37話 バトルスタート!

 「いや~、須賀さん面白いッスね~。ずーっと焦って戦ってるんで、いつ出ていこうか迷ってたんスけど~」


 今まで体中に滾っていた熱が一気に引いていく。脱力しすぎて膝が地面につきそうな勢いだ。


 「お前、人を心配させやがって……。いつから消えてたんだ?」


 満面の笑みでスタスタと駆け寄ってくる優乃華。


 「気が付いたらおっさんに抱きかかえられてたんでこっそり抜けちゃったッス。須賀さんが鬼の形相で都庁から落ちてくるあたり?」


 ほぼ最初からだな。完全に遊ばれている。


 「いやぁ、後ろから肩でも叩こうかと思ったッスけどなんか話しかけられる雰囲気じゃなかったし、とりあえず追ってきたんですけど早すぎッスよ」


 そう、後ろから走ってくる優乃華の気配に気付いた私は会話の途中から既に戦意喪失していた。よくよく考えれば優乃華に拘束など効くわけがない。目を醒ませば彼女はどこにいようと物理的制約を超越した自由の身だ。今まで優乃華が消えているとき、VCの意思疎通無しではどこにいるかが分からなかったが、今日初めてなんとなく気配がつかめた。


 「さて、こいつをどうするかだな」


 にじり寄ろうとすると、先程の五人が玄関から入ってくる。


 「そこまでだ。リーダーの命により待機していたが、それ以上危害を加えるつもりであれば我々も容赦はしない!」


 彼らは各々ハンドガンや刃物で武装していた。能力単体ではあまり強力ではない証拠だ。


 「わかった、無益な戦闘は御免だ。手を出さない」


 「お前らも能力者だろ? なぜこちら側につかない」


 私は拒絶と既に回答しているが、優乃華はどうなのだろうか。横を向くと優乃華もまたこちらを見ていた。


 「私たちはどちらにつく気も無い」


 次の瞬間。私の指先から三本の矢が放たれる。五人は不意の攻撃に構える隙も無く硬直する。矢は狙いを綺麗に仕留めるとともに、鈍い音が辺りに響き渡る。


 「すごいッスね~。全弾ドンピシャじゃないッスか」


 何が起きたのかとキョトンとしている五人越しに見えるのは、ずらっと並んだライオットシールドと、彼らが所持するおもちゃとは比較にならない程仰々しく銃身の長い銃。こちらに狙いを定め、いくつかからは硝煙が立っていた。


 「交渉は無駄なようだな。さっさと切り抜けるぞ。」


 「あいさー!」


 気合が入っているのだか入っていないのだかわからない掛け声が終わらないうちに優乃華は五人の懐へ瞬時に飛び込むと、彼らは瞬時に視界から消える。

 

 「おい、あいつらも戦わせた方が楽だろ。なんで消すんだよ」


 「だって役に立ちそうにないじゃないッスか。知らない能力者と共闘とか無理ッスよ」


 確かに優乃華から見れば何をしでかすか分かったものではない彼らは、例え肉壁として利用するにも面倒だと感じるだろう。しかしかといって二人で切り抜けるには厳しい状況だ。武装した三十人相手には七人でも厳しい事には変わりないが。

 幸いにも未だ強行突入というところはせず、開いた玄関のドアからしか攻撃を仕掛けてきてはいない。あちらも相当警戒しているのか、あれ以来大したアクションを起こしてこない。呼びかけるわけでも無く、かといって攻撃してくる気配も無い。

 さらに遠くまで見通すと、なにやら物騒な行軍を捉えた。次々と応援が来ているようで、戦闘ヘリや爆撃機が飛び立つのが見える。流石に洒落になっていない。


 「早めにここを切り上げないと敵の手駒が揃っていくな。流石にミサイルが何発も飛んでくる戦場なんて考えたくも無い」


 「あの五人消すだけでけっこうキツイッスけど……。とりあえず射線遮りますか」


 優乃華が印を結ぶと次第に辺りが霧に包まれてゆく。


 「忍法! 戦塵晴嵐の術!」


 局地的な少数戦に持ち込むための準備を整える。優乃華と携帯電話を通話状態にし、持っていたテーピングテープでイヤホンと片耳を固定する。


 「リアルでのガチバトルだ。行けるか優乃華?」


 「行くしかないじゃないッスか。別に、あれを倒してしまってもいいのだろう?」


 勿論負けは直接の死に繋がる。そんなことは優乃華もわかっているだろう。先程から膝の震えが止まらないようだ。私も人のことを言えるような心境ではないが、強気に言い合えるところは伊達に虚構の修羅場を潜ってきたタッグではないと一縷の安心を感じる。


 「さあ、バトルスタートだ!」

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