22話 作戦

 「もう一度確認するが、本当に各フィールドのマップは頭に叩き込めてるか? さっきの試合みたいに、『木の裏!』とか、『赤い屋根の軒下!』で許されると思うなよ? ちゃんと教えた通り、番号で指示しろ」

 

 これは平井さんが取り仕切るGaCC前最後の作戦会議。いつものように僕への説教から始まった。

 最初の予選、一か月30試合をこなし、AからFまでの6ステージに振り分けられる。まずはAステージを目指す為にと、話始めたのだった。


 「プレイヤー人口的に、序盤2敗したらA危ういから。どこで負けるかにも依るけど、5敗で確定Bだと思うぜ」


 との平井さんの戒めから、序盤の戦略を立てる際は如何にリスクを取らずに勝利を掴めるか、に焦点が当たった。


 「私だけでも能力に恵まれてるとはいえ、戦闘に直接介入できる能力でも無い。さっさと終わらせることで、戦術は隠しておく方がリスクは低いか」


 須賀さんの提案から、一次予選は短期決戦で終わらせることになった。一か月間で30試合のところを、最初の4日で終わらせる。


 「俺も、さっさと30試合終わらせるほうが良いと思う。3、4日でやっちまえば、能力持ちもそこまでいないだろうし、使い方に慣れる間も無いだろう。」


 「あとはどう勝つか、だな。短期で終わらせるなら、ワンパターンでいい。勝ち方を決めてしまおう」


 「バックドアで直接ベース取りに行くか」


 「えー、つまんないッス! 僕が全員倒すので良くないッスか!?」


 「リスクを取るなとさっき言ったばっかだろ! 相手の隙をついて闘わずにベースを破壊するバックドア戦術が、お前達が取れる一番リスクの低い戦い方だ。その為に須賀には近接戦闘覚えてもらったしな」


 「優乃華のスピードであればベースの刺し合いになっても有利だろう。私は遠距離での支援とベース保守か?」


 「基本的にはそれでいいだろうな。須賀は後方支援だ。相手の中・遠距離を牽制しつつ、瀬波は適当に白兵戦で敵一人を拘束。隙を見てベース直行しろ」


 「別に、拘束してる間に倒してしまっても、良いッスよね?」


 「良いけど、真面目に戦うなよ。それやっても良いのは目を瞑ってても勝てる相手だけだ。ベースだけを見ろ」


 「まあ、わかったッスよ。確かに、それが一番勝てるかもッスね」


 「ただし、相手が能力持ちの場合は別だ。遠距離から突っついて様子見てからだな」


 「はあ・・・。最初の10戦くらい、ベースでお留守番は嫌ッス・・・」


 




 初戦、難なく勝ち切ったのだが、思ったよりも平静だ。試合前の高揚感はどこへやら。

 

 「よくやったな、お前ら。チーム・オリエンタル・スカーミッシャーズの栄光ある初陣だった。良きかな良きかな」


 「誰目線ッスか。次の試合あるんで、アドバイスあるなら早くくださーい」


 「今のは完璧な試合だったな。言うこともあるまい」


 「それはお前らが決めることじゃないってのー。VC聞いてたが、まだ闘う意志がちょっとあるな? やめてくれ?」


 「あーい。わかったッスー。次々」


 頼むぞー! との声を背に受け、ヘッドセットを被り直す。今日は最低でもあと7戦は消化しなければならない。ハードなスケジュールに相反して、このゲームの楽しさを久しぶりに噛み締めている。

 今まで超高レート帯でばかりプレイしていて、僕個人はまったく歯が立たなかったので、曲がりなりにも暴れられる環境は滅茶苦茶楽しい。体を動かし、自分たちにあった戦術を実行して、勝つ。今までの闘う楽しさも良かったが、相手を出し抜く気持ちよさも悪くない。


 結局、この日は最後まで超能力と呼べるようなスキルを持った相手には当たらなかった。正確には居たっぽいのだが、須賀さん曰くまだ本人も自覚的に使えていないそうだった。何組かそういった超能力の卵とぶつかったところを見ると、平井さんが言っていた3,4日で終わらせるという戦略は大正解かもしれない。

 

 「11勝0敗か。今日は運が良かった。」


 「見てる感じ、対戦相手も弱くなかったし、推定レート結構高いんじゃね?」


 「ってか、もう半分能力持ちみたいな奴らと当たるんスか・・・」


 「相手の普段のレートがわからない以上推測でしかないが、ゲーム内で能力を発現させるプレイヤーが増えている気がするな・・・」


 「だから言ったろ? さっさと終わらせるに限るって。二次予選の事は4日後、27勝以上してたら考えようじゃねえか。大会期間はとりあえずゲームのみで解散! ゆっくり休んでくれ」


 「もう17時か。遠野さんに挨拶して打ち上げでもどうだ?」


 「いや、早く休めっつってんだろ。浮かれてんじゃねえぞ」


 「お、須賀さんが怒られてる。珍しいッスねぇ」


 「こいつ、学生時代から事あるごとに飲もうとする奴だったからな。お嬢ちゃんに遠慮して絶ってるのかと思ってたのによ」


 「いや、もうかれこれ2年、酒は飲んでない。純粋に、夕飯を兼ねてってことだ」


 「マジかよ、天と地がひっくり返るぜ。でもな、今日くらいは家でゆっくりしたほうが良いぜ。2人とも、前よりいい顔になってるしな。お似合いだぜ!」


 「わかってるッスね、平井さん! さあ須賀さん、僕たちの愛の巣に帰りましょう!」


 「誤解を招くようなことを公共の場で叫ぶな。じゃあ30戦終わったら、改めて」


 「おう、楽しみにしているぜ」 


 いつも通りの帰り道。陽が伸びたのか、まだ空が青い。アホみたいに体力を使うゲームを11連戦、それもいつもと違い、緊張感のある試合をこなしたにもかかわらず、足取りが軽い。


 「いやぁ、もしかしたらですけど、楽々全勝かもッスね~」


 「その楽観、頼もしいな。全員のレートが真っ平な大会序盤に潜るってことは、強い相手とも突然当たりやすいってことだ。ちゃんと私達に実力があれば、こんな博打みたいな作戦はやらないはずなんだがな」


 「結果オーライッスよ。今日全勝できたんだからいいじゃないッスか! それに、いずれは倒さなきゃいけない奴らッス。要はいつ倒すかの違いッスよ」


 「今のところ、私達にはその用意が無いのだがな」


 「須賀さんもトップ層の人達みたいに、メチャ強い能力発動させてくださいよ~。目からビーム出すとか」


 「無茶言うな。大体、それ言うならまだ発現してないお前のほうが可能性があるだろう」


 「どーだか。わかりませんよ? ただでさえ超能力について殆ど情報が出回らないッスから。もしかしたら進化とかするかも」


 「そんなファンタジーあるか。脳の可能性を無理やり引き出してるってことは、引き出されたらそこが限界だろう」


 「じゃあ須賀さんはここが限界・・・。なんと頼りない・・・」


 「まだ何も持ってない奴には言われたくないな」


 「痛いところッス。ところで、今日は何作ります?」


 ここ一週間くらいで通い始めたスーパーを指さす。


 「お祝いと言えば、カレーかな」


 「おじいちゃん、この前食べたでしょ・・・。分かりました、ドライカレーとかどうッスか?」


 「悪くない。とびっきり辛めに作ろう」


 「そのリベンジは全力で阻止させてもらいます」


 リアルはこんなにも平和な道のりを歩ける。明日のゲームも、これくらい簡単なことを願いながら、ひき肉とスパイスを買いに行く。

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