7話 筐体確保!ゲーム再開
「なので、毎日大会情報はチェックしましょう! 本戦出場は狭き門ッス!」
隣の部屋から語りかけてくる声が延々と響く。
リビングの方に布団を敷いてやって扉まで閉めたというのに、いつまで起きてるつもりなんだ・・・。
「わかった、わかったから。今日はもう寝るぞ、優乃華。明日ゲーセン行こうな」
ハンドルネームで呼んでいた時の癖で、名前呼びになってしまうこの形を崩せない。本来なら苗字で呼びたいところだ。
「絶対ッスよ! って言っても、須賀さんはゲーセン以外行くところ無いでしょ」
「そんなことはない。と言いたいところだが、否定できないな。いいから電気消せ」
「わかったッスよ。お休みなさい」
漸く静かになる。
壁越しにも伝わる熱意と興奮。こちらが恥ずかしくなるほどだ。昔の自分を思い出す。
今とは違う、自分の姿。
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というわけで、今日は初めて、優乃華と一緒にゲーセンまでの道のりを歩いている。
私はまずシングルを一戦してから、というのがこれまでの日課だった。しかし、今日はタッグ戦をやれと煩いのが最初から横にいるので、ルーティンを守ることもままならない。
「大会までみっちり鍛えるッスよ。終わるまでシングル戦禁止ッス。やることは沢山あるッス!」
やること、といえば情報収集がミソだ。この大会は発表直後、あまりにもわかっていないことが多すぎた。アップデートの情報はもとより、大会の具体的な内容すら公表されていなかったのだ。
しかし、大会まであと2週間というところから、大会のルール等の情報が小出しに公開されるようになった。
纏めるとこうだ。2週間後の4月1日から約1カ月の予選期間が設定されている。大会に登録されたチームはその期間中、30戦のタッグバトルを行い、最終的な結果に応じてAステージからFステージまでに振り分けれられる。そこからさらに一か月、ステージ内でマッチングする予選にて30戦を行う。
Aステージが最も勝ち星が高いチームが割り振られ、その中で上位64チームが本戦トーナメントに行ける、という仕組みだ。本戦出場以外にも様々な経過報酬があり、ゲーム内スキンやオリジナル武装なんかが配布される予定らしい。ガチで上を目指すプレイヤーでなくとも楽しめる仕様だ。
「今朝解禁された情報ですけど、どうやら大会中はずっとベースディフェンス戦らしいッス!」
ベースディフェンス戦、というのは数あるゲームシステムの中でも最も人気のあり、かつ最も複雑なものだ。
"Battle Surmount Reality"は、ゲームをする上で選ばなければならないことが2つある。人数とシステムだ。フィールドはほとんどの場合ランダムなので、こちらが決めることはない。
人数は今回の場合タッグ戦の2対2だ。この他にも私がいつも行っているシングル戦の1対1、チーム戦と呼ばれる5対5、オールエネミー、つまり全員敵の5人対戦等がある。
システムは勝利条件で、ゲームの根幹だ。何をもってそのゲームの勝利とみなすのか、をここで決定する。常設されているのは3種類。
今回選ばれたベースディフェンスというのは、相手の所持する直径4m程のドーム型キャンプを破壊した方の勝ち、というシステムだ。フィールドによって異なるが、大抵直径30mメートルほどの間隔で自陣と相手陣のドーム型キャンプが聳えている。私の感覚で言うと、有効射程の矢5本で破壊できるものなのだが、これを先に破壊した方の勝ちとなる。
「今日からもう大会に向けてがっつり練習できるということだな。仕方ない、維持してきたシングルランカーの座を一時捨てるとしよう」
「どうせ、他の人もシングルなんてやってないッスから心配いらないッスよ」
「独り者のオアシスがタッグ戦の大会なんぞになびかれるものか。まあ、べつにいいんだけど」
ゲームセンターは人で溢れていた。そのほとんどが "Battle Surmount Reality"のプレイヤーだ。日に日に筐体前に列ができている。1プレイがあまり長くないゲームとは言え、これほど人が居たら練習にならない。
「あー、今日はキツいッスね。他のゲーセン探します?」
「ああ、昼間からこれだけ人がいるとは思っていなかった。どこかあてはあるのか?」
「無いッス。須賀さんは?」
「ゲーセンe-sportの欠点だな。素人はロクに練習できもしない。諦めて並ぼう」
「ざっと計算して、今日一日居て10プレイもできないッスよ! そんなんじゃ本戦なんて夢のまた夢ッス!」
10もプレイできれば普通は十分なのではないだろうか。しかし、ゲーマーである私達にはそんな数字、準備運動にもならない。私はともかく、彼女のほうも対戦履歴を見る限り、一日30戦程度は軽くこなす猛者だ。普通のゲームとは違い、肉体的にも相当鍛錬を積んでいないとこの数は厳しい。
「仕方ないだろう。どこのゲーセンも今こんなものらしいぞ。ネットの画像を見る限り、ここはまだ平和なものだ」
私のスマートフォンの画面には"Battle Surmount Reality"の筐体付近で列の取り合いをしている動画が流れている。ゲーム内だけでなくリアルでも戦闘をしなければ勝ち上がれないなんて、ゲームに逃げてきた意味がないじゃないか・・・。
「でもでも、本戦出たくないんスか? 私は嫌ッスよ? 練習不足で連携もままならないまま大会当日なんて。」
「そうは言ってもな・・・」
「それに、プロゲーマー達は自前で筐体持ってるッスよ。僕達はそんな奴らとタメ張らなきゃなんないッスよ?」
「待て待て、マジで勝ち上がるつもりなのか?」
「当たり前ッス! 僕、このチャンスをどうしても掴まなきゃなんで!」
「でも筐体が・・・」
「僕、ちょっと個人でゲーム筐体持ってる人が居ないか知り合いに訊いてくるッス。ここで待っててください!」
そう言い残して、彼女は飛び出して行ってしまった。全く目を見張る行動力だ。自然と私もスマートフォンの電話帳を開いている。
やれやれ、ここまでするつもりはなかったんだが。そう呟くと、私はスマートフォンを耳にあてがった。
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「おおー!すっっっっごいッス!」
サークルフィットの一角には、様々なゲーム筐体が置いてある。その中でも"Battle Surmount Reality"は三台も置いてある。流石ゲーミングジムというところか。まあ、私が仕入れさせたも同然なのだが。
「いやあ、須賀さんのお役に立てるなら光栄です! で、広告に載ってくれる件ですけれども、撮影どう致しましょう? カメラマン呼ばなきゃいけないんで・・・。 あ、瀬波さんも是非どうですか? タッグで優勝でもしてくれれば、ウチもウハウハですよ!」
「別にいつでもいいぞ。私はヒマだしな。その分、使用料まけてくれ」
「僕もいつでも大丈夫ッス! 感謝してもしきれないッス! それよりも早くプレイしましょう!」
「全く、私にも感謝の言葉が欲しいところだ。さて、ゲーム開始と行くか」
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