第3話

僕たちは学校に行くために山を下っている。機械があるが走った方が速いのでみんなで走っている。

「あれ、ほぼ飛んでるのと変わらないだろ!」

と地面を走る拓斗先輩が、僕たち、詩穂先輩、仁先輩、詩織、先生を抱えた僕は木の上をぴょんぴょん飛び跳ねて、前へ前へ木の上を走る。

「まあ、速度は地面とそこまで、よっと、変わらないからいいけど」

と地面に転がっている障害物を飛び越えながら言う拓斗先輩。

その隣で黙って走る清水。

「なんか、昔のアニメでこんなシーンがあったような気がする」

「あー、あれ最後の方感動したよね!特に先生を殺す前の出席確認と殺した後のみんなが泣くところ!私も泣いちゃったよ!」

そのアニメ、何年前の作品だよ。いや、僕も見たけどさ。まだ、感情があったときに見て、大泣きした覚えがあるよ。とっても良いアニメだったからな。

本当に何年前だ?今が二〇四二年だから、二〇一五年にアニメ放送したから、二七年も前のアニメじゃないか。

数字に現わすとアニメってすごいな。こんなに時がたっても昔のアニメでもどこかで存在し続けるなんて。

まあ、僕は父さんが懐かしそうに見ていたの一緒に見ていただけだけど。

昔でも絵はやっぱり綺麗だった。でも現在の方が微妙に綺麗だな。仕方がない。なんせ、人間が科学を覆すような事を出来る人が出てきているから、仕方がない。

「お、学校が見えた」

「っていうかどうやって入るの?あそこ扉何てないし、塀は二五m以上は絶対あるわよ」

僕に抱えられている先生は心配になって言う。

「先生、出入り口何て無限なんですよ!」

と言いながら仁先輩が木を思いっきり蹴って、壁を軽々と超えて行った。

「私も、いっくよー!ほい!」

続けて詩穂先輩も壁を軽々と超える。詩織も同じように軽々と壁を越えて行った。

僕は先生を抱えたまま、塀のを背にして、地面に下りた。先生は一旦、下ろして、バレーのレシーブをするような構えをして、

「春樹!行くぞ!」

と拓斗先輩が僕の方へ走ってきた。そして、拓斗先輩は地面を蹴って、僕の手に飛び込んだ。僕は両手に載っている拓斗先輩の足を思いっきり上げた。逆に拓斗先輩は僕の両手を踏み台にして、高く飛んで塀を飛び越える。

清水は僕の補佐なしで地面から塀を飛び越えた。おっかない‥‥‥。

まあ、僕もするのだけど‥‥‥。

「先生、失礼します」

僕は先生をお姫様抱っこ(?)をして、壁から距離を取った。

「ここから飛ぶの⁉吉田君は良いかもしれないけど私は本当に――

「しっかり捕まってください」

僕は先生の話など無視をして、壁に向かって走った。

壁との距離が五m程度のところで思いっきり地面を蹴った。

「いやーーーーーーー!」

先生は悲鳴を上げる。まるで先生は今、絶叫マシーンに載っているような感じだ。

僕は先生を抱えていながら、塀を軽々と飛び越えることが出来た。

僕と先生は塀を超え、今度は地面に向かって、‥‥‥落下。

「いーーーーやーーーーーーー!」

先生はすごい悲鳴を上げる。女の人らしい。

僕は後ろにある塀を、地面との距離八m程度のところで蹴った。

速度は減速して、見事、無傷で着地。

「いやー、学校に行くのがこんなに楽しいなんて思いもしなかったよ!」

詩穂先輩は満足そうに行っている。

「それな、こんな登校の仕方んてめったにしないだろ」

「私もこんな登校なんてしたことないよ」

仁先輩と詩織はなんだか嬉しそうに言う。

「これが数日間続くって考えるとなんか気分がいいな」

背伸びをしながら言う拓斗先輩。

『春樹様から、景色を見させてもらいました。春樹様の最速の時速は、四七・八kmでした。普通の人間では、不可能な速度ですね』

智菜は微妙に僕らの心に傷を付けてくる。

仕方がないのだ。人間が科学を超える、作りに進化してしまったのだ。

進化と言うのは大げさかもしれない。でも、人間の細胞は人間の物ではなくなってきている気がする。

「おい!先生、失神してるぞ!」

拓斗先輩がまだ、僕が抱えている先生は口からほとんど魂が抜けたような感じだ。

並みの人間が耐えれない速度ではないから、重症ではないだろう。

『ご安心を。あと数秒で目を覚ますと思いますよ』

智菜は僕のスマホからみんなに言った。僕たちは先生に注目した。

先生は、

「はっ!私‥‥生きてる」

と寝ぼけたことを言う先生。

本当に目を覚ました。でも、なんで目を覚ますなんて分かるんだ?AIはやっぱりすごいな。

「吉田君!もうちょっと加減してください。私死ぬかと思いました!」

先生は僕に文句を言う。文句を言われて仕方がないことなのか、僕には全くわからない。まあ、どうでもいいや。無傷だし。

「じゃあ、俺らはこっちだから」

そう言って、仁先輩、詩穂先輩、清水は国際科の校舎に向かって歩いて行った。

そして、他のメンバー、僕、拓斗先輩、詩織、先生は普通科の校舎に向かって歩いて行った。

今日は快晴。まだ、高くに上っていない太陽は春っぽく、心地よく暖かい光が僕たちを照らす。

今日はお昼の授業はこの暖かい日差しにより、眠りの時間になるだろう。

「吉田君、私の授業は寝ないでね」

先生は僕が何を考えているかお見通しのようだ。

そういえば、午後社会と理科。なら、五時間目で思いっきり寝てやろう。

「それにしても、先生何か楽しそうですね」

拓斗先輩は先生の足取りや表情を見て言った。確かにあんなことが有ったばかりなのに、なぜか上機嫌だ。

「ふふふ、‥‥詩織ちゃん!私と勝負をしましょう!」

と先生は詩織を指で指す。指を指された本人はキョトンとして

「勝負ですか?」

余裕そうなそぶりをしている詩織。

「そう、内容はいたって簡単。今日、小テストをします。詩織ちゃんが満点を取れば、今日の昼ごはんは私が奢って上げる。けど、もし満点じゃなかったら、私にお昼を奢ってね」

あー、これは完全にご飯が目的だな。金欠気味で楽をしようとしているな。

生徒にご飯を奢ってもらう教師なんて見たことも聞いたこともない。

何て、最悪な教師だ。

けど、勝負を申し込んでくるって事は難問をそろえているっぽいな。

まあ、詩織は余裕だろう。

「なら、先生はご飯。私は部費をお願いします。それなら、その勝負受けます」

「言いましたね。あとで後悔しないでくださいよ」

と小悪魔京子先生が表に完全に出ている。なんて、人なんだろう。

「ちなみにどんなテストか見てもいいですか」

「ええ、学年が違うから二人は良いわよ」

拓斗先輩はテスト問題を先生から受け取った。

僕は拓斗先輩が手に持っているテスト問題を見る。

「これは、難しいな」

「確かに、平均一五点くらいだな」

小テスト、普通のテストとは違い、五〇点満点だ。

問題はどれも難問。普通のテストじゃなくなっている。

僕らからしたら、そこそこくらいだが、詩織はどうだろう。少し心配にはなる。

「先生、僕たちがどっちが勝つか予想します。それで予想が合っていたら、僕たちの言う事も聞いてください」

「うーん‥‥‥まあ、いいわよ」

とオーケーされた。これは部室に革命が起きそうだ。

「お、春樹。もう勝つ前提で想像を始めているな」

「はい、もう部室に革命が起きますよ」

僕は理想の部室を想像した。部室は汚くて、塗料が劣化して、とこどころ塗料がはがれているところが有ったりて、本棚一つないので、常に散らかっている部室が綺麗な場所へBifor after(ビフォーアフター)だ。

「はい」

と僕たちは先生に小さな紙きれを渡された。僕たちはその場で名前を書く。

「これは詩織が持っておきな。先生は何かズルをしそうだし、詩織は勝負事は何事にも本気で、ズルなし正々堂々と戦う性格だから大丈夫でしょう」

僕は詩織を信用して、拓斗先輩の半分に折られた紙きれと僕の半分に折られた紙きれを渡した。

詩織はそれを受け取ると、生徒手帳にしまっていた。

「さて、もうすぐHRだから俺は先に行くわ。陽那花も待ってるだろうし」

「はい、また後で」

「廊下は走らない!」

先輩は走って、自分の教室に向かって言った。

詩織も同じように、僕も自分の教室に向かう。先生は職員室に行った。

僕はいつも通り、賑やかな教室に入る。

ガラガラガラガラガラガラ!引き戸の教室のドアは賑やかに音を立てて開く。

その瞬間、教室の空気が凍るように静まり返り、みんなが硬直したように僕を見て、沈黙が流れる。

何だろう、こう感じ。いつもなら、僕の事など気にせずに話をしているクラス。違和感しかない。

僕は五、六個ある人の塊の中の一つの塊が囲う机には雑誌が見えた。

ああ、何となくわかった気がする。

「よー!春樹。お前何いっちょ前に雑誌に載ってんだよ!」

と肩を組む、大地。相変わらずの力に大きな体格が僕を締める。

微妙に苦しいこの感じ、中途半端で何か嫌になる。

「凄いね。雑誌に載るなんて。しかもほとんど、吉田君が解決したんだって?」

山本が僕の前に立って言う。それにしても、クラスはみんなその話で持ちきりなのか?

「ねぇねぇ!先生と同棲ってホント?」

とクラスの誰かは分からないが意味不明な言葉が僕の耳には聞こえた。

「この前、先生が吉田君の家に入っていくのを見たんだって」

「ほんとに⁉どうなの、吉田君」

誰かも分からない女子に次々に聞かれる。

「それは嘘だ。それにうちは修正部限定の下宿だ。先生はその監督として、時々顔を見せるだけ。それと会議に時にも顧問はできるだけ参加してもらう様にしているんだよ。会議室が僕の家で、たまたま、誰かが先生が僕の家に入っていくのを見たのじゃないか」

僕は事実を言いながら誤魔化す。厄介ごとは避けたいと僕の心が叫んでいるような気がしたから、僕は誤魔化し続ける。

「それより、これって一年の吉田詩織だよな。お前の妹だったのかよ」

詩織の話になると僕は火が付いてしまう事にクラスのみんなは知らない。

「ちょう、可愛いよな。今度紹介——

「はぁ?誰が僕の妹に手を出させるか」

名前の知らない、男子が最後まで言葉を言い終わる前に僕は青の男子を睨みつけ言った。

「春樹、お前シスコンだな」

「シスコンだね‥‥‥」

大地と山本は僕を引いた。なぜ、みんな僕の事をシスコン扱いになる。あの純粋で容姿、スタイルともに完璧。成績優秀の妹だ。その兄になってみろ、僕の思いは誰でも理解できるはずだ。

「言いたい事は沢山あるけど、これだけは言わせて。僕はシスコンではない」

「いや、シスコンだろ!」

即答された。やはり、僕は他の人間からはシスコンにしか見えないのか。

傷ついた気がする。


昼休みになった。僕たちは食堂でご飯を食べていた。

「先生、ご飯中ですよ」

僕は先生を指摘する。何に指摘するかと言うと、先生のテンションの暗さが半端じゃないからだ。

「な、なんでこうなるの‥‥‥なんで、あの問題が解けるの!」

「ああ、それ、僕が教えましたからね」

僕は先生の疑問を即、解決させる。

「なんで、吉田君はあんな問題が解けるの!」

「一級合格してますからね」

またしても、先生の質問に即答する僕。そして、僕は卵サンドを食べる。

「約束通り、先生、部費、お願いしますね」

詩織は今も落ち込む先生。よっぽど自信があったようだ。

だが、その自信は一瞬にして覆される。

「詩織ちゃん、あれ貸して」

拓斗先輩が詩織に何かを求めた。僕はすぐに分かった。

詩織は生徒手帳を内ポケットから出して、紙切れを出した。

「先生、分かっていると思いますが、これも忘れずに」

紙切れを先生に渡す。先生はその紙切れを受け取って、半分に折られているものを広げた。

「な、なんで二人とも詩織ちゃんが解けるってわかったの!」

「「僕(春樹)が教えた問題だからですよ!」」

僕と拓斗先輩は同じような事を言う。

「そ、そんなー‥‥‥」

先生はさらに落ち込む。

「部室が革命が起きますね」

「先生、お願いしますよ」

僕はあの綺麗な部室が綺麗になるだけでとても、気が楽になる。

拓斗先輩は先生に嫌味を言うように言っていた。

「う……うぅ‥‥」

先生はもう、気力を完全に失っていた。

そこへ席を外していた詩織が戻ってきた。

「先生、これ唐揚げ定食です」

先生に学食の唐揚げ定食を渡した。

「奢りですよ。その代わり、部費頼みますよ」

「がんはりまふ!んー、美味しい」

と女性とは思えないほどの速度で唐揚げ定食をたべていく。

唐揚げ定食は一瞬にして完食された。

僕は多すぎる量を、僕より小柄な先生が食べたことはいろいろな意味でやばい気がする。それと、学食の唐揚げ定食って

「先生、少しダイエットしませんか?」

拓斗先輩が言う。そ、それは女性に言ってはいけない&聞いてはいけない事、僕の中では五位。

「先生、それは私も賛成です」

「体脂肪とか気にならないのですか?」

先生の心にグサッ、グサッと何かが刺さる音が聞こえた。

「そういう、詩織ちゃんは体重何㎏?」

だー、それは僕の中で、女性に言ってはいけない&聞いてはいけない事ランキングで、二位に位置するものだ。

詩織は怒るのか。とても気になる。

「先輩、それ聞きます?」

「ああ、気になるからな」

「お兄ちゃんは何㎏何ですか?」

ギクッと僕の心臓が飛び跳ねる。僕は今は体重を聞かれたくない時期なのだ。

自分でも驚くくらいの体重になっていたのだ。

「ご、ごめん、今は答えられない」

僕は詩織に謝る。

「春樹、太ったのか?」

拓斗先輩の言葉が僕の心の向かって走ってくるが僕はそれを避けることが出来た。

普通の人間なら、体重が言えない=太った、と言う意味になるが

「痩せたの?」

今度は詩織の言葉が僕の心に向かって走ってくる。だが、よけることも、出来ず直撃した。

僕の反応を見て拓斗先輩は

「別に痩せたくらいでなんで、言えないんだよ」

「先輩、普通の人は健康診断前どうします」

詩織が拓斗先輩に聞く。なのに

「ダイエットをするぞ!」

となぜか詩穂先輩が話に割り込んできた。

他にも仁先輩、清水もいた。

「詩穂先輩、いつからいたんですか?」

僕が詩穂先輩に聞く時には詩穂先輩の姿は僕たちの前から無くなり、学食の注文口にいた。

移動が異常に速いな詩穂先輩は。

「さっき来たところだよ」

と詩穂先輩の代わりに答えてくれた仁先輩。

「じゃあ、俺らも選びに行くわ」

そう言って、仁先輩と清水の二人は学食の方へ行った。

「あ、俺は陽那花のところに行かなきゃならないから、それじゃあ、また後で」

そう言って、拓斗先輩は走って、去っていった。

「相変わらず、熱いね。拓斗は」

注文を終え、沢山の皿が乗ったお盆を持って帰ってきた。

「それで、なんでダイエットの話に?」

仁先輩が話を戻した。

「えっと、健康診断前って普通はダイエットとかしますよね」

「俺はしないけど」

「仁さん、一般の話です」

僕は仁先輩にツッコミを入れた。

「それが、お兄ちゃんの場合、健康診断前は沢山食べるの」

「つまり、健康診断前に体重を増すってことか‥‥‥つまり、どういう結論なんだ?」

最初から話を聞いていない仁先輩は聞き直す。

「それは、お兄ちゃんが痩せたのになぜ、体重を言わないのか。その理由を話していたんですよ」

「なるほど、で、何㎏なんだ」

理由を分かっていても聞くのか、仁先輩は‥‥‥。

「驚かないでくださいよ」

僕は決心した。そして、みんなに忠告をする。

「お兄ちゃんの体重、久しぶりに聞くな」

どこか嬉しそうな詩織。なぜ、人の体重を聞くだけで、そんなに楽しそうなのか。

「三六㎏で——

「すっくな!」

せめて最後の「す」まで言いたかった。それに仁先輩の声が学食のフロアを驚かせるほど声を響かせていた。

「そ、それは少なすぎるわ」

今度は小声で、でもはっきりと聞こえるように言う仁先輩。

「僕はいろんな生物の力を持っています。それを少し使うだけで、エネルギーを奪われてしまうのです」

僕は簡単に自分の体の事を話す。

この前の事件で目を草食動物のように遠距離が見えるようにしたため、体重はごっそり持っていかれた。

「あれ、でも仁もそのくらいの時あったよね。確か中学の時」

「あー、確か身長は今と変わらずで、体重が三九㎏の時があったな」

なぜ、そんなに呑気な事を言っていられるのか不思議で仕方がない。

「春樹」

僕の背後から声がした。振り返ると清水がいた。

「どうした?」

「あばさんが困ってるわ」

と清水の背後からは学食のおばさんが来ていた。

彼女の手にはうどんの入ったどんぶりをお盆に乗せて持っていた。

何んとなく分かった気がする。

清水は確か

「お金は払ったか?」

「お金って何?」

だーめだ!これもまた、ありえないくらいの常識のなさだ。あまりの常識のなさなのに学食のおばさんは、平然としていた。

「よし、まずうどんは何円したのか自分で聞こう」

「えんって何?」

「お金の単位だ。覚えたな」

「うん、聞いてみる」

彼女は後ろにいるおばさんを話を始めた。

その間に、僕は財布から、一円玉、十円玉、五十円玉、百円玉、五百円玉、千円札、五千円札、一万円札を一枚ずつ、財布から取り出し、机に並べた。

「聞いてきたわ」

ちょうど並べ終わったときに彼女は聞けたようだ。

「何円だったんだ?」

僕は彼女に尋ねる。

「三六〇円だって」

さすが学食、普通のお店より安いな。

「じゃあ、この中からどれを渡せばいいんだ?」

俺は机に置いてあるお金を指した。

「これは誰?」

お金の話をしていたのに、全く話が違ってきた。

「それは、渋沢栄一。一八四〇年から一九三一年の間に生きていた人で、その人は生きている間に約五〇〇もの企業の設立等に関わったと言われ、実業界で活躍した人だ。裏の絵は東京駅だ」

「じゃあ、これは?」

「それは、北里柴三郎で、ものすごい研究者で世界で初めて、破傷風菌の純粋培養に成功した人で、前の千円札に載っていた、野口英世の、あ、ちなみに野口英世は梅毒スピロヘータの純粋培養に成功した人で、日本の医師、細菌学者の人だ。で、その人は、北里柴三郎とどういう関係かと言うと、師弟関係というところかな。とりあえず、凄い人なんだ。そして、裏の絵は富嶽三十六景で、浮世絵師、葛飾北斎が描いた絵なんだ」

僕は、彼女の質問を細かく言ってしまった。

「じゃあ、こ

「Wait a minute! Let's do what we do first. That's the story」

(ちょっと待った!先にやることをやろう。話はそれからだ)

僕は英語で言えば彼女は話を聞いてくれると思い、頑張って英語でいった。

「All right, all right」(分かったわ)

話が通じたみたいでよかった。

「とりあえず、学食の人は、三六〇円欲しいと言っている、どれを渡せば残りの数が少なくなる?」

「これと、これとこれ」

と彼女が手にしたのは、五百円、五十円、十円の三枚だ。

「大正解。じゃあ、それを渡して、そしたら、清水はうどんを食べれるぞ」

「分かったわ」

そう言って彼女は学食のおばさんにお金を渡して、おばさんは立ち去って行った。

なんで彼女はこんなに常識がないのだ。

「春樹、これは私がもらっていいの?」

彼女の手には百円玉が二枚、乗っていた。さっきのうどんのお釣りだろう。

「ああ、あげるよ」

僕はたかが二百円でどうこう言うつもりはない。バイトだって、今月は多めにシフトを入れてある。困ることはよっぽどの事がない限り、大丈夫だろう。

「春樹後輩、最近、金欠でちょっと千円で良いから、頂戴」

と僕に手を指し伸ばす仁先輩。

「あ、俺も」

「私も!」

「私もです!」

とみんなの手が僕の前に伸びてきた。

「い・や・で・す!」

僕はきっちり断った。いくら全員分を渡せと言われると、困ることが沢山ある。

それに今月は、僕の好きな小説家の人の作品が出るって聞いたから、それプラスいつもどうり、五冊を買う。合計で六冊。僕の幸せのひと時はもうずぐ、訪れる。

その後、みんなでご飯を食べ、部室の話を少しして、僕たちは解散した。

午後の授業。五時間目の社会は、僕は夢のまた夢の世界へ行っていた。

その世界は、何もなく、ただ、永遠と続く無限の空間に一人で立っていた。

その空間は、想像するだけで、物体を作り出せたり、景色を変えたりできる。

まあ、それを何回も繰り返して、飽きるころには夢から覚めた。

「ああ、休み時間か‥‥‥」

時計は、一と二の間を指し、もう一本は九を指していた。時刻は一時四五分。

退屈な授業は終わり、次は先生の授業。今日はどんなボロが出るのか気になるところだな。

「お、起きてるじゃん」

大地が話しかけてきた。僕はそんな大地に返事もせず、背伸びだけする。

「寝ていて大丈夫なの?今回結構、難しかったと思うけど」

「そんなに難しいのか?」

山本がそんなことを言うから、少し焦ってしまった。山本でさえ難しいなんて、結構、珍しいぞ。

「うん、じゃあ、試しに問題だすね。秀吉の『小田原攻め』は真田氏のある城が北条氏に取られたことに起因したと伝えられているけど、その城は何?」

「名胡桃(なぐるみ)城だろ」

僕は山本の問題を即答する。

「なんで分かるの?この教科書、そこまで詳しく乗っていないはずなのに」

「ていうか、そんな事、言ってたっけ?」

どうやら、僕の今の知識で充分解ける問題のようだ。これなら、寝ていて正解だった。

「まあ、吉田君は頭がいいもんね。答えられても仕方がない」

残念そうな山本。

「吉田くーん。呼ばれているよ!」

と名前も知らない女子に僕は呼ばれた。誰かが、僕に用が有るみたいだ。

僕は黒板側とは反対のドアに向かった。

すたすたと進む足はすぐに止まった。

「春樹」

「なんで、ここに清水がいるの?」

僕は彼女に聞く。彼女は両手に美術の教科書を持っていた。選択科目を美術にしたのが分かる。

だが、今はそんなことはどうでもいいと思う。

それより、なぜ彼女がここにいるのかを知らなければならない。

「ここはどこ」

「おい、記憶喪失のシチュエーションをする気か?」

僕は彼女に思わずツッコミを入れてしまう。僕がツッコミを入れたのが原因で彼女は黙り込んでしまった。

「はあ、つまり美術室に行くつもりが、迷子になったのか?」

「うん」

彼女はコクリと頷いた。

「おい!春樹!その子は誰だ。お前、いつからリヤ充になっていたんだ」

「私は、清水唱よ」

彼女は大地に即答した。彼女は大地の話を最後まで聞くがないのが、さっきの即答で分かる。

「お前と、清水さんはどういう関係だ!」

そんな事も気にせず、大地は質問を続ける。

「私にとって、春樹は初めての人よ」

「は?」

僕は変な声を大きくはないが、漏れるように言った。

そして、クラスは静まり返った。

これは完全に誤解をされたな。

「春樹!お前、どこまで行っているんだ!俺を置いて、ずるいぞ!」

「いや、なんでそうなるの」

大地の発言に山本はツッコむ。確かにそこは僕も気になった。

「春樹が初めてでよかったわ」

さらに誤解を招くことを言う清水。そろそろ、黙って欲しいな。

「吉田君、本当なの⁉」

さっきまで、誤解だと否定してくれた山本まで、僕を疑い始めた。

「いや、誤解をするな」

僕は冷静に、ってと言うか、何も思う事が出来ないから、冷静だけど、とりあえず、言った。

「春樹は私に寝かしてくれた」

もう、ダメだ。完全に詰んだ。どんなに僕が言ってもこの誤解は消えないだろう。

というか、最後の言葉は僕にも理解が出来ない。私にって、前まで、寝かせてくれなかったのかよ。

「お、お前!何勝手に卒業してるんだよ!」

「誰が大切なものを簡単に奪われるか。妄想にもほどがあるぞ」

僕は僕の肩を強くつかみ涙目で言う大地に、言い返した。

「親は私を厳しい性格で、夜も寝かせてくれいことが多かったけど、春樹の家に来て、毎日平和に寝れているわ」

彼女は言った。それを最初に言って欲しい。だが、それだと、別の誤解が出来る気がする。

「あ、そゆこと。って、なんで同棲してるんだよ!」

「だから、僕の家は僕が卒業するまで、修正部の下宿先になったんだって朝言っただろ」

情緒不安定な大地。騒がしい。こんなことをしているうちにもうすぐ五〇分だ。

「みんな、騒がしいですよ、ってなんで唱ちゃんが⁉」

先生がちょうど、教室に入ってきた。そして、すぐに驚いた。

「あ、それより、吉田君。今日から、正式に吉田君の家が下宿先になったから、これ、志乃ちゃんに渡しておいてね」

と先生から、校長と教育委員会のハンコが押してある、紙をもらう。

正式って、本当に僕の家は下宿先になってしまったのか‥‥‥。

「唱ちゃんは美術室に行かないと、さあ、はやく」

と先生は彼女の手を引いて、美術室に走っていった。

僕は先生と彼女の背中が見えなくなったので、自分の席に戻った。

「一つ屋根の下で他人と過ごせるなんて、俺も修正部に入って、一般寮から出ようかな」

「来るな。今は満室だ」

来てほしくないのは本当なのだが、満室なのは嘘だ。

先生はすぐに戻ってきた。それにしてもベルがなかなか鳴らない。

時計の長い針は一〇を過ぎていた。

どうやら、いつの間にベルが鳴っていたみたいだ。

先生があの紙を渡してくれたおかげで、誤解は大体解けた。

さて、寝るか‥‥‥。

「あ、吉田君!私の授業は寝ないでって言いましとよね!」

とペンを投げてくる。

そのペンは僕に向かってきたが、途中で軌道を変えて、僕の右斜め後ろの大地に向かって飛んでいった。

そして直撃。

「ぐはっ!」

と直撃した衝撃で、大地は椅子から転げ落ちた。

なんか、天罰が当たったみたいな感じでなんか、快感だった。

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