23話 敗北と調整
夜の街に色とりどりのネオンが眩しい。様々な建設物が並び立ち、道路には普通に車が走っている。勿論、轢かれればそれ相応のダメージを食らう。現実の街をモデルに細部まで作り込まれている、このゲームで最も手の掛かっているステージだ。
「今何試合目でしたっけ?」
「18だ、このペースでいけば休日に入る前に終わらせられるな……。ほう、相手は多分能力持ちだな」
「どーせ大した能力じゃないでしょ! それよりも、あれ持ってるの爆弾って表示されてるッスね。あんなデカイの、今時珍しいッスね~」
「大正解だ。瞬間移動系持ってるぞ、そいつ」
「めんどくさそうッスね。まあ、近接系がその能力持ってるよりは楽そうッスね」
「いやぁ、どうだろうな。もう片方は普通の近接タイプかな。日本刀、私も欲しいなあ」
「どうせあれもレプリカッスよ。じゃあ今回は取り合えず様子見ってことで良いッスかね?」
「ベースの防衛に徹しよう。爆弾持ちが能力でベースに直接爆弾置きに来る可能性が一番面倒だ」
「了解ッス!」
相手に超能力持ちがいる場合、相手の能力の見極めがバトルの勝敗を大きく左右する。どのような能力なのか、どの程度の習熟度なのか、所有している武装とのシナジーはどうか、等々。相手にやりたい放題やらせる前に情報を集め、対処する。
ベース戦は相手とこちらが必ず一定距離離れているので、様子見がしやすい。試合前から目を凝らして、相手の一挙手一投足を観察。
歩行者天国の大通り。その両端に設置されたベースの前にそれぞれが立っている。テレポート能力と言うことは、ある程度フィールドを広く見ていないと見失ってしまうから、須賀さんに爆弾使いの方を見てもらい、僕は広めに視野を取る。
相手も様子見で何か遠距離からアクションをしてくるかと警戒したゲーム開始直後、予想外にも敵は2人とも、こちらに向かって一直線に走り出した。
「うわ、マジッスか!? 僕も出ます。E-5付近でどちらか足止めするッス!」
VCにそう吐き捨てながら、全力ダッシュ。テレポート持ってるような奴を足止めなんて出来るわけも無いので、当然日本刀を振りかざしている方へ走り寄っていく。
「爆弾のほうはこっちで警戒しておく。いつも通り隙を見て敵ベースを叩け!」
爆弾使いの方はかなり手前で走るのをやめ、立ち止まってしまった。能力を使うために足が止まるのであれば、須賀さんが何とかしてくれるだろう。走り続けるもう片方に手裏剣を投げつけ、近接戦を仕掛ける。
真上から振り下ろされる刀を右ステップで躱す。返す刀で横に薙ぎ払う太刀筋を短刀で受け、チラっと爆弾使いの方を見る。先程立ち止まった位置からまったく動いていない。
ここで煙幕を張ってしまうと、須賀さんが爆弾使いの挙動を把握できなくなってしまう。仕方が無いので、こちらを片づけてしまおう。
「爆弾使いが持ってた爆弾が消えた。そっちには飛んでってなさそうだ」
攻撃を受け止められた相手は間合いを取るために後ろに下がり、再び僕に切りかかってくる。こちらは能力持ちではないし、動きも悠長で隙だらけだ。爆弾の脅威もひとまず去っていることだし、ここをカウンターしよう。
浮ついた刀の軌道をかいくぐり、懐に潜り込む。日本刀には近すぎるリーチに相手は間合いを取ろうとするが、下から一気に短刀で突き上げる。脇腹を抉りHPの大半を持ってかれた彼は、疑似痛覚システムによってその場にうずくまる。
よし、これで敵戦力はあと一人だ。ふと爆弾使いの方を再び見ると、矢を受けてこちらも片膝をついている。
こうなってしまえば後は煮るなり焼くなりだ。勝利条件は敵2人のHPを0にするか、ベースを破壊するかだ。通常であれば相手に近寄らず、ベースを叩きに行く方がリスクが低いが、テレポート持ち相手はどっちが有効なのだろう?
一応、須賀さんに訊いておこう。
「ベース取りに行ってきます? とどめ刺します?」
ベースに向かって駆け出すとともに、画面が暗転する。
僕の発現が終わる前にゲームの敗北が決まり、質問が試合中に帰ってくることは無かった。
頭の中がハテナで埋め尽くされて一瞬呆けたけども、すぐにヘッドセットを外して後ろで見ている平井さんに尋ねる。
「今の!? 今のなんですか!? なんで負けたッスか!?」
「敵の能力だな。まんまと騙されたなあ、お前ら」
「どゆことッスか!? 相手もう戦闘不能でしたよね?」
ヘッドセットを外した須賀さんが答える。
「瞬間移動で爆弾だけ飛ばされたらしい。完全に出し抜かれた」
「その通り。相手の手元から消えた爆弾はこちらのベース裏に飛んでた。須賀のフォローは惜しかったが、相手を仕留めるよりも先に爆弾の跳び先を確認するべきだったな」
「矢を放つことを放棄していれば間に合っていたかもな。移動先も光って見えていたのだが、もっと上手くやられたら対策不可能じゃないか、あれ」
「移動系の能力持ちだとわかったら、2人ともベース警戒に切り替えろ。そういう敵はベース破壊に特化しているだろうから、殲滅戦に切り替えろ」
「釈然としないッス。須賀さんのミスってことッスか? 外周百周行ってきてください」
「仕方ない、あと2戦終わらせてからな。その前に提案なんだが、一応ここの筐体は明後日の午前中まで自由に使えることになってるから、他の能力持ちに対する対策も練り直さないか?」
「あまり一つの負けに執着するな。今まで通りで良い。ただ、能力持ちが来た際には今まで以上に警戒を強めろ。そろそろ、さっきみたいに能力を使いこなしてくる相手と当たるころだろう」
続く2戦は難なく勝利し、通算成績は19勝1敗。勝率も悪くなく、休日に入る前に終わらせられそうな目途も立った。
いよいよ明日が僕たちの最後の予選となりそうだ。これほどハイペースに試合を消化できるのも、基礎トレーニングの成果だろう。律儀に外を走りに行こうとする須賀さんを止めた平井さんも、予選突破が現実味を帯びてきたとの評価だった。
第1予選の3分の2が終わり、結果的に1敗はしたものの、順調に歩を進めていた。
「それと、明日勝てたらお二人には特別に指導していただける方を紹介するぜ。楽しみにしておけよ」
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