27話 友達との久しぶりの再会
土曜日と日曜日は、流石に利用者が増える “サークルフィット” は使えない。これだけ肉体を酷使するハードなゲームを休みなくやっていたらぶっ倒れちまう、とのことで平井さんからも休日に指定されてしまった。
明日明後日なにをしようかと思って再び開いたスマホには、大量の返信通知が来ていた。チャットアプリの右上に赤く囲まれた数字を見て少し嫌になったけれども、内容はポジティブなものばかりだった。殆どがこのゲームを知らないながらも誉めてくれる内容で、中には自分も参加しているからアドバイスをくれ、というのもあった。
一つ一つに返信をしていくと、その中には会って話がしたいというのもあった。こうして丁度予定も無かった僕は、繁華街のとあるファミレスで待ち合わせをしていた。
「あ、いたいた! やっほー、久しぶり!」
振り向くと高校で特に親しかった友人2人組がやってきていた。大学入学目前の2人は髪を染めていて、高校時代よりも少し派手な見た目になっている以外は特に変わりが無さそうだ。
「遅いッスよ~。5分遅刻なんで、この後のカラオケ奢りで!」
2人分のドリンクバーを追加注文し、僕の前にコーラと烏龍茶が並んで2人が座る。
「それにしても久しぶりね。いつ以来かしら」
肩まで伸ばした髪をナチュラルブラウンに染めた美也子が頬に手を当てて首を傾げる。
「こいつ2月ごろから学校来てなかったよな。自由登校でも少しは顔出せよ~」
グレージュ系のセミロングとイヤリングが、如何にも大学デビューという感じの
「過去のことはどうでもいいッス。それよりも、大学は合格したんスか?」
「私達二人とも第一志望には受かったわ。日葵は推薦だから、優乃華も知ってるでしょう?」
「筆記試験とか馬鹿らしいっしょ。私は普段の行いが良いからね、受かって当然!」
「馬鹿らしいっていうか、筆記試験通る程頭良くないッスよね」
「あんたよりは点数よかったよ!」
「模試では僕の三勝一敗ッス」
「日葵ちゃん、嘘はいけないわ」
「一勝してるから! それに、一番最後勝ってればそれまでの点数はノーカン!」
日葵は一息にコーラを飲み干すと、再び口を開いた。
「それで、優乃華は今何やってるんだ? 入試って結局どうした?」
「そうよ。あれから全く音沙汰が無いと思ったら、ゲームの大会の報告してくるんですもの。吃驚したのよ」
やっぱり訊かれるよなあ。一応想定はしていたものの、打ち明けるとなると少し勇気がいる。間が空かないよう、自然に切り出す。
「それがですね。なんと今現在、絶賛ニートやってるッス!」
少しなりとも驚くかなと二人の表情を見るが、予想に反してほぼ無反応だった。
「やっぱり、そんなこったろうと思った。優乃華はマジでマイペースだよなあ」
「何かあったらすぐに言ってね。助けられることならなんでもするわ」
付き合いが長いとはいえ、この反応は予想外だった。自分が思っている以上に変人認定されていないか?
でもそれなら都合がいい。あまり心配されて詮索される方が心臓に悪い。折角の再会だし、湿っぽくなるのは避けよう。
「有難いッスけど、僕今本気で30億ドル狙ってるんで。逆にお金のことなら頼りにして良いッスよ?」
キョトンとしている美也子と、爆笑している日葵が対照的だ。
「えーっと、何のお金? それ」
「ミヤは知らないよな。今こいつがやってるゲームの大会、優勝賞金が30億ドルなんだって!」
マジで言ってるの? と笑い合う二人に釣られて、思わず自分の発言が途方も無い事に笑ってしまう。
「まあ、応援してるよ! ってかあれタッグバトルだったよね。もう一次予選突破ってことは、まさか私以外とやってるってこと!? この裏切者!」
日葵は多少なりともこのゲームをやったことのある人間だ。一緒にゲーセンでプレイしたこともあるが、二人のレートが違いすぎてあまり幸せにならないから、暗黙のうちに二人ではあまりやらなくなってしまった。
「ひまッチじゃ足手まといなんで~。でも、ちょっとは考えたッス。ひまッチでも心を鬼にして鞭打てば、強くなるかもなと思って」
「嫌だよ! ゲームって楽しい物じゃん! 苦しんでまでやりたくないっしょ!」
「いいじゃない。苦難を乗り越えて見える面白さもあるでしょ?」
「そういうことッス。今からでも遅くないッスよ」
「無理無理。それに今、なんか超能力みたいなの出始めてるらしいじゃん。そんなのに勝てっこないよ」
「もしかしたら、その素質があるかもッスよ?」
「それこそ自分に鞭打たなきゃ手に入らないらしいじゃん。手っ取り早く課金とかでなんとかなってよ~。リアルなあの頃のゲームに戻ってくれ!」
「というかゲーム世界で体を動かして闘うなんてゲーム、よくやってられるわね。落ち着きのないのは昔からね」
美也子は小学校時代からの腐れ縁だ。昔こそ一緒に木登りや泥遊びなんかをしていたものだったが、いつの間にか趣味嗜好が女の子らしくなってしまった。一体どこで道を違えてしまったのだろうか。
「ユーちゃんはもっとお淑やかになればなあ、男子からの人気も出るだろうに」
「うるさいッス。そういうのは間に合ってるッスから」
タッグの相方のことは黙っていよう。今は誰もいない自宅で過ごしている、と無難な嘘をついて近況報告は幕を閉じた。それからは他愛のない昔話や、大学に入ってからやりたいこと、将来どうなりたいかなどの他愛のない会話に花が咲いた。
美也子と日葵も会ったのは久しぶりらしく、思っていた以上に会話が弾み、結局その日は一日中ファミレスで時々食べ物を頼みながらお喋りをしていただけだった。
そんなわけで一緒に何をやろうかと昨晩相談していたことは結局なにもしなかったが、須賀さんの家に帰る道を歩く僕の体は、いつもよりも軽く弾んでいるような気がした。
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