26話 外への発信
空の濃紺が辛うじて見える黄昏時、小さくも確かに存在する炎の赤さで、穂村の顔が照らされる。ボウッ、ボウッっと蜃気楼のように点いては消える正体不明の灯は、やがて明滅の勢いが衰弱してゆき、とうとう辺りが闇に飲まれる。
「まだこんなもんだ。だがよ、感覚さえ掴んじまえばこっちのもんだ。ゲームと同じだぜ」
街灯の光も遠く、彼の表情は読み取れない。
「テメエも、それなりの覚悟をしておくんだな。」
彼はそう言い放つと、もと来た道を歩いて行ってしまった。
自分の掌を見つめる。この手に、何か灯せるものがあるのだろうか。
※ ※ ※ ※ ※
「なんてこと言われたんスけど、どう思うッスか?」
肉じゃがを主菜として並ぶ食卓。大きく切りすぎたと後悔したジャガイモを頬張りながら、それをなんとか箸で細かくしようと奮闘している須賀さんに穂村との事を喋る。
「そんな呑気な顔で話すことかそれ。怖い。お前のその能天気な脳みそが怖い」
箸を止めてこちらを凝視する須賀さん。
「すごいことかもしんないッスけどー、僕には関係ないしー」
「関係無い訳ないだろ。同じゲームやってんだから。お前にだって能力の色は偶に見える」
口に入れた二個目のジャガイモが喉につっかえる。咳き込みつつもなんとか飲み込んで叫ぶ。
「キター! 僕にも能力が!? マジっすか?」
「いやぁ、これ言って良いのかわからないが……。やっぱり気のせいかな」
「ケチ! 教えてくれたっていいじゃないッスか!」
箸を置いて真剣な眼差しを向ける須賀さんに、思わず背筋が伸びる。
「身体強化?みたいだが、それとも少し違う。赤に少しだけ紫の入ったような」
「可能性があるってわかっただけでも有難いッス! なんで今まで黙ってたんスか?」
「実は、かなりの頻度で色は変わっているのだ。最近その色で安定しているが、一時期は全く安定していなかったし、そもそもが微弱で稀にしか見えないものだった。確信が持てない希望に突っ走らせる訳にはいかないからな」
「じゃあ湊君にコツを教わってみるッス。彼も身体強化系ッスよね?」
「あれは違う。念動力系だ。聞くところによれば、身に着けている物の重さを軽減してるらしい。本当のところは分からない」
「ヘー。まあでも、能力かぁ。楽しくなってきたッスね!」
「それはそうと、お前ここ一か月ほぼずっとここにいないか? 頼ってた学校の友人とやらには連絡とかしなくて良いのか?」
思えばスマホを弄る素振りもあまり見せていなかった。疑問を持つのも無理はない。
「いやぁ実は、そういうの居なくて。突然学校にも顔出さなくなったし、連絡も返さなくなっちゃったから」
「勿体ない。その気があるなら今からでも遅くない。一次予選突破という口実があるのだから、少しは友人付き合いも大切にしろ」
「別に、須賀さんいれば要らないッス」
「大会終わったら追い出す」
「酷い」
「冗談はともかく、そういうのは大切にしておけ」
そう言い残すとそそくさと食器を片づけ始める。
確かにずっとこのままここに居続けるというのも考えものだろう。だが、これまでと同じく、そんな気には全くならない。そもそもの話、何もかものやる気が出ない中で今の生活が構成されている。これ以上の余裕はないのだ。
と躊躇したのも一瞬で、ふつふつと自慢したい欲が湧いてきた。考えてみれば、 "Battle Surmount Reality" は知らない人は殆どいない有名タイトルだ。消すのも億劫で残っている連絡先だ。一言チャットを送るくらい、別にいいだろう。
懐からスマホを取り出すと、約二か月ぶりに起動するチャットアプリにタッチした。
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