19話 春来る

 その後の試合も須賀さんの快進撃が続いた。

 僕は、そんな須賀さんを隣で見ているだけに等しかった。超能力を使うプレイヤーが当たり前のレート帯になってくると、“無用な接近戦を避けて近づく前に無力化する”が鉄則になってくる。近接武器はあくまで避けられない白兵戦用であって、まず無警戒に接近して敵を倒す、といったかつてのメタゲームは廃れているようだ。

 

 最初は僕が突っ込んで行って、須賀さんがサポートという形で戦闘を行っていたが、僕の突撃があまりにも呆気なく処理されてしまうと、須賀さんだけが取り残されてしまうので、その戦法は諦めた。今では須賀さんが様子見をしつつ相手の能力を見極め、大体の攻撃パターンが予測できた段階で情報共有し、可能であれば僕も突っ込む。

 しかし相手の能力次第では、何の防御手段も持たない僕の前進が意味をなさないことも多々ある。今回の試合なんかがその良い例だ。


 相手の片方は念動力系持ち、もう片方は風を操る能力。逆風が強く吹く中、須賀さんの矢はまっすぐ飛ばないし、かといって私が突っ込んだところで念動力の制御範囲内に入ってしまえばまな板の上の鯉同然になってしまう。

 試合中、実際に発動してはいなかったみたいだが、須賀さんの見立てでは、触れずに力を伝える系統の能力は僕と相性最悪だ。その人を包み込むような紫色のオーラが見えたら、近づかないほうが良いらしい。僕には何も見えないけど。

 上空には風の力が及んでいなかったらしく、この試合も須賀さんが放ったフレシェットのおかげで勝てた。


 「次、次の試合行くッスよ」


 隠せない程の苛立ちを憶えたのはいつ以来だろう。

 ガラにもなく他人に当たってしまう。試合ごとに動きが雑になっているのを感じる。悪循環だと判っていても、止められない。

 

 「今日の試合はここまでだ。飯の時間だから、さっさと着替えてこい」


 後ろから伸びてきた須賀さんの腕に、無理やりヘッドセットを外される。


 「あと一戦、お願いッス。これじゃ僕、今日いいとこ無しッス!」


 「落ち着け。私達なら予選が始まろうと、最初のうちは負けることはない。まだ時間はあるってことだ」


 「でも・・・ッ」


 「空回りしても良いこと無いぞ。それより私は早く飯にありつきたいものだ」


 「・・・分りました。ちょっと、頭冷やしてくるッス」


 ジムオーナーが振る舞う昼食を横目に、出口に向かう。扉が閉まるまで、他の人たちの目線が痛かった。


 行く当てもなく走り出す。動き足りない欠乏感と行き場のないストレスを発散できればそれでよかった。クソ、かっこ悪いなあ、僕。能力が開花すればチャンスがあるかも、なんて思ってたのがバカみたいだ。いつまで経ってもスタートラインにすら立ててないじゃないか。

 対して須賀さんの成長は目覚ましい。日に日に使いこなしてゆく超能力に奢らず、日々のトレーニングに精進している。結果、対戦相手への比類ない分析能力と戦闘能力が正にトップランカーの名に恥じないレベルまで研ぎ澄まされている、と平井さんは言う。僕から見たら、とっくに雲の上の存在だ。

 このまま彼を縛り続けてよいのだろうか。お荷物になっている事実に耐え抜き、僕も隣に並ぶのに相応しいプレイヤーになれるのだろうか。

 頭を空っぽにしたいがために走っているのに、思考は悪いほうへ悪い方へ転がっていく。いっそ、このままどこか遠くに逃げ出してしまいたい・・・。


 「やっと、みつかった。ハァ、ハァ。ちょっと、止まってくれぇ」


 振り向くと、ママチャリに乗った平井さんが、息を切らしてこちらに向かってきている。


 「僕たちに毎日もっと早く走れって言う割に、体力ないッスね」


 「俺はあんな身体能力オバケがやるようなゲームやらないから、必要ねえんだよ」


 僕が立ち止まると、平井さんも自転車を降り、手押しで歩いてくる。カゴになにやら可愛げのある手提げバッグのようなものが入っているが、まさかどこかで盗んだものじゃ・・・。

 平井さんは近くのベンチを指さし、言った。

 「まあ、偶には二人っきりで話でもしようぜ。お花見デートだな」

 





 「というわけで、オーナーから即席でお弁当包んでもらえました! 漸く飯にありつけるぜ。まったく、お前を見つけるのにあと1分でもかかったら全部食っちまおうと思ってたんだけどよ」


 デフォルメされたクマのマスコットがプリントされた手提げ袋には昼食に出ていた、おにぎりと唐揚げがタッパーに詰められていた。最低限のチョイスと荒い詰め方から、相当急いで出てきたようだ。


 「別に、態々追ってこなくても折り返して戻るところだったッスよ。子供じゃあるまいし、心配しないでください」


 言いつつ、おにぎりと唐揚げを頬張る。あまり話したくないことに対して突っ込まれるんだなと、薄々気づいているので、少しでも早く場を切り上げたい。


 「まあまあ、そう言うでない。いろいろ積もる話もあるだろうからな。須賀に言えないことも、他人の俺にだったら言えるってことあるだろ?」


 「別に、特に無いッスよ。話して解決することなんて」


 「解決しなくたっていいじゃねえか。女ってのはとにかく喋りたがるものだと思ってたんだが、お前は肝心なことは全然喋らねえのな」


 「平井さんみたいな人は信用無いので、そういう相談は無理ッス」


 「辛辣だ・・・。おじさんショックだよ」


 「全然ショックそうに見えないところが、信用ならないポイントッスよ。軽いッス」


 「まあ、相談されなくても何となくわかるしな。それに、おいちゃんの言うことを毎日ちゃんと聞くいい子だってわかってるからね」


 「だから、子ども扱いしないでってば」

 

 「須賀の奴がどんどん強くなっていくから、置いてかれてる気がするんだろ?」


 「・・・ッ」


 「慌てることないって言ってはいるが、無理もないか。ありゃ化け物クラスの上達スピードだ、比べるだけ時間の無駄ってもんよ」


 「でも・・・ッ! だったら猶更、もっと強い人とタッグを組んで・・・!」


 「それは無いな。俺にも相談してきたが、あいつは今まで12通も他タッグや企業からの誘いが来ているが、全部断ってる」


 「僕が無理やり引っ張ってタッグの大会に出ることになったからッスよ。僕に義理立てしてるだけッス」


 「そういう感じでも無いんだなあ。まあ、そこは奴から直接聞くといい。それよりも、お前自身のことを考えろ。実はお前にも1件、企業からの勧誘が来てるんだぜ」


 「えっ!? 知らないんですけど?」


 「当たり前だ。なぜか俺のメールアドレスに来てたからな。恐らく以前の公開スクリムの時に見染められたんだろう。他タッグの選手引き抜く時に、そこのコーチやアナライザーにまず声をかけるのが筋、って考える奴もいる」


 「でも、あの時だって、特に何もできてなかったし・・・」


 「お前を欲しがってるのは他でもない。GaCC優勝に最も近いとされるチーム・リキッドエアー、そのバックである大手ドリンク会社だよ」


 クエスチョンマークが思考に渦巻き、まったく頭の中が整理できない。平井さんは勧誘のメール文をスマホで見せてくる。起こっていることと、自分のことがまるでリンクできない。


 「一応、別ゲームで繋がりあったんで、ここのオーナーに事前に話を聞いてみたんだ。なんでも公開スクリムの時、他でもないTLAのメンバーがお前のポテンシャルを認めたから、というのが理由だそうだ」


 「全然わかんないッス。相手がめちゃくちゃ強くて、無我夢中だったので・・・」


 「ってなわけで! 今日は特別メニューだ。とりあえずお前がこのチームを継続するのか、去っていくのかを今決めなくてもいい。とりあえず、現状最強のチームをあっと言わせたお前の所業を、もう一度振り返って分析し、掴み取る!」


 「でも、相手チームの見間違いかもしれないッスよ。他のチームと間違えたのかも」


 「あの場でも負け無し、ただ一度たりとも危うい試合の無かった彼らの目が、お前は信じられないのか?」


 「うっ・・・まあ・・・それは」


 「決まりだな! じゃあ出発! 飯も食い終わったし、午後のメニュー始めるぞ!」


 「了解ッス」


 まだ、全然釈然としないけど。それに、須賀さんにも今後のことを話さなきゃいけない。このチームをどうするか、僕はどうすればいいのか。

 ベンチを立つと、生暖かい風が頬を撫ぜる。振り返ると、ベンチを見下ろすように桜が咲き、道々の草木本格的に色づき始め、どこかで鳥の囀る声が聞こえる。いつの間にか、世界は春を迎えている。

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