18話 新必殺技と、置いてかれる僕
「うわー、いててて・・・って、痛くない!」
寝起きのルーティンである筋肉痛の確認で、思わず声が出る。
「そりゃあそうでしょ。昨日は6回対戦しただけなのだから。今日からまた訓練地獄だ」
須賀さんは基本的にレトルトで食事を済ませている。今日の朝食も例に漏れず、カレーを温めようとしている。
「あ、僕なんか作るッスよ。昨日見た感じ、卵と玉ねぎくらいはありましたよね。昨日のお礼ッス」
「優乃華、お前料理なんて出来るのか・・・?」
「失礼な。1人で生活し始めて大分長いッス。それくらい出来るに決まってるんスよ、これが。」
「じゃあ、何か作って貰うとしようか。キッチンにあるものは勝手に使っていいぞ」
「任せるッス! 胃袋掴んで離さないッスから!」
息巻いたものの、流石独身男性の部屋と言うべきか、生鮮食品が殆ど存在しなかった。無茶振りとは言え、よく昨日オムライス作ってもらえたなあ。
考えても仕方がないので、簡単に冷蔵庫にあるものと奇跡的に残存していた野菜を炒めたものと、豆腐の味噌汁なんかを作っていく。段々と目覚めていく頭が、こんな事に時間を費やしている場合なのかと警鐘を鳴らしてくる。気分転換になるかと思ったが、ゲームから少し離れても、憂鬱な気持ちに変化は無かった。
焦っても仕方無い、スタートラインから見たら大した進歩じゃないか。それに、タッグ単位で見たら能力が発現してる相方が居るなんてラッキー、そうそうあるものじゃない。全プレイヤー中5パーセント程度の発現率であはるが、使える、と言えるような代物に限れば、その人数は100を切る。
その中でも須賀さんの能力は、戦闘に直接影響を及ぼさないものの、有用な部類の能力だ。元々敵への観察眼は鋭かったが、事前にある程度相手の力量が計れるとなると、試合も有利に組み立てることが出来る。
対して僕は、まだ何も得ていない。いや、平井さんの指導の下、いろいろと出来ることは増えてはいるが、劇的なものじゃない。GaCCに向けて、超能力が発現したプレイヤーを求めて引き抜き合戦が過激化しているって聞くし、このままじゃ須賀さんも・・・。
「おい、炊飯器の前で呆けているが、本当に大丈夫なのか? 何やら焦げ臭いのだが」
「あっ! ごめんなさい、炒め物!」
須賀さんの気付くのが早く、危うく真っ黒こげになるところだった卵と玉ねぎの炒め物は、何とか食べられない事も無い、という塩梅に火が通り過ぎてしまった。
「味は悪くないんじゃないか。味噌汁の方は私好みの味だ」
「悔しいッス。次はちゃんとしたものを作って食わせるッス」
「まあ、無理するな。私としても毎日作って欲しいくらいだが、トレーニングもきついだろう」
「でも絶対いつか見返してやるッスから」
「やぁ、昨日の結果に打ちひしがれて来ないかなー、と思ったけどちゃんと来たな。じゃあ、いつも通り午前は対戦、午後はトレーニングだ。俺はちょっと出てくるが、サボるんじゃねえぞ」
ゲーム用トラッキングスーツに着替え、ヘッドセットをかぶる。
一戦、二戦と試合数を重ねてゆくが、どうにも調子が出ない。そんな中でも須賀さんのゲームプレイは益々冴え渡ってゆくのを感じる。殆ど一人で、相手二人を相手取って倒しているようなものだ。最近は脇差を腰に携え、近接戦闘も厭わないスタイルを試しているようだ。今はまだ攻撃を凌ぐ位にしか使っていないが、今まで弓矢しか使っていなかった人の動きとは思えない程しなやかに小刀を使いこなしている。
レートが高くなっていくにつれ、僕は進化し続ける須賀さんの足を引っ張らないだけで精一杯だった。
「次、右の奴は能力持ってない。左の奴が操る岩だけ注意しろ」
3戦目、漸く当たった超能力者相手に戸惑う。拳程度の大きさの岩を操り、こちらに飛ばしてくる。空中に乱舞する4つの岩塊を躱すので精一杯だ。須賀さんの矢も、相手陣前面に張られた岩盤の守りで阻まれている。
相手はどちらも遠隔から攻撃してくるタイプなので、僕が接敵すれば簡単に勝てる試合なのに・・・!
「須賀さん! これ無理ッス! 動けないッス!」
「見ればわかるが、あの手の動きがトリガーか。ちょっとアレ試してみる。一発しか持ってきてないけど」
そう言うと須賀さんは岩弾を躱しながら、今まで敵方向に打っていた矢を、今度は遥か上空に向かって放つ。
敵は飛んでいく矢を警戒し、そちらに目線を向けるが、空へと放たれた矢はとても相手陣に届きそうもない。
今がチャンス、と緩んだ攻撃を掻い潜り接敵しようとするが、岩弾はすぐに戻ってきて、行く手を阻む。
「須賀さん! それ成功させないと、負けるのも時間の問題ッス!」
「まあ、見てなさい。昨日は試す隙すら無かったが、練習での成功率は8割超えてるのだ」
ボン、という爆発音が上の方から聞こえる。相手がそちらを視認し、岩の防壁を向ける前に、勝敗が決した。
上空に辿り着き、丁度落下し始めたころに爆発した時限式の爆発機構が、何本もの小さな鋼鉄の矢を地上に放つ。簡易フレシェット弾。数十本の矢を受けた彼らは一瞬のうちにデッドし、ゲームはこちらの勝利で終わった。
「な、成功した」
すごい技だとか仲間が強くなって嬉しいだとか、そういう感情よりも寧ろ劣等感がふつふつと 湧き上がる。今までぼんやりと抱え込んでいた気持ちに、今ようやく気付けた。
僕は本当に、この人とタッグを組んでも良いのだろうか。
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