Cosmos of war, GaCC

21話 GaCC、開幕

 後ろ手に髪を括る。赤と黒のコントラストが輝くシューズには、もう慣れた。

 この三日間は事前に注文しておいたアイテムの慣らしで、ごっそりと時間を持っていかれた感じがする。実際、届いた品々は段ボール3箱分にも及んだ。須賀さんが知り合いに頼んだそうだ。

 

 そのうち半分は個人用ヘッドセットやゲームスーツ、シューズ等の、リアルで使用するものだ。筐体に予め搭載されているヘッドセットやシューズも悪くないと思うんだけど、やっぱりハイエンドの物は全然違う。通常では気にならないレベルのラグや、体の動かしやすさはゲームに少なくない影響があったんだと気付かされる。

 もう半分はゲームに登録する用の武装、防具だ。今日までの時間はこれらの試用で殆ど割かれてしまったが、その価値はあったと思う。


 準備は万端とはとても思えないし、平井さんからもそういう評価を下されている。新たな要素である能力戦について、上位のチームはかなり秘匿的だ。他人どころか自分にさえ能力の詳細がわからないシステム上、情報の重要度は非常に高くなっている。

 勿論、僕たちのチームもそうしている。別に、知られたからどうという能力があるわけでは無いが、逆に言えば戦闘に直接介入する能力があるかも、と深読みしてくれるだけでも儲けものだ。

 

 「緊張しているのか? 柄でもないな」


 緊張しているのだろうか。確かに鼓動は高鳴り、拳には力が入りっぱなし。これを緊張というのであれば、そうなのだろう。今までの人生の中で緊張した経験があまりないので、よくわからない。


 「武者震いッスよ、須賀さん。そっちこそ、試合中動けないーとか泣き言、言わないで下さいよ」


 「言ってろ。精々最初の試合位は役に立ってくれよ」

 

 「あ、言っちゃいましたね! 相手二人片づけたら次は須賀さんの番ッス! 覚悟しておいてください」

 

 いくら何でもそこ言ってくる?

 拳の硬さが一層増したところで、対戦相手が決まったようだ。プロでは・・・無いっぽい。プロチームには独特のタッグ名とか、見た目とかの特徴があり、なんとなく一目で分かるようになってきた。

 

 「知らね、わかんね! 特に言うことは無し! とりあえずめいっぱい戦ってこい!」


 「対戦相手についての分析が足りないんじゃないか? アナライザーとしてどうなんだ、平井」


 「うるせえ、こんな野良マッチ同然の相手、知るわけないだろ! 逆に言えばこんなところで負けてるようじゃ、先はねえからな!」


 「厳しいなあ。相手が影分身の術とか出来る奴らだったらどうするんか。無理ッスよ」

 

 「有り得ないから。つべこべ言わず集中してくれ」

 

 ヘッドセットを被る。いつもと同じ、フィールドの展開されるエフェクト。何百回と見てきた光景なのに、初めてこのゲームに触れたときのような新鮮さ。期待と不安が入り混じる感情の前に、晴れ渡る草原のマップが広がる。

 頼りない人工物であるベースが両側にそびえる以外、他には何もないフィールド。


 「相手はハンドアックスとボウガンがメイン武装。至近中距離だな。ボウガン持ちは防具厚そうだし、E-5より手前で白兵戦できれば有利に立ち回れるか」


 「いやあ、あのボウガン相当でかいッスよ。ベース直接狙われたら敵いませんから、様子見して動きが無い様でしたら突っ込んじゃいましょう。能力の方は?」

 

 「うーん、気配が無いな。まあ、初戦から能力持ちに当たる程、運が悪くなさそうだな」

 

 「オッケー。なら・・・簡単に突っ込んでバックドア、しちゃいましょう!」


 開始の合図が鳴るや否や、真っ先に突っ込んで行く。

 今までは超能力の存在が抑止力になり、近接武装同士でもあまり白兵戦になったりはしなかったが、敵の能力が無いと分かればこっちのものだ。

 

 久しぶりの全力の踏み込み。靴のおかげか、スーツの軽さ故か。思っていたより数段強く地面を蹴ったせいで重心がぐらつき、こちらを狙うボウガンの矢先から視線が外れる。

 しまった、と思ったが矢が飛んでくる気配は無い。一瞬のうちに目線を戻すと、須賀さんの矢が綺麗にボウガンを弾き飛ばしていた。

 斧を持った少年は正確無比の衝撃で呆気に取られ、意識がこちらから逸れた。

 甘いなあ、と思いつつ懐に飛び込む。 

 

 「う、うわあああ!」


 斧を持った少年が間一髪でこちらに気づき、斧を振り下ろしてくるが、遅い。後ろに躱し、煙幕弾を足元に投げつけると、その場は白いガスに覆われる。


 「おい、何も見えねえ!」


 「落ち着け、煙幕の外まで走るぞ! 動いてりゃ矢も当たりゃあしねえよ!」


 彼らが煙幕から脱出する前に、勝敗は決まった。

 真っ白な視界の中記憶していた敵ベースの位置に走り込み、一本ずつクナイを刺していった。幾度の練習の賜物で、その動きに迷いは無い。5本目のクナイを敵ベースに叩きつけたところで、 “Victory” の文字が画面に浮き出てくる。


 「クソ!いつの間に・・・!」


 「卑怯だ! 正々堂々戦え!」


 敵タッグから非難の声が上がる。思えば、以前の僕達も同じように、戦わずしてボコボコにされる側だったなあ。


 「そんな危ないことしなくても、勝てる相手に戦う義理は無いッスよ」


 大会用対戦レート1500からスタートしたGaCC予選1試合目、僕たちは危なげなく勝利を収めた。

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