3話 女子高生忍者とタッグ結成!

 振り向くと、昨日見た少女が袖を掴んでいた。

 タッグを組もう、という誘いを掛けてきた彼女をよくよく見る。

 高校生くらいだろうか、身長が高いわりに幼い顔立ちをしている。黒いロングヘアーに紺のブレザー。発育の良い中学生では無い、というのは判った。

 

 「タッグはやったことがないんだ。悪いんだけど、他の人と組んでくれないか?」


 やんわりと断る。事実、タッグバトルは愚か、シングルバトル以外のレギュレーションで遊んだことは指折り数える程度だ。


 「大丈夫です。ちゃんと、私が、倒します」


 緊張しているのか、言葉のイントネーションが滅茶苦茶で、まるで壊れたロボットだ。

 それもそうだろう。私の見た目は未成年の女の子が気軽に声をかけるには厳しいものがあるに違いない。

 町を歩いていても人が避けていく強面と背の高さだ。無職になるまでの四年間、昼夜問わずしかめっ面で居た賜物である。


 「落ち着いて喋ろう。私が一回ゲームプレイしている間に落ち着いてくれ」


 ブンブンと頷く仕草にほくそ笑む。危うく一番乗りを逃すところだったが、なんとか筐体を取れそうだ。

 歩いていき、プリペイドカードをあてがい料金を支払う。

 さて、画面内で何か変わっているところがないかな、とじっくり画面を眺めてる。すると、横で何かがチラチラ動いていることに気づく。


 隣の筐体で先ほどの少女がプレイを始めている。プレイレギュレーションの選択画面でタッグバトルを選択したところをしきりに指さしている。しかも対戦レートが変動するレート戦だ。


 ここまでアプローチされては無視するわけにもいかない。私もタッグバトルを選び、店内マッチングを押す。

 やがてタッグ相手候補の中に、昨日見た忍者コスのアバターが居る。バトルネームは【YUNOKA】と表示されている。

 アップデート後初試合が、まさかこんな形で始まるとは。脱力しかけながらも、対戦相手検索中の画面まで来てしまった以上は気合を入れる。

 隣ではやたら張り切っているのか、先ほど俯き話しかけてきたとは思えないハイテンションさでピョンピョンと飛び跳ね、ウォーミングアップしている少女の姿があった。


 まあ、ゲーム内の動きからして彼女もかなりの高レート保持者だ、なるようになるだろう。ヘッドセットを装着し、マシンに足をかける。対戦相手が決まる音は、いつでも私の気持ちを戦場へと駆け上がらせる。

 

 対戦相手は、データを見る限り近接型二人で、レートは千八百台。私のタッグバトル対戦レートが低いおかげで、シングルほど相手レートが高くないのが救いだ。というかズブの初心者が隣にいるのに相手が千八百台はおかしくないか?  

 この程度の相手なら、敵とこちらの配置がよっぽど近いか、遮蔽だらけのマップを引かない限り勝ちだ。私の開幕一矢で二対一、GGだ。


 対戦前カウントが始まる。残り三十秒。この間に情報を整理しなければならない。

 マップは湿地。所々ぬかるみが酷く、走り回るタイプのプレイヤーには嫌われやすいステージだ。味方同士は横隣りで、敵との距離は八メートル程度と言ったところか。遮蔽は無く、見晴らしも良い。どこへ駆け込もうが逃げ道はない。


 残り十五秒。


 目視する限り、敵は各々違う武装を持っている。中華服は統一のアバターのようだが、ちょこんと頭に乗っかった帽子の色が違う。

 赤い帽子は両刃の中国剣を持っており、比較的軽めな恰好をしている。もう片方は所々に鎖帷子を着こんでいるようで、手には鎖鎌を持っている。

 お世辞にもタッグの相性が良さそうな武装の組み合わせとは思えないが、こういったコンセプトの揃ったチームである程度勝っている、というのはカッコいいものだ。


 カウント表示が残り五になり、矢を番える。

 残り三で弓を引く。

 残り一。狙いを完全に合わせ、敵の膝の位置、踏み込みの確度、目線の方向を鑑みて狙いを定める。

 零。


 矢を放つその瞬間、相方の女子高生忍者は目にも止まらぬ速さで敵の懐へとダイブして行った。

 味方の攻撃も味方に当たってしまう判定がある故に、射る手が躊躇する。下手な防具を積んだ敵でも鎧袖一触、即KOだ。防具のぼの字すらない恰好の味方に誤射してしまっては流石に申し訳ない。相方の動きが解るようになるまで、攻撃の手を休める決意を下す。


 約十メートル先では、対戦相手二人が間に入ったくノ一に翻弄されている。その圧倒的な実力差を見て、私は構えていた矢を矢筒に戻す。

 俊敏な少女を切りつけようとする敵の斬撃は当たらず、宙を舞っている。鎖鎌はその武器の持ち味である中距離での牽制を発揮できずにいる。

 二人の斬撃は非常に鋭く、テンポも早いのだが、全く当たる気配が無い。

 少女の動きは常軌を逸している。その姿はまるで散り行く桜の花弁を掴むが如く、機敏で繊細だ。単純な速度だけではない、動きの変則性に思わず見惚れてしまう。


 あれよあれよという間にこちらの攻撃だけ当たり、敵の攻撃は当たらないリズムができてしまった。このゲームは、私が居ても居なくても勝敗に関係は無い。

 戦闘に直接参加はしていないが、相手の頭を撃ち抜いた試合後のような胸の高まりを感じる。

 他人のバトルを見て心が躍るなんて、始めたての頃以来だ。


 

 


 「どうでした!? 僕の華麗な戦闘術!!! 名付けて、《揺蕩う黒い疾風》!!!」


 ヘッドセットを取り外し横を見ると、得意げに目を輝かせている少女が、こちらに駆け寄ってくる。

 先ほどの怯えたような口調はどこへやら。ゲームでテンションがおかしくなったのか、それとも緊張が解けて普段の話し方に戻ったのか。技名のセンスを聞く限り、一過性の前者だと信じたい。

 

 「そんな名付けのセンスを持った人間とはタッグ組みたくないな。私が今考えたから改名するんだ。私も一緒に考えよう、ユノカちゃん。」


 「それって、タッグ組んでくれるってこと!? ヨッシャー!!!これで三十億は僕のモノだ!!!!!」


 

 どうやら騒がしい人に懐かれてしまったようだ。声をかけられたときの大人しそうな振る舞いは好印象だったと言うのに。ゲームの中で別人みたいな人格変化を遂げる人はいるが、ここまでハイになれる人もそうそういない。

 しかし、私は魅了されてしまった。この子の今のプレイングもそうだし、何よりも、その先が見たいと思ってしまう。潜在能力だけで言えば、このゲームセンターにいる人間誰にも負けないのではないか。

 タッグの道も悪くないかもしれない。シングルバトルでの戦いは、当分お預けだ。

 タッグバトルの魅力はまだ見えないが、少なくともこの少女の戦いを、もっと見たいと思ってしまっている自分が居た。

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