4話 戦い慣れした二人の楽しいタッグバトル
「この試合、サクッと勝ってレート二千台に上げるぞ、弟分!」
「おうよ! 兄貴の考えた至高のタッグ。四丁拳銃の戦略に死角は無え!」
俺たちは流浪のガンマン。かわいい弟分と共に、今は亡き古き良きカウボーイの装いで悪い奴らを撃ちまくるぜ!
オートマチック機構のついていないリボルバー拳銃は、速さ・射程・威力共にゲーム内で使用できる武装じゃあ最強クラス。ステイツの腕利きガンマンが二人でぶっ放せば、余裕で勝てるってもんよ!
「弟分、次の相手決まったみたいだ」
「おうよ! 誰が相手だろうが関係ねえ。蜂の巣だぜ!」
荒野のフィールドに風が吹き、対戦相手が見えてくる。
「兄貴!なんですかい、あのバカでかい弓矢は!まったく笑いものだぜ、ハッハッハ」
「銃に何一つ及ばねえ、だせえ武器だ。あんなトロい攻撃にあたるんじゃねえぞ!」
「あたりめえよ!」
カウント零が響き、勝負が始まる。
「先手必勝だ、弟よ! 一方的に撃ちまくれ!!!」
その瞬間、敵の姿が白い煙に包まれる。
煙は風に流され、あっという間に俺たちを包囲する。
「だめだ! 敵のHP全然削れてねえよ!」
「兄貴、落ち着くんだ!まずは煙幕の外に出て… なんだ、このサムライ!」
金属音が鳴り響き、弟のHPが見る見るうちに削られていく。弟がナイフ戦で圧倒されるなんて!
「チッ、俺が全員片付けてやるよ!!!」
後ろ手に走り抜ける。こっち側に逃げてしまえば、敵弓兵からも死角だ。戦闘開始からほとんど時間は経っていない。後ろに抜ければ安全だろう。
煙幕を抜け、音の方向へ拳銃を構える。横目に見える、背の高い木が動いたような気がした。
違う、あれは木じゃない!
バカでかい弓がこちらに向かって照準を合わせている!なんてこった、こっちの動きが読まれてたのか!
機転を利かし、煙幕の中に再び入り込んで逃げようと…
シュパン
画面が暗転し、YOU LOSE の文字が浮かんでいる。
いつの間にか、弟の方も応戦しきれずに負けてしまったようだった。
サムライ装束のほうが強いのは判るが、ジャージに弓矢などという初期アバター風情が、こちらの動きを読んだ上、あの規模の煙幕を十秒程度で回り込んで来るなんて。流石、"Battle 《Surmount》 Reality"の生まれた国、日本ってのは化け物揃いだぜ。
「負けちまったなあ、兄貴。俺が捕まっちまった」
「なあに、お互い様だ。負けたって、次二連勝すりゃあいいだけだぜ。現実世界と違って、ゲームはチャレンジし放題なんだからな!」
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「いやあ、僕の華麗なクナイ裁き! おじさんに見せてあげたかったなあ!」
「本当に馴れ馴れしくなったというか無礼になったというか…
三日前のお前を録画して今見せてやりたいよ」
「しょげた顔しちゃってぇ! 元気な女の子の方がいいッスよ!」
本当に、変わってしまった。
結論から言うと、かなり重篤な人見知りらしい。共にゲームを初めて5戦目くらいまではまだ可愛げがあったが、三日経った今日では以前の面影はどこへやら。
「まあ、ゲーム内でのボイスチャットで意思疎通できるようになった、というのは有難いけどね。最初のころなんて何言ってるのかわかんなかったよ」
「忘れましたー! 僕は未来しか見えてないんでー! それよりも次! 早く次やりましょう!!!」
プリペイドカードをかざし、ゲームを起動する。
現在、火曜日の午前十一時。ゲームセンター内にはほとんど人がいない。それもそのはずで、普通の平日の、何もない一日だ。こんな時間からゲームセンターに足を運ぶのはニートと午後から動き出す種類の大学生くらいだ。
「しっかし、僕の作戦はやっぱり最強ッスねー! おじさんの違法手榴弾がメッチャ便利ってのもありますけど。使い手次第ってところありますよねー」
「人聞きの悪いことを言うんじゃねえ。ゲーム内なら誰にも迷惑かかんないんだし、いいだろ。中身はちょっと友人に拝借したものだ。犯罪者の誹りは私じゃなくて、彼が受けるべきだな」
対戦相手が決まり、ステージに降り立つ。
ヘッドセットから、朗らかな彼女の声が聞こえる。未だ、お互いのことはハンドルネーム以上のことを知らないままだ。こんな時間になぜゲームをしていられるか。大人として、いつかは訊かなきゃならない事だ。
カウント三十
「おっ、噂をすれば、相手も毒使いッスよ、おじさん」
「毒使いは否定できないけれども。この担いでる大きな武器をもっと褒めてくれよ。特注品なんだよ」
「煙幕弾だって自作でしょ。そっちの方がすごいじゃん。」
カウント二十
「しっかし、敵どっちも堅そうっすねー。毒撒いてこっちの攻撃耐えてれば勝ち、みたいなズルいやつッスよ、絶対」
「そういえば、重装甲纏った相手への対策忘れてたな。どうするか。」
「おじさん偶には自分で考えたらどうッスか? いつも僕任せだと強くなれないッスよ!」
カウント十
「なーんもわからん。とりあえず当たって砕けるか。」
「今度の相手、レート高いッスよ。そんな雑でいいんスか?」
零
「行ってこーい!援護は任せろー」
煙幕弾をパスして、突っ込ませる。
軽口を叩き合っていたが、こういった場合に用いる手段は決まっていた。
私はマッチに火を着け、火矢に点火する。
「準備オッケーッス!撤退します!」
接敵して煙幕のみ張ってきたユノカが下がってくる。
タッグを初めて三日。まだまだ粗削りだし、シングルバトルで培った素の戦闘力に頼りきっているところがある。
相手は重武装。煙幕から完全に出てくるにはまだ時間がかかるだろう。
もう、手遅れだ。火矢を煙幕に向かって放つ。
白く巨大な靄は、一瞬にして赤い柱と化した。
いくら熱耐性がある装備だとしても、この規模の炎上は耐えられない。
相手のHPも真っ赤に染まる。
「ヤッター! これで五連勝目!」
漠然と勝ち進んでいるが、彼女は何を目的として私に声をかけてきたのだろうか。
タイミング的には大会に向けてのタッグ相手を探していたのだろう。だとしたら、もっと真剣にやらなければならないのだろうか。
女子高生とゲームをしている状況が非現実的すぎて、脳が微睡む。
楽しんでやってれば勝ち負けなんてどうでもいいか。真剣になりすぎて人間関係を切り売りしていく、なんて真似事はもう御免だ。
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