24話 リアルでの邂逅

 「これで最後か。思ったよりも短かったな」

 

 「思ったより超能力持ちいなかったッスねー」


 「そこに自信があるやつは月の下旬から本格的にやり始めるだろう。逆に、こんな早々に能力使える奴らとバンバン当たってたら不運なんてものじゃないぞ」


 「じゃあ、今度のはどうッスか?」


 「あれは完全に出来上がってるな。それも両方だ。片方は初めて見る色だな。もう片方は」


 最もフラットで飾り気の無い、闘技場のステージ。対戦相手はどちらも警察が持っているような盾と、旧式のライフル銃だ。どちらもまだ子供のような身長で、それらの武装が大きく見える。それ以外まともな武装を持っていないところを見ると、武装を買うお金が無いのか、それとも相当与えられた能力が上等らしい。

 

 「どんな能力か予想も付かないッスか?」


 「ああ、全然だ。皆目見当も付かない」


 ゲーム開始直後、お互い殆ど動かない時間が続いた。相手も相当警戒をしているようで、ライオットシールドを持ったまま発砲を試みる程度で、殆ど動かない。こちらまで届く射程ではないが、かといって須賀さんの矢であのシールドを貫くことも出来ない。


 「雨降らす奴やらないんスか?」

 

 「あんなでかい盾持たれてたら有効打になりそうも無い。それに、決定打に隠しておきたい」


 「埒が明かないッスねー。制限時間まで引きこもりますか?」

 

 「悪くないが、これを負けてもAに入れそうだ。なら、後学の為にも手合わせしておいたほうが良いだろう」


 「行くッスー!」


 相手の装弾タイミングで前へと走り出す。一瞬のうちに間合いの半分を詰めるが、敵も盾と銃を放棄し、こちらに向かってくる。どちらも丸腰だ。


 「右が身体強化系だ! 左は分からん!」


 「分からん方ヨロッス!」


 右にいる少年に狙いを定める。どちらも僕を見ていないところから、2対1にはならなそうだ。絡まれると感じたのか、右の少年は加速して仕掛けに来る。

 尋常じゃないスピードで、相手二人の距離は離れてゆく。十分にひきつけ、腰に巻きつけた巾着からまきびしをひと掴み放り投げ、同時にクナイを投げる。これまでの試合で、強化系は動きの制御が細かくできないプレイヤーを多く見てきた。投げ物への対処で態勢を崩させ、そこを突く!

 一度立ち止まる。相手は思った通りそのまま駆けてくる。ダメージが入れば動きが鈍り、避けようと無理な足運びをすれば返り討ちだ。

 しかし、相手は予想以上の動きで返してきた。3m程に渡って撒かれたまきびしフィールドと、上空を舞うクナイの合間。その狭い空間を狙い、彼は思い切り地面を蹴り飛ばしてまるで弾丸のように突進してくる。すんでのところで真横に跳んで彼の拳を回避するが、無理な避け方をしたせいで態勢が崩れる。

 彼は突き出した拳でしなやかに地面を捕らえて支点にし、流れるように回し蹴り。これまで見たどんな格闘家よりも器用な動きを避けられるはずも無く、吹っ飛ばされる。

 腕を使って何とか胴体への直撃は免れたが、身体強化系特有の重い一撃の威力に立ち上がることが出来ない。只一発蹴りを食らっただけで体力が9割近く消し飛ばされており、ダメージと連動して関節部分が重くなるスーツの仕様により、動くことが儘ならない。


 「すみません、やられたッス。後は、頼むッス」


 それ以上の追撃が無く、半ばホッとして試合を眺める。やっとの事で須賀さんの方を見ると、先程僕が相手取っていた少年だけが、須賀さんを殴り倒していた。


 「まずは一次予選お疲れー。いやあ、Aステージ、やったんじゃないか!? 行ったんじゃないか!?」


 緊迫した試合内容から一転、気の抜けた声が聞こえる。ヘッドセットを脱ぐと、平井さんが2本のコーラを両手に持っており、こちらに差し出してくる。

 

 「なんでそんなお気楽な声出せるんスか。結局最後は負け続きだったじゃないッスか。これじゃあ、二次予選キツイッスよ」


 「お、解ってるねぇ。何のために最短で試合を終わらせたんだよ。残り1か月近くは、次の為の準備に使うんだよ」


 ドアの開く音がする。このジムは、金曜日に来る人が比較的遅い傾向にある。まだ15時であるにも関わらずズカズカと僕達の方に歩いてきた2人組は、ゲーム用のスーツとシューズを抱えていた。片方は上も下も黒い服で、メガネをかけた男の子だ。もう片方のガラの悪い金髪と、どういう組み合わせなのか全くわからない。


 「あ? お前が【YUNOKA】か? 思ったよりチンチクリンなんだな」


 「あの、あんまりそういうこと言うの、良くないと思う」


 「お、良いタイミング! こいつら今まんまとボコられたところでさ! ちょっとシゴくの手伝ってくれよ」


 「な、なんなんスか、この人達!」

 いきなり罵倒を食らい、思わず叫んでしまう。ガラの悪い大学生みたいな人から、その答えが帰ってきた。


 「暇で暇で仕方ねえから、遊びに来てやったぜ。リキッド・エアーの【Homura】だ。リアルも穂村って名前だから、それで呼んでくれていいぜ」


 「僕は湊って言います。ゲーム内だと【Arcait】って名前だけど」


 「私のことは須賀って呼んでくれ。ところで、なぜ私たちのところなんかに……?」


 「練習会だよ。俺がセッティングしたんだ、感謝しろよ」


 「勘違いするなよ? お前らみたいな格下とやるには、相応の理由ってのがあんだよ」


 口が悪い彼が言うには、今やどのタッグも練習会等を控えているらしい。能力の向上よりも、如何に自分たちの能力を隠し通せるかが重要視されているとか。そんな中でも彼らは積極的に声掛けをし、超能力についての研究会なんかも企画を立てているそうだが、成果は無いという。


 「そんなわけなんです。なので、よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げる湊君の後ろから彼らのアナライザーらしき人物が来て、平井さんと須賀さんに挨拶をしている。

 4人のプレイヤーの中で能力が使えないのは僕だけという状況に、今後が不安だった。自分が足手まといなんじゃないかと思ったが、


 「目標は優乃華ちゃんの能力開花ということで、オッケーかな?」

 

 という平井さんの言葉に2人が頷いたところで、その不安は解消された。

 代わりに、なんでそんなことに付き合ってくれるのか、という疑問が頭の中でいっぱいになった。

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