第3話 異世界に…『降り立つ』

視界を埋め尽くす光…あまりの眩しさに自らの視力が無くなったのかと思ってしまう…。


頬をそよ風が撫でて行った。先程まで屋内に居たはずはので明らかな変化だ…。


(せ、成功したのか?!?!)


内心は成功するかどうか…とても不安だったのだ。だがこのそよ風は俺の不安を吹き飛ばさんと更に勢いを強めていく。


視界を埋める光も徐々に薄まっていき、温かみのある太陽の光が変わりに世界を照らしていく。


「や、やったぞ…成功だ!」

と、とうとうあの忌まわしい国家から脱出出来たのだ!!


しかもここは異世界。簡単には追ってこられまい。あぁ、これが自由を得た時の開放感か!まるで空を飛んでいるかのようだ!!



いや、違う…この浮遊感は…


「お…落ちてる……落ちてるぅぅう!!!!」

ブフォォォオオオ!!!身体中を打つ強風が凄まじい音を立てている。なんて高さだ…こんな勢いで地面にぶつかれば…。


(ク、クソがっ!高さの座標がイカれたのか?!)


「起動・魔力飛翔ギーブ・フライト!!……んんッッ?!?!」


飛翔の魔術を発動させる、背中に直径150cm程の魔法陣が描かれる。それによって生み出されるベクトルを全力で真上へ向ける…が!!


体が浮かない!!。普段なら縦横無尽に空を飛び回れるのにっ!!。減速はしている感じがするので不発ではない、出力が弱すぎるのだ!!。


(精神を集中しきれてないのか?!魔力への干渉が甘いから飛べないのか?!…いや、違う…これは…)



「『薄い』っ!!、なんだここは?!。魔力が『薄過ぎる』!!!。」


世界を飽和する物理に干渉しないエネルギー。それが魔力だ。魔術とはその魔力を精神で制御し、物理世界へと干渉できるようにする技術だ。つまり、何が言いたいかと言うと…


(魔力が薄すぎて魔術がカスみたいな出力までしか出せないのか!!)



ま、まずい…この程度の減速では跡形も残らずペシャンコになるのが、多少は跡形が残ってペシャンコになる程度にしか変化しない…。


「そ、そうだ!まだ身体昇華グレンディアが残ってるはずだ!!」


発動時に周囲の魔力を取り込み、爆発的に身体能力をあげる術。発動後も維持に魔力は必要だが、まだしっかりと発動している…。


(だがこれもずっとでは無いな…。)


明らかに魔力が薄いこちら側の世界では向こう程の時間を維持出来ないだろう。ならば…


(意味の無い減速なんてしてる暇はない!!、出力を全て『真下』へ向けて全速力で地面にぶつかりに行く!!)


真上へ向けていたチカラを真下へ。衝撃に大して少しでもマシになるように足を下にし、膝や腰を曲げる事で衝撃を緩和できるような姿勢をとる。


ゴオォォォオオオッッッ!!!

先程よりも勢いをます風。もし地面にぶつかった時に強化魔法が切れていたら…いや、異世界への転移の時点で生死を掛けたギャンブルだったのだ!


(いける…俺なら…『生ける』!!!)




地面が近ずく…





生死の緊張感から音が消える…





そして地面へ…降りる……





ズンッ!ドォォォォォオォォオオオン!!!!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




爆発魔法とゆうものがある。瞬間的に高い圧力と圧倒的な熱量を持たせた空間を作り出し、爆発を発生させるものだ。大して俺が起こしたものは純然なまでの着地ついらくによるただの衝撃波…。


遮っていた木の枝は粉々に砕き、地面へ着地した瞬間ズボズボと足が地中に刺さり、その圧力に負けた地面が爆ぜた。


小さなクレーターの中で膝立ちになる俺、上を見れば生い茂った木の枝に大きめの穴が空いている…。


(…い、痛い…だが…生きてる…。)


驚く事に体に外傷は見られ無い。流石は俺、もう辞めた(つもりだ)が賢者と呼ばれるだけはある。



「イテテテ…凄まじい威力だったな……よし、これは魔術体技スペルアーツ無謀降下ジャンキーダイブと命名しよう…。」



さてと…傷は無さそうだが何かしらの変化は…


「ん?髪長くなってないか?」

サラサラ〜っと視界を盛大に隠す前髪。前はここまでは長くなかったのだが…


「全体的に伸びてるな…転移の副作用か?」

低魔力下での長期滞在。これを魔術を多用する者が行うと毛髪の伸びが早くなると聞いたことがある…、世界(に蔓延する魔力)との接触面積を少しでも広げる為だとか何とか…にしても急すぎる気はするが。


他はローブがボロボロになったくらいか…まあ、服としての機能は満たしているし、気にしなくていいか。


どうやら俺は髪が伸び、服がボロボロになった事以外は転移前と変わらないようだ。とうとう俺も新たな魔術…異世界転移アナザワピドを確立させてしまった!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




うーん…見た目だけならこちらの植物は向こうと大差は無いようだ。体が重いなんてことも無ければ息も普通に出来る。違いと言えば魔力の薄さだけだ。



「しかし、こんなにも魔力が薄いとは…これではしたくても賢者なんて出来ないな!」


魔術は俺の生きる糧で有り、唯一の才能と呼べる物だ。だが俺を縛り続けた楔でもある。少なくともこの世界で俺は、賢者として祀り上げられることは無いのだ。


起動・聴覚補強ギーブ・ヒアリング…」

やはり魔術は使える。出力が低いだけで発動から反映まで、一切の変化は無い。


「ん?何の音だっ?!」

聞いたことの無い低音だ。もし生物から発生するものならそれなりのサイズは有るだろう。警戒すべきだ。


(やれやれ、魔術がこの程度ならあらゆる存在にビクビクすべきだな。目に付いてから消し飛ばすような真似はもう出来ない。)


生物なら探る必要がある。それ以外でも確認はしておくべきだ。


生い茂る草を掻き分けながら音のした方へ向かう。もし向こうと時間が同じなら真昼のはずだが高い木にその光を殆ど吸われ、土も草も湿っている。


(小さい頃を思い出すな…覚えたばかりの魔術を使って近くの森を探検した時の。)


俺は小さい頃から祖父母の元で育った。両親は共に優れた魔術師だったのだが、俺が3歳の時に王都周辺に突如顕現した『夜刻の20』の討伐に駆り出され、多少のダメージを負わせるのと引き換えに命を落としたのだ。


その後、『夜刻の20』は王都目前まで迫ったのだが、後に『昼刻の14』とされる…ハゼガルと名乗る老人の姿で降り立ったそれとの激闘の末、逃げ去ったとゆう。


両親を失くした俺に残されたのは、大量の書物、魔術の才能…そして俺の両親は本当に死ぬ必要があったのかとゆう疑問だけだった。


(あの頃は父母との繋がりを感じれる魔術を覚えるのに必死だったな…それを試す為に森に入っていたんだっけ…お?、なんか明るいぞ。)



少し草を掻き分けて進んでいくと20m程先に光が差し込んでいる場所があった。恐らく背の高い樹木が生えていないのだろう。


うーん、先程の音の正体は分からないが取り敢えず日が差す場所に出れそうだ。



「ん?なんだこれ?」

草を掻き分けた先。そこには少し土を盛り上げた所に灰色の岩を伸ばしたような物が右から左へ、見渡す限り延々と続いている…と言ってもどちらも緩やかにカーブを描いているので案外短いかもしれないが。



「またか!!」

再び先程聞こえた音が聞こえる。が、今度はこちらへ近づいて来ている…とゆう事は生き物。魔獣か?いや、これだけ魔力が薄い場所で魔獣は発生しないはず…。


(とか考えてたらもうすぐそこまで来てる!!)


「よし、異世界視で見た際に人がいるのは確認済みだ。現地人かどうかを確認しよう。危険な生物だとしても魔獣出ないなら今の魔力でも十分だ。…多分。」


生き物と魔獣・魔人には大きな違いがある。魔獣・魔人は生まれつき魔力によって補強された体で生まれるのだ。産まれた時から身体能力強化の魔獣が発動し続けているとも言える。


それ故に魔力の濃淡で強さや出現率が変わる。こんな魔力の薄い場所に魔物は居ないだろう。



(さぁ、来い!!。もし俺に危害を加えるものだとしてもすぐさま光撃レイで穴だらけにしてやる!!)

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