6話 同棲生活スタート!?

 夕日がマンション街の一角をオレンジ色に染める。陽だまりの中に、彼女はうずくまっていた。

 

 「あ、おじさん! ちょうどよかった、僕家出してきちゃったんで! 暫く泊めてください!」


 「却下」


 スタスタと自動ドアを抜け、エレベーターホールに行くためのキーをかざす。


 「ちょっとちょっと!どこ行くッスか! 女の子無視して置いていっちゃんスか?」


 私の通過を感知し、エレベーターホールに繋がるドアが閉まってゆく。彼女の声が段々くぐもっていくような感覚。


 「話だけでもお願いッスよ~。ね~」



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 キッチン越しに、簡単な机と座布団しかないリビング空間。客人が来た時に一応と用意してあった場所だが、女の子を連れ込むにしてはあまりに殺風景だ。

 

 「・・・で、居場所がなくなったってわけか。」


 ジムで張り切りすぎた私の体は限界で、自宅での寛ぎを求めていた。彼女の話を聞く場所にふさわしいのは、この場合ファミレスとかだろう。しかし面倒くさいという気持ちと、こいつなら変な心配は無用だろうという怠惰が、彼女を自宅に招いてしまった。


 彼女の話を総合すると、両親が家庭内で喧嘩ばかりしているので帰りたくないとのことだった。

 過去一番解りやすい嘘だ、と思った。彼女は心の底から心配事など無いような顔をしている。家庭の事情、ということならばそういった感情が自分もしくは家族関係どちらかに向いていてもおかしくない。

 しかし彼女に見て取れるのは、前向きな感情の兆候ばかりだ。とても感情のコントロールに長けているような人間には見えないし、訓練を積んでいるようにも見えない。その感情は本物だろう。


 「そんだけ元気に話せれば、問題なく見えるのだけれどもね。第一、私を頼る前に学校の友人を頼ったらどうだ」


 「もう頼れる友達、全員一周しちゃったッスよ。今まで一番の親友のところに転がってたんスけど、流石にそろそろ迷惑かな~って」


 「だからってうちに来るんじゃあ、無い」

 

 「いいじゃないッスか。それに、 "Battle Surmount Reality"の大会一緒にでるんスよね? 寝食を共にするなんて、プロゲーマーっぽくていいじゃないッスか。僕はテンション上がるッスよ?」


 初耳だ。まあ、タイミング的にそんなことだろうとは思っていたので、特段驚かないが。


 「それとこれとは話が・・・」


 「それに、おじさん働いてないっしょ? ならいいじゃないッスか!」


 「なにも良くない・・・。けれども、路上で死なれてても困るか」


 「ヤッター! でも僕、そんなか弱くないッス! 僕の強さは知ってるでしょ!?」


 かくして、私が大人になって以来、初めて私に同居人ができた。

 法律的に危険な匂いもするが、まあ別に捕まろうがどうなろうが、どうでもいいだろう。


 「そうだ、おじさんのことはなんて呼べばいいんスか? おじさん?」


 「おじさん、は止めてくれ。まだ二十台だぞ。ゲーム内と一緒でいいだろう。細かい詮索は面倒だ」


 「二十台、見えないっすね~。あんな恥ずかしくて長いハンドルネーム現実で呼べるわけないでしょ、【我流スサノオ】さん」


 「仕方ない。まあ、名前くらいはいいか。須賀。須賀公麿だ。あまり好きな名前じゃないから言いたくなかったんだが」


 「いいじゃないですか、公麿。かっこいいッスよ。私は瀬波優乃華。じゃあ、これからよろしくッス!」



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 人生で初めてのことで、興奮しすぎてしまった。けど、これでよかったかも?

 本当はもっとクールなキャラを演じたいはずなのに、彼の前ではテンションが上がってしまって、学校の友達と話す時以上に抑揚が付いてしまう。

 そんな空回りによって、逆に今日は助かってしまった。彼の家に転がり込むなんていう突拍子もないアイディアを実行に移そうと後をつけたり、家の前で待っているときは吐くくらいの緊張で震えが止まらなかった。けれども彼を見た途端、うれしくてそんな感情は吹き飛んでしまった。

 

 僕の周りは、常にゲームで溢れていた。ボードゲームやカードゲームを始めとして、格闘ゲームやFPS、RTS等の対人ゲームが主だった。父はそういった対人ゲームの開発者だ。

 

 そんな父に育てられた僕は、当然ゲームの上手さで同級生を圧倒していた。同い年の男の子とやっても物足りない。もっと強い仲間が欲しい。でも、母はこうした“野蛮なゲーム”でできる友達を良く思っていなかった。


 そんな僕の前に現れた、初めて見るタイプの人。彼のゲームはとても泥臭い。まるで軍人だった。戦術には常に最高効率の勝利と、最低限のリスクを追い求めていた。ネット上では避難されるような卑怯な手を難なく我が物として使いこなし、上位ランカーとして君臨している。

 彼の勝率は目を見張るものがある。それに、ゲームを終えた後に見る彼の顔は、渇望感の塊だった。ただのゲームの対戦、その勝利では到底塞がらない心の穴を感じさせた。


 そんな彼となら勝てそうだという確信。 "Battle Surmount Reality"の大会発表直後に彼を捕まえられたのはとっても幸運だった。神様からの思し召しかもしれない。実際にゲームをプレイしてみた感じでも相性は悪くないみたいだし、僕の確信に間違いはなかった。

 どうしても、この大会で勝ち上がらなきゃいけない。

 

 それに。

 一緒にゲームを遊んで分かったことだけれども。

 彼がゲームをしている時、ゲーム内でやってることのえげつなさとは裏腹に、心から楽しんでいる顔をしている。長年惰性でゲームをしていた僕に無かったものだ。

 偶々髪が絡まってVRヘッドセットを外した時に見た、彼の表情。普段のつまらなそうな顔とのギャップで眩しくて、あれから見ることができない。

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