16話 接戦、火花を散らす

 「お疲れ様! 初戦勝利おめでとう、どうだった?」


 「どうって、雑魚倒したくらいでおめでとうもクソもねえだろ。ってか、おめえも他の奴の試合見てんじゃねえよ、俺らの試合ちゃんと見やがれ」


 視線の先を覗き込む。このいけすかねえメガネは、手元のタブレットで他の奴らのバトル配信を眺めている。


 「さっきまで見てたさ。いくらなんでもあんな能力の使い方は無いんじゃないかな。舐めすぎ」


 「うるせぇ、勝ったんだからいいじゃねえか。それくらいヨユーだっつうこと。まあいい、次の対戦相手どこのやつだ」


 綺麗に4分割されたディスプレイを睨み回す。どいつもこいつもヘタクソだ、話にならねえ。とりわけ中でも・・・。


 「次の相手は右下で戦ってるやつらだ。ほら、弓矢使ってる方」


 一番期待できないタッグとかよ、テンション下がるわ。弓矢ってのがまず古臭え。既に状況は2対1。迫ってくるどちらかを射ようとも、どちらかには近接戦闘を仕掛けられてしまう。

 弓使いが近接武器を持っている様子は無い。終わったな。案の定、次の瞬間に放たれた矢は正確に一人を葬り去る。しかし、やはり次の矢を構える前に接敵されてしまう。高く振り上げられた剣に、勝利の確信が現れている。

 刃の間合いに入る直前、白い煙幕が画面を包む。定点カメラで観測している俺達には、中で何が起こっているかは分からないが、あそこまで接近されてはもう挽回できまい。あとは振り下ろされるだけ。

 

 予想通りの結末に、ため息が出る。実力的にはさっき俺らと戦った奴らと変わらないだろうが、こんなタッグ共と組み合うなら、いつも通り普通に練習してたほうがまだマシだ。

 

 「あーあ、つまんねえ。さっさと終わらせて今日はもう寝ようぜ。退屈すぎてあくびが出そうだ」


 「僕はそう思わないけど。怜がそう言うなら、努力する」


 ヘッドセットをかぶり、対戦待ち状態になる。対戦相手は早々にパスコードを入力し、対戦部屋へと入ってきた。それでいい、さっさとぶっ倒す。


 「おっ、俺様の大得意が来たぜ。秒で片づけてやる」


 一面不毛の大地、黄砂で覆われた丘陵。蜃気楼によって、相手のベースが地面から浮いて見えるほどの灼熱。感覚として熱いだけでなく、秒間ダメージを受け続けるこのフィールドは、障害物が無いのも相まって早期決着戦になりやすい。


 黒い装束の少女に、弓を番える軽装の男。そんなコスプレめいた恰好で、戦いの場に来てんじゃねえ。カウントが進むにつれ、集中が掌に集まる。

 次のカウントがゼロ。ぶっ飛ばせ!


 「一撃だ。喰らいやがれ、【フレイム・ボルテクス】!」


 両方の掌から火炎放出される。炎が渦を巻き、一瞬にして相手の顔面を捉える。が、どちらも初撃を躱してくる。反応ではない、恐らく予測の動き。

 飛んできた矢は炎撃の威力で逸れ、俺の頬を掠めてゆく。背筋が凍りつく。今ので即ゲームアウトなんてシャレにならねえ。あいつ相手に静止して戦うのは危険だ。まあ、無造作に動いてればまず当たらないだろう。


 「チッ、マジかよ。めんどくせえなア!」


 「僕も行くから、支援お願い」


 気付けば黒い少女が迫ってきている。湊が応戦し、足止めしてくれているがいつまで持つやら。あいつも超能力を手に入れ、通常では動くこともできないような武装を纏いながら動き回っているが、それでもあの少女の身軽さには敵わない。

 大振りの大剣は空を切るばかりで、少女の目は隙あらばこちらに接近しようと狙っている。


 「誰に物言ってやがる!」


 今度は小ぶりの炎弾を打ち出す。湊の動きに合わせ、少女に直接当てる、と言うよりは回避を強制し、リズムを崩す為の援護射撃。飛んでくる矢を避ける為、走りながら炎をコントロールするので弾数はそこまでではないが、湊の動きを助けることはできるだろう。

 相手のタッグは湊の装甲に対して有効打が無い。まぐれでもこちらの攻撃が当たってしまえばそこから突き崩せる。少々時間はかかるかもしれないが、予想していたよりも遥かにレベルが高いタッグってのは認める必要があるな。


 やや劣勢のチャンバラにも、チャンスが回ってきた。少女が裏周り、湊の膝、装甲の隙間を狙うような低姿勢で短剣を突き刺す。しかし、炎弾を躱しバランスを失った剣の行く先は狙った箇所を僅かに逸れ、硬い鉄板に弾かれた。 

 ここだ。地面を転がり、立ち上がるまでの僅かコンマ数秒。俺の炎なら余裕で追いつく。

 少女の体の落下地点目掛けてかざした手は、発射の瞬間大きく下に沈み込み、炎は地面へと吸われていった。

 

 何が起こった?

 俺はなぜ膝をついている?

 

 足元を見ると、膝下に矢が刺さっている。マズイ、止まってはまずい!

 慌てて振り上げた掌の先には、弓使いがこちら目掛けて矢を放つ姿。

 

 「んなもん、二度当たってたまるか!」

 

 どでかい爆発音と共に、掌からまるで噴火のような勢いで炎を噴出する。目掛けてきた矢を焼き払う。敵が1人ロストしたガイド音が流れる。

 クッソ、あぶねえ。こんな奴らからダメージを負うなんて。

 残りの敵に目をやると、俺の支援がなくなった湊の攻撃は少女に掻い潜られ、後ろから追っている。マジかよ、少しは休ませてくれ。

 

 この技は本戦トーナメントまで隠しておくはずだったんだが、仕方ねえ。ここで負けるなんざ真っ平だ。

 全身に力を漲らせ、膨張に身を任せる。間に合うか・・・。


 少女は既に、動けない俺の僅か3m程の所に来ていた。まずい、時間が無い。少しでも時間稼ぎになればと思い、打ち出すことのできない掌を少女に向ける。

 

 刹那、視界から彼女が消える。

 どこへ行ったかどうかなんて、考える余裕はなかった。火をつけた導火線を止める術は無い。


 「爆ぜろおおおおおおおおおおおお!」


 俺を中心として漲った力を開放し、爆炎が周囲を襲う。それは爆発のように広がる炎となり、半径5mの全てを焼却する力。急激な温度の上昇に、周囲全てが歪んで見える。まだ燃えている残骸が宙を舞い、乾いた砂の上に落ちてゆく。


 これをやるともう動けねえ・・・。

 一か八かの技だが、試合の結果はどうなった? 彼女は無事、俺の炎にかき消されたか?

 

 倒れ込む俺の体。勝利のアナウンスが、遠くに聞こえる。

 勝ったのか。久々の接戦に秘蔵の必殺技まで使ってしまった。

 文字通り、燃え尽きた。

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