14話 指導開始!
プロとの戦い。マップの理解、状況判断・作戦の甘さ。戦闘に入る前段階のレベルが違った。結局、殆ど音をたてずに裏をまわられての敗北。その場にいなかった僕は問題外、須賀さんですら会敵の一瞬のうちに倒されてしまった。
負けて悲しいとか、手も足も出なくて悔しいとか、そういう複雑な感情じゃなかった。
只々、圧倒。僕にも超能力的な何かが授かれれば、彼らにも勝てるんじゃないかという幻想は、ガラガラと音を立てて崩れ去った。これは凹むなあ。口角を無理やり吊り上げていないと泣いてしまいそう。
「どうした、ぐうの音も出なくなっていないか?」
「なんも出来ずに死んだのはお互い様ッス」
「今の私達では太刀打ちできる相手じゃないってことがよくわかったな。とりあえず反省会はここが使えなくなる夕方からやるそうだから、次のゲーム行くぞ」
強がりを言って見せたものの、声の震えは伝わってしまったかも。辿り着いてしまった高い高い壁に、色んな感情が押さえつけられる。タイムリミットはあと12日。あまりにも大量の突破しなければならない課題が頭を埋め尽くす。非公式大会の配信で見るのと、実際に対峙するのとでは全然違う。こんなに強いんだ、画面の向こうの彼らは。
「そろそろお客さん来る時間だから、今日の対戦はここまでだな。シャワー浴びて外出るぞ」
長い一日も漸く終わり。頭の中でいろんな思考がぐちゃぐちゃになりながら臨んだゲームは惨憺たる内容だった。勝率はそこまで悪くなかったけども、自分の動きにキレが無いことは自分が一番理解できる。
ヘッドセットを外すと、店内を動く人の音が増えている。窓から入る日差しに、少し赤みが差し始める時刻。朝食なんだか昼食なんだか分からないごはんを食べて以来ノンストップでゲーム漬けだったので、空腹も限界だ。早く何か食べに行きたい。
「飯買ったら須賀の家直行だ。反省会に加えて、今後の日程も決めなきゃだな」
「マジッスか・・・」
「これくらいで疲れた顔してたら、この先持たないぜ」
日程って何だろう。ジムの奥に設置された小さなシャワールームでの束の間の休憩時間、全く休まる気がしない。反省会、平井というおっさんが仕切るっぽいけれども、役に立つのだろうか。僕の無力さを鍛えるのには何が最適解だ?
考えろ、考えるんだ。もう時間が無い。
着替えて出ると、既に準備の終わった須賀さんと話していた平井さんがこちらに気付く。
「よし、揃ったな。折角の初対面だ、どっか飯でも行こうぜ。須賀の奢りで」
「おい、収入無いの知ってるだろ。お前が払え、お前が」
「あ? こちとら頼まれて来てるんだが? 嫌なら明日から二人で楽しくやるんだな」
「よし、今日くらい私が出そう! どこへ行きたい? 優乃華、お前は何が食べたいんだ?」
「何でも大丈夫ッス。どこでもいいので早く座りたいッス」
「元気ないねえ、お嬢ちゃん。もしかして、プロにボコられたの気にしてるのかあ? 生意気だねぇ」
「そりゃあ、そうッスよ。僕たちGaCCで上目指してるんスから。あと二週間経たずに本戦ッスよ?」
「おお、ちゃんと自分の実力不足が理解できているのかー、関心関心。お嬢ちゃんも焦ってるみたいだし、飯食いながらそこらへん整理するぜ」
平井さんはそう言うと、タブレット型端末を取り出す。リプレイを見ながらご飯を食べるのか、めっちゃ憂鬱だ。
平井さんが先頭を歩き、ついていくままにサークルフィットの近くにある居酒屋に入る。かなり早い時間だが、開店しているようだ。
・・・なんか店内に滝とかある。小暗い厳かな雰囲気のある店だ。こういうところはあまり来たことが無いので緊張する。ってかすごく高そうだけど須賀さんの財布大丈夫?今のうちに僕のお金引き出しておいたほうがいいかな・・・。
「えーっと、俺がビールで・・・、須賀もか。お嬢ちゃんはウーロン茶ね。それと明太子入り卵焼きと、鯛の塩釜焼き。あとなんか頼むか?」
畳の和室に入るや否や、とりあえずの注文を店員に伝える。襖が閉まると同時に、平井さんがタブレットでリプレイを再生し始める。
「じゃあ、飯来るまでにお前らの課題点、全部言ってやるから。ちゃんと耳かっぽじってメモ取れよ」
ごはんどころか、飲み物が来るまでの5分間。その合間に要所のリプレイを飛ばし飛ばし、4倍速で流しながら、超早口でボコボコに言われた。
今僕に足りないもの、その中で矯正できそうなもの、付加できそうなもの。それは、須賀さんも同様だったが、明らかに僕に言うよりも簡素に終わっていた。大まかに言うと、知識、判断力、行動のスピード、腕力、戦闘テクニック、武装への理解等々。
試合で凹み、反省会で叩かれ。無力感に拍車がかかるが、不思議と心持ちは軽くなってきた。平井さんの言葉が痛いところをつく度、心の重りが外されていくような。
「こちら、お飲み物とお通しです」
「お、来た来た。とりあえずそんな感じだから一回中断して、飲もう飲もう!」
「色んな意味でヘトヘトッス。食べる前にふて寝していいッスか?」
「俺は構わないが、ここの飯食わないのは勿体ないぜ。折角須賀の驕りでいいとこ来てるのに」
「マジで、容赦なく頼むね、君たち。もう少し遠慮というものをだな」
「いっぱい食べないと強くなれないんだぞ? フィジカルが資本なんだから、ちゃんといいもの食わないと」
「もっと強くなりたいッス! 須賀さん、食べたらまたジム戻りましょう! 基礎トレッス!」
「行くならお前だけで行け。トレーニングルームで吐くなよ」
「そんな焦るなって、お嬢ちゃん。それに、そういうのは明日から指導してやるから、今日はもう残り時間はみんな仲良く座学の時間だ。」
「そんなのんびりしてて、4月1日の本戦に間に合うッスか? こんなダメダメなのに!」
「4月1日? そんな悠長に構えてないぞ、俺は。言ってなかったか?来週の水曜日にはプロとの公開スクリム混ぜてもらう予定だから。それまでに仕上げろ」
「・・・スクリム?」
「知らねえのか、練習試合だよ。配信ありだから、見られて恥ずかしくないようなレベルにまで仕上げろよ」
来週の水曜日まであと5日。5日後にはもうあの化け物達と渡り合わなきゃならないのか。しかも観客付き。外された心の重り以上の重圧に、食べ物が喉でつっかえる。
「お、卵焼きとアボカドサラダ来た。 お前ら食え食え!」
流石にもうちょっとスローダウンして欲しいッス、この人。
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