第5話 撤退しかありえない
マラマタの町を出て、しばらく走った森のなか、治癒霊薬のために素材を乱獲していく。
気配を消しながら、魔物を避けて、黙々と暗闇のなかで草をつむ。
たまに木々の間から月明かりが差し込んでいて、そういった場所も避けて通るようにする。
そうして、また黙々とみつけた薬草の群生地に手をのばす。
馬より自分の足のほうが速いので、みんな錬金術ショップにあずけてきたが、今にして思えば、あの店主は信用ならなかったかもしれない。
頑固で偏屈なじいさんのことだ。
もしかしたら、うちのキナコ二世に破廉恥ないたずらを……。
「はやく戻ってやらないと。うちの子が危険だな」
草汁でよごれた手を布でぬぐい、腰をあげて、魔銃を背負いなおす。
収穫は上々、不足しているという素材は十分に集まった。では、帰るとするか。
「……ん」
何か、妙な気配がする。
肌の表面をあわだたせる、嫌な感じ。
産毛がぬけるよそ風に揺らされ、夜の香りを鼻腔に運んでくる。
「っ」
その時、俺は背後から死の接近を感じとった。
反射的に振りかえり、腰からサーベルをぬいて暗い輪郭をもつ鋭利を受けとめる。
ーーギィンッ
危機一髪。
目の前で火花が散る。
照らされるのは真紅の瞳と、大きく開いた口からのぞく発達した犬歯、そして美しい少女の顔だった。
「ぐ、吸血鬼だとッ!?」
「きゃははは! 死人みたな目をしてるな、貴様ァ!」
鼻先で高笑いする少女、その特徴がしめす存在はただひとつーー吸血鬼だ。
世界最強の怪物種にして、もっとも有名な悪。
人間にとって致命的な特性を秘めた最悪の敵。
まさか、こんなところで出会ってしまうなんて。
ーーギギギィ
吸血鬼の
体幹を崩され切るとまずいな。
「ぐっ!」
一撃を受けとめただけで、地面に足がめり込む。
怪物と腕力勝負などしてられない。
俺はつばぜり合いに刹那の後に見切りをつけ、サーベルの先をずらし、吸血鬼の力の方向から身をかわす。
ここだ。
一瞬確保できた視界をもとに、がら空きの吸血鬼の腹へ膝蹴りを打ちこむ。
「ぐひゃっ?!」
うめき声とともに吸血鬼の体がはるか彼方へ吹き飛んでいった。
ずいぶんと軽かった。
獲物に襲いかかるにも詰めが甘い。
それにわずかでも、真正面からの筋力抵抗ができたことを考えると、あの個体はかなり弱い吸血鬼なのかもしれない。
しかし、だからと言ってこんな夜に、森のなか、ろくな装備もない状態で、吸血鬼とやり合うなんて自殺行為だ。
さっきの一撃でサーベルも歪んでしまった。
鍛錬により身につけられる、
戦士が人を越え、獣に立ち向かうための
人類中ならば、俺も最高峰の剣気圧をあつかえるが、それでも人及ばぬ怪物のまえでは、達人だろうと、素人だろうとどんぐりの背比べだ。
弾を使えば殺せるが、仲間が潜んでないとも限らないしな……悔しいが、ここは撤退しかありえないか。
剣気圧のおおくを脚力にまわして、町の反対方向にとばした吸血鬼から、俺は最高速度で距離を離していった。
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