第3話 霊薬など売らん
マラマタに到着した。
「さて、では行くぞ、キナコ二世」
「がう、ご主人、あしが、足が痛いよです……がう」
ジトっとした金色の半眼が刺さってくる。
「慎重に運んでほしいがう」
「ひひん!」
「よろしい」
馬車からほどいた馬にキナコ二世を乗せて、手綱をひいて歩く。
「うっかりケモ耳がぽろりしないよう気をつけろ」
「余裕って感じだよ。がう。それにしても、あたし、人間みたいに馬に乗るのはじめてかも。のろっちょいけど、勝手に進むのは新鮮な気分だねー! ……がう」
足に穴が空いていることを感じ差さない、満面の笑みに心が、ふわっとする不思議な感覚をえる。
なんだこの気持ちは。
「……おほん。それはよかった。存分に乗馬を楽しんでくれ。ん、なに、お腹すいたからこの馬食べていいか、だと。やめなさい、非常時でもないのに、お馬さんを食べちゃダメです」
爪立てようとするキナコ二世を、たしなめるのに苦労しながら、俺たちは宿屋を発見した。
もう夜だが、このまま出かける。
平気そうにしているが、銀弾による銃槍、キナコ二世の足の怪我は一刻を争う傷である。
この町の規模だと、冒険者ギルドがあってもいいはずだが、以前の街で聞いたかぎりでは、ここにギルドは存在しない。
大陸の最西はギルドが町ごとに設置してあって、装備の供給も充実してるらしいが、ここらへんはまだまだと言うことだろう。
ただ、これくらいの時間なら、錬金術ショップが開いているはずだ。
治癒霊薬をつくれる彼らの店に行けば、たいていの旅と狩りの道具はそろうのは、大陸のどこでも変わらない。
というわけで、キナコ二世を乗せた馬をひいて、人影をつかまえて聞きこみ調査を開始する。
2、3人に話を聞けば、目的の建物はすぐにわかった。
「キナコ二世、ちょっとここで待ってるんだぞ」
「はい、了解であります、ご主人。痛いけれど、このキナコ二世は誇り高きオオカミだから、我慢出来るのであります。がうがう」
「うんうん、偉い子だ」
馬たちと荷物の見張りをキナコ二世に任せて、錬金術ショップ店内へ。
「……暗い」
旅を再開してから、何度か同じような店に来ているが、ここは格別に雰囲気が暗い。
まあ、魔術ではなく錬金術の道を選んだ時点で、ほとんど変わり者と決まっているし、錬金術ショップなんてどこも大概よどんだ空気が、ただよってる場所ばかりなので、それほど驚くことではないか。
汚れた薬瓶、少量の鉱石、何かの粉末、怪しげな植物、魔物の骨、蝋燭、銀の杭……などなど。
商品が陳列する棚をながめながら、治癒霊薬をかるく探し、店の奥へとすすむ。
こういうのは店主にたずねたほうが早い。
ろうそくの明かりに照らされる小さなカウンター内に、手元で忙しなく、なにか作業をしている、背中の曲がった店主を見つける。
近づくと、店主は黒いローブのフードから鋭い目つきでこちらをいちべつし、「ふん……」と鼻を鳴らして、手元に視線をもどした。
「こんにちは、ご老人。良い夜ですね」
「ふん、そうでもないわい。月の夜は不吉だと昔から決まっておる」
「ふむ、そういうものですかね」
あまり聞かないけど。
この地方特有の考え方かな。
「ふん、そういうもんじゃ。……で、こんな
「霊薬を買いたいんです。治癒の霊薬をありったけ」
「はっ、それは無理じゃな。あきらめい」
「え……な、理由を聞いても?」
「ふん、理由はふたつ。わしが売りたくないのがひとつ目。そして、わしが売りたくないのがふたつ目じゃ。ほれ、帰れ帰れ」
手をひらひらとふり、店主は手元の作業にもどった。
こ、このじじい、商売する気あるのか。
クソ、こっちは急いでるのに。
どうすれば売ってもらえる。
このどうみても偏屈で、頑固で、よそ者嫌いな爺さんを、どうすれば動かせる。
「……ん?」
カウンターの向こう側、ちょっと背伸びして店主の手元を見てみると、それが見覚えのある作業なことに気づく。
あれ、この爺さん、
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