

「す、すごい」

彼は僕に驚く表情を見せる。それより、僕は話を進めたい。

「わ、私は、近藤紗千香です。同じく普通科二年一組。彼とは幼稚園からの幼馴染で今までずっと一緒にダンスをしていました」

「へ~、幼馴染なんだ。恋愛を感じるね~」

「‥‥‥!」「‥‥‥!」

二人は仁先輩の言葉で顔を赤く染めた。そして、僕は思う。

完全に出来上がっている、と。

彼らを見ていると、熱がこっちまで伝わってくる。アツアツだ。

そして、彼らはきっと、全世界の恋人がいない人から、恨まれるだろう。

「それより、話を」

僕が仕切り治す。仁先輩はずっと二人をニヤニヤと見ていた。

人の恋愛事情は興味津々な割には、なぜ自分の恋愛に興味がわかないのか僕にはわからない。

「え、ええっと、え、ええと――

と彼は何かに焦り始める。何に焦っているのか、僕は考え込む。

ああ、そういえば僕たちはまだ、自己紹介をしていなかった。

「すいません、言い忘れていました。僕は普通科二年二組、吉田春樹です」

「そういえば、自己紹介してなかったな。俺は国際科三年一組、梶野仁だ」

「私も国際科三年、小池詩穂だよ!」

「私は、国際科二年一組、清水唱よ」

「私は普通科一年三組、吉田詩織です」

「顧問の高橋京子です」

「あと、ここにはいないけど、普通科三年二組、伊藤拓斗先輩と、普通科二年二組、坂本太助の以上が修正部です」

僕は今いない人の分まで説明した。

彼はそれを聞けて安心していた。やはり名前が分からなくて困っていたんだ。

「話を戻しましょう。まず僕たちに何をしてほしいか、簡単に言ってください。僕たちは確実にその依頼に応じることはできません。今回は僕の予想が正しければ、力になることは可能です」

僕は彼らに言う。彼らは一回目を合わせて、頷いていた。アイコンタクトだ。

そして、二人は立ち上がって、頭を下げた。

「お願いします。ダンスの大会に一緒に踊ってください」

予想どうりだ。一度廃部になった部活のダンス部。人気もそんなにないので、部員は彼らの二人だけ。このままだと、また廃部する。だが、大会で賞を取れば、廃部は無くなる。だから、大会に出る。だが、大会に出るにしても人数が足りない。だから、修正部の僕らに依頼をすることにした。

「俺にはそれだけとは思えないけど。他に何か言う事があるのじゃないか」

仁先輩は二人を睨む。さすが鋭い人だ。僕には、そう考える事が出来なかった。

「‥‥‥梶野先輩の言う通りです。私たちの本当の依頼は、理不尽な審査をする人を、審査員を辞めさせることです」

審査員を辞めさせる。これは結構きつい依頼だ。審査員はその辺の人間とは違い、プロだ。そんなプロの人間を突き落とすには、僕たちの力じゃ足りないかもしれない。どうするべきか。引き受けて、やるだけやってみるか?リスクを背負った依頼。

「私がその依頼を引き受ける」

沈黙が流れていた部室に、声が響き渡る。そして、その場にいた全員が驚く。

その依頼を引き受ける修正部員は、清水だからだ。

「今回の依頼は厳しいぞ」

仁先輩は彼女に強く言った。

「分かっている。だから、みんなの力が欲しい」

清水はそう言って、立ち上がった。

「お願い、力を貸して」

そう言って、清水は頭を深く下げた。僕たちは理解した。彼女は今、僕たちに本気で力を求め、本気で依頼をない遂げるつもりだと。

「なら、引き受けて良いじゃないか」

仁先輩はそう言って、椅子の背もたれにもたれる。

「なら、話を進めましょう。まず、その人の情報を教えてください」

僕はそう言って、ノーパソを開いた。

「その人は、山崎十四郎っていう人です」

僕はその人間の名前を打ち、検索をした。

すると、山崎十四郎の情報が沢山出てきた。

「ダンスと言うより、音楽関係者か」

僕は調べていて分かったことを言う。

「山崎十四郎、四二歳。音楽の道を進み続けて三六年。小学生の時はピアノコンクールで金賞を取り続け、高校では、自分で音楽を作り、社会人になって、音楽編集者となり、音楽界では有名な人だそうです」

「なるほど、音楽家か‥‥‥。エサは決まったな」

仁先輩は僕たちに言う。

「エサ‥‥ですか?」

近藤さんは理解をしていないようだ。もちろん、長谷川さんも。

「まず、誰かを突き落とすには、その人の物で釣るんだよ。つまりエサ。今回だとこの人は音楽家。なら音楽で釣り上げる」

「なるほど」

納得をした、長谷川さんと近藤さん。仁先輩は今日は魚の気分なのか、いつもとは話に魚に関係する事ばかりだ。魚と言えば、今日の朝食は卵寿司だったな。

おっと、今は集中しないと。

「幸い、この中には、音楽に詳しい人が居るし大丈夫だろう」

「曲は自由ですよね」

僕は仁先輩の後に二人に聞いた。

「はい、曲は自由です。今ある曲を選んでもいいですし、作ることもできますよ」

と近藤さんが答えてくれた。

審査員の山崎は音楽家だから、エサは音楽。ならば

「「「曲を作ろう」」」

僕と仁先輩、清水の声が重なる。

「山崎の事は私もよく知っている。だから、これは私の復讐でもある」

清水は昔、この人に何をされていたんだ?

「で、でも、曲を作るなんて、そんな簡単な事じゃないですよ⁉」

近藤さんが椅子から立ち上がって、身を乗り出す。

確かに近藤さんの言う通り、曲を作るのは簡単ではない。

僕にはできない。ならば、出来る人に任せればいい話だ。

「大丈夫、詩穂はピアノで全国優勝してる」

「そうだよ!」

と自信満々に仁先輩の後に言う詩穂先輩。

「詩織も趣味で音楽を作って、ネットに上げたりしていた時期がある。評価も高評価だった」

「な、なんで知ってるの⁉」

と詩織は驚く。そういえば、詩織が曲を作っている事、今まで気づいてないふりをしてきたんだ。すっかり忘れていた。

まあ、今はどうでもいいや。

「私は元ボーカル、ウタミ」

と清水が言った瞬間、部室は凍るかのように静かになる。

なぜ、みんな黙り込んでしまったのか。それは彼女が『消えた、人気ボーカル。ウタミ』と初めて気が付いたから。先生も初めて知ったようだ。

「今は、ボーカルはやめた。今回は修正部として、歌う」

みんなまだ、硬直している。もちろん僕もだ。

「これは、一円も価値が付かない魚に、一万円するエサをあげるのと同じ。

確実に食いついてくるだろう」

仁先輩は冷や汗を流して言う。

「こんな身近に人気ボーカルに会えるなんて」

「紗千香、これは夢か?」

「今はボーカルじゃない。元ボーカルだから。みんなには秘密」

と人差し指を立て、口元に寄せて行った。

なんか色気がある。可愛らしい仕草に、口調。

普通の男子ならば確実に今ので恋に落ちてしまうだろう。

だが、僕には感情がないし、仁先輩は詩穂先輩で、清水には興味がなさそうな顔をしている。長谷川さんは、清水に惚れかけていたが、何とか踏みとどまったようだ。長谷川さんは一途な人で良い人だと僕は思う。

「ダンスは、俺は多少な知識はある。春樹後輩は?」

僕は仁先輩に聞かれたので僕は自分がどれくらい踊れるか考えた。

ダンスの知識は人より多いと思う。その自信はある。だが、実際に踊れと言われたら、踊れる自信がない。

「微妙です」

僕は苦笑いをして言った。そんな苦笑いをしている僕を見て仁先輩は、スマホを取り出して、急にボカロの曲を流した。

「これにリズムを合わせれ踊ってみろ」

と言われた。すでに曲は流れている。この曲は僕も聞いたことが有る。

曲は単調で、リズムが速い。ならば、激しいダンスが合う。

そんなことを考えているうちにサビ前まで来てしまった。

「このサビから、入って、一番の終わりまで良いぞ」

「わかりました」

僕は深呼吸をした。そして、サビに入った瞬間、僕は両手首を回し、左腕だけ、伸ばし、右腕は体に引きつけたままで、そして、左足を左に出す。そして、それを戻すと同時に、手首を回す。そしえ、戻した左手と右手をへその前でクロスにして、今度は右足を右に伸ばし、左に重心を掛ける。そして、それを戻して、気を付けの状態から、手首を回しながら頭の横まで上げて、手首を回しながらまた戻す。

そして、足を前に出したり引いたりした。

途中で曲が少し滑らかになったときは、足を、内またにしたり、がに股にして、横に動いて、曲に合わせて踊った。

そして、その歌詞に合った、動きを入れながら、ダンス踊り終えた。

「す、すごい」

「クラブステップ、私もできるけど、あんなに滑らかにできない。それに上半身も動かすなんて」

おい、ダンス部大丈夫か?そのクラブ何とかっていうやつは、僕は案外簡単にできたし、クラブ何とかっていう奴だけだと、寂しいだろ。

こんな感じじゃ、人気も出ないし、弱小部じゃないか。

「まあ、曲チームとダンスを考えるチームで分かれて、これから、やっていこう」

「あ、あの本当にいいですか?」

長谷川さんが何かを確認をしていた。僕らには全く、何を確認されているのか分からない。

「あの、ニュース、見ました。俺らなんかに時間を使って、本当にいいですか?」

ああ、なるほど。そういう事はあまり気にしないで依頼してくれ。

「と言ってるけど、春樹後輩」

と僕に話を振る仁先輩。だから、僕は

「僕たちは、まず学校や地域の小さな依頼を優先のしています。そして、時間があれば、そのことを考えようという風に決めたんで、気にしないでください」

僕は少し微笑んで言った。優しい笑顔っていうやつです。僕にはしっかり微笑んでいるか気になっている。

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

と二人は深々と頭を下げた。その時、下校五分前のベルが鳴った。

『下校時間の五分になりました。部活動の生徒は、部活動の片づけをしましょう』

と放送が入った。珍しい。いつも放送はさぼって、鳴らないのに、真面目な子が入部したのだろう。

「お、今日はさぼってない」

と仁先輩も僕と同じような事を考えていたようだ。

そして、僕たちは下校の準備をした。長谷川さんと近藤さんは部室にカバンを置いてるようで、修正部の部室を出て行って、帰っていった。

「さて、俺らたちにはまだ、やることが有るぞ」

「そうですね」

「頑張るぞ!」

「疲れた。春樹、鳥が食べたい」

「唱先輩、頑張ってください。あとでコンビニで買ってあげますから」

「私は、教師として皆さんと一緒に行きます」

とみんなで部室を出た。僕は部室にカギを掛けて、閉まっている事を確認して、修正部員と一緒に校門に向かった。

校門の周辺には、犯罪者のように待ち構えている、マスコミがいた。

まだ、僕たちの事を探りに来たのか。懲りない人たちだ。

「どうする?」

詩穂先輩が心配そうに聞く。

「教師用の出入り口を使います?」

「そうするしか、手はなさそうだな」

僕たちは校門とは少し離れた、教師用の出入り口を通って出た。

「お、来たか。さあ、マスコミが来る前に」

教師用の出入り口に待ち構えていたのは木村刑事だ。

僕たちは急いで、急いで車に乗った。

そして、僕たちが連れて行かれたのは、木村刑事の家だ。僕たちはその家にお邪魔させてもらい、木村刑事の部屋に入った。

「まず、これから、君たちに頼みたいことが有る。だが、この話は事件が解決するまで外部に絶対に漏らさないでくれ」

「わかりました」

代表で僕が言う。木村刑事は僕らを信用しているようですぐに話をすることになった。

「あ、そうだ。メモや録音とかしなくていいのか?」

と気を使ってくれた木村刑事。もともと、僕のスマホはダンス部の時からずっと録音している。

「じゃあ、遠慮なく」

と言って、僕はポケットからスマホを取り出す。

「いつから録音しているんだ」

「一時間以上前ですね」

木村刑事の質問に即答する。

「では、まず、この岸川市で殺人事件が起きたのは知っているな。しかもこの周辺と言うのも」

「ええ、それはニュースを見た時に知りましたよ」

仁先輩が答えた。ニュースに近所のコロッケ屋のおじさんがテレビに出てきたときにそれは、分かった。

「まずこれを見てくれ」

と木村刑事は僕たちにiPad(アイパッド)を渡してきた。

僕をそのiPadを受け取り、みんなで覗き込んだ。

画面には女性が映っていた。

「北里英子、二四歳、大学を卒業して今は就活中だった」

「この人が被害者なのね」

清水が言った。なんか清水が積極的に話に参加する。

「そうだ。発見されたときは、心臓にナイフが刺さっており、大量出血で死亡だと考えられたが、解剖したところ、胃に大量の麻薬が見つかった。そして、さらに調べると、被害者は、中毒死したのが分かった。ここまでで何か質問はあるか?」

「麻薬の形、色は何ですか?それと溶け具合と、いつ飲んだのかわかりますか?」

僕は木村刑事に質問をした。本気で事件を解決しに行くのならば、情報は多く集め、正確にまとめ上げ、推理をしないといけない。

だから、ここで今、事件の真相にどれだけ近づくのかが重要になる。

「麻薬は、カプセル型で、色は青と赤の二種類。解け具合はこんな感じ」

とiPadを何回かスライドして、見せてくれた。

カプセルはそこまで解けていないが、中身が漏れているのもある。

「私も見せて」

と詩織も覗いてくる。

「詩織は見るな。先生も」

僕は近づいてくる詩織に言う。先生は初めから話を聞かず、ただいるだけの状態だった。

「なんで?」

「春樹後輩は、詩織君のために言っているんだ。素直に聞いておこう」

仁先輩が詩織を説得してくれた。

その写真は詩織には見せられない。

この写真を見た時の僕の感想は、なんか複雑だ。

なんか気持ち悪いのか悪くないのかよく分からない。

これの原因はカプセルの色だろう。青と赤の色がバラバラに散らばり、顔が沢山あるように見える。つまり、シミュラクラ現象、日本語で類像現象と言うものだ。

これは詩織と先生には見せない方が絶対にいいな。

もう、何度見ても顔にしか見えない。

「それで、その麻薬は、被害者の死亡推定時刻内なのが分かる。ただ、それ以上は私にも分からない」

いや、そこまで分かっているなら、充分だろう。

「話を進めて」

清水は真剣に木村刑事を見て言っていた。

「ああ、そしてここからは世間には公開してない情報だ。あの事件の翌日、同じく岸川市の北区のある一軒家から死体が発見された」

僕が持っていた木村刑事のiPadを木村刑事は取り、スライドしたりタップしたりした後、僕たちにまた渡してきた。僕はそのiPadを受け取り、画面をみんなで見た。

「彼女は、金子夏樹。二〇歳。西区にある、岸川音楽大学の生徒で、彼女は一週間前から行方が分からなくなっていた」

「質問良いですか?」

仁先輩が手を挙げながら言った。

「どうした」

「その被害者の実家はどこなんですか。実家から出てきた人なら、なぜここ、北区で遺体が発見されたのかおかしいと思うのですか?」

確かに、仁先輩の言う通り、実家から学校が通えないなら、学校に近くに住むはず。

だが、被害者は学校とは程遠い北区で遺体として発見された。

「そうだ。その話はあとにしよう。被害者は胸部にナイフで一刺しされて――

胃には、アパートの被害者と一緒の青と赤のカプセル型の大麻が出てきて、中毒死した、ですか?」

僕は木村刑事のいう事を先読みして言った。

「そうだ。殺され方が同じってことは、犯人も同じなのが分かる。そこまで私たち警察も分かっているんだ。そして、さっき仁君が言ってくれた事は確かに変だ。

だが、遺体があそこで発見されたことで、疑わしい人間が出てきたんだ。

その前に、被害者の実家だね。被害者の実家は西区、大学の近くだ」

これは複雑の事件だ。西区の人間が理由もなく、北区なんかに来ない。理由と知るなら、知り合いに秘密にしている事がある。それをするには知り合いがいない北区に来る。それと、誰かに会うために北区に来た。この二つが被害者が北区に来る理由になるだろう。

「そして、なぜ被害者は北区で発見されたか。それは被害者が交際相手に会うために北区に行った」

「その交際相手が発見された家の家主、ってことですか?」

仁先輩が木村刑事に尋ねる。僕も仁先輩と同じ考えだ。

「そうだ、名前は安藤正治、二六歳だ」

六歳年上の人と交際相手って、なんかすごいような気がする。

「安藤は、去年から音楽編集者として働き、成績もそこそこある人間だ」

音楽編集者か。ここでも、音楽って、僕は音楽に呪われているのか?

音楽編集者‥‥‥もしかしたら、山崎と関係があるのか。

「そして、容疑者はもう一人いる。安藤の同僚の柴田宗助だ」

なるほど、容疑者は二人。山崎とは関係がないようだ。

「柴田は、被害者二人と関りはある。一人目の被害者とは交際関係であり、二人目の被害者とは交際を申し込んで断られた。つまり、好意を抱いでいた人間だ」

なんとも複雑な関係な気がする。それでなんで自分の彼女と断られてた人を殺すことに至るかすごく気になる。

「だが、二人とも身元を調べても、大麻は検出されなかった」

「大麻とは一切関係がないという事ですか⁉」

仁先輩が驚いていた。自分なりの推理をしていたが、全く違ったようだ。

木村刑事が言っていた事が正しいなら犯人は別にいると考えなければならない。

「それに二人は、犯行時間は居酒屋に行っていたアリバイがあった。店内の防犯カメラに二人の姿があった。間違いない」

「選択肢がだいぶ絞られたな」

僕はつぶやく。二人は大麻と全く関係がない。そして、アリバイもある。

つまり犯人を見つけるには、二人のアリバイを崩す。または、二人に関係があり、恨みがある人間を探し出す。

「これでは、事件が一向に進まない。だから、私たちは別の人間も調査をした。

だが、無駄足だった」

まさに謎に包まれた事件だ。

「この殺し方、何を意味しているんだ‥‥‥」

仁先輩の声は真剣だった。そして、この場を長い沈黙が続いた。

それほど、僕たちには手も足も出ない事件だ。



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