第2話 この仕事には嫌気がさします
オーフェシア王国。俺が産まれ、育ち、光輝の聖賢とゆう御大層な2つ名と共に賢者の役職に任命した国だ。
俺は21歳の時に、魔術師として極まった実力を認められ、半分傭兵的な扱いで賢者となった。要するに塔で研究なんて高貴な事は期待されておらず、外でどれだけ暴れられるかが俺の価値となっているのだ…が、
最近は明らかにオーバーワークなのだ。一応こうなる時を予想して、志願した者の中から特に優秀な者を弟子として育てたり。雑魚の片付けを丸投げできるように騎士団を1つ借りたりと努力はしたが…それでもこの激務には耐えられない…。
今や歳も23を超えた。2年前のやる気なんてとうの昔に消え去った。やりがいなんて無いのに命をすり減らす様な任務をこなし…こんな日々から解放される将来とささやかな休みを支えにして毎日を生きている。
しかし、未来はそんな都合よく動かないのだ。活躍すればする程、俺が渇望する未来は遠ざかる。
だがサボってしまえば王命違反で罰を受けるだろう。そう、…ならば他に道は無い…。俺に残された道は…
「ケンラッ!!、探したよ!」
王城の巨大な門扉の目の前まで来た時。トタトタトタと子気味のいい音を立てながら赤髪の女性が近づいてきた。
「やっぱり今回の作戦は厳しいものだったね…ケンラが居なければ全滅も有り得たし…やっぱりこの国はケンラが必要だね。とゆう訳でどう?、これから近場の反王制派の拠点を潰しに行かない?」
こいつの名前はアンナ・シャフール。歳は俺の1つ下だが父親が有力な貴族だそうで、騎士団長をしている。何をしても国の為だと信じ、国の為に何かをする事が気持ち良くて仕方がない危険人物だ(俺にとっての)。
「アンナ…お前は俺が王から授かった6日とゆう吹けば飛びそうな休みさえ邪魔をしたいのか?」
一般市民の多くは5日働き、2日休むそうだ。つまり俺が6日の休みを貰うには15日働けばいいとゆう事だが、今回の作戦は合計で37日間もの間続いたのだ。
そもそもこの国は領土がデカすぎる。隣接する国家とも仲良くしている訳では無いし、魔族の支配する領域とも接している。おかげで軍隊の多くは国境に釘付け、俺達のような戦力を動かし続ける事であらゆる問題に対処しているのだ。人が足らんのだ、人が。
「はぁ…普段は殆ど感情を出さないのに、休みに関しては五月蝿いよね。真の愛国者なら休みなど体が動けるようになれば返上する物でしょ?」
そう、俺は無表情だとよく言われる。だがこれは誤解だ。確かに幼い頃に比べれば異常なまでに感情の起伏が無くなった。しかし、これは俺のせいではない…
「感情を出さない、と良くお前らは言うが…これは光魔法の使いすぎによるものだ。酷使しすぎなんだこの国は。俺を使いすぎなんだ。休みを返上するなんて死んでも御免だ。」
そう、黒魔法に精神汚染の弊害があるように光魔法にも弊害がある。例えば俺の見た目、髪は銀色で肌は病気かと疑われるほど白い。元々髪は黒く、肌も健康的な色だったのだが、この2年で一気に脱色された。これに加え、感情の起伏が無くなる。イライラが半分になる代わりに喜びも半分だ。
あと、最近は特に痩せてきている。まあ、これはストレスと戦地での栄養価が足りない食事が原因なのだが。
「使いすぎって…賢者として国と王に仕えているんだから、その2つに貢献する事は喜ぶべきでしょ?。本当に、ケンラは変わったね。」
そう吐き捨て、少し冷たい目で俺を見た後、アンナは去っていった。
くそっ、気分が悪い。騎士としての実力は確かだが一緒に居るだけで愛国精神に蝕まれていく。
まあいい、早く帰ろう。でなければ王から妨害を受けるかも知れない。こんな職場とは『おさらば』するのが1番だ。
俺は早足で王城を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
徒歩で30分。疲れた体には堪える距離だが王城とはなるべく距離を起きたい、そう思って賢者になった時に買った家だ。中々広い子の家に、今は弟子4人と共に住んでいる。
しかし、今はその弟子達は居ない。全員が今回の作戦で怪我を負ったからだ。軽傷だがもしもの事があってはならない。くだらないことで賢者の弟子に脱落されるのを許す程、この国に余裕は無い。
今日やらずしていつやるのか。あぁ、今日は絶好の『異世界』日和だ… 。
精神を集中し、魔導陣を空間に現出させる。その魔道陣は白く光を放ち、次第にある場所の景色を映し出す…
(あぁ、なんていい天気なんだ。日差しの温かみがここまで感じられる!)
遠隔視の魔術、依然に1度だけこの魔術を失敗したことがある。
見たい座標を間違えて術を起動させてしまったのだ。敵地の上空から偵察するつもりがアンナの屋敷の浴場を覗くとゆう大きな間違いを。
しかし、そこに映ったのは見た目だけは最高クオリティのアンナでは無く……
しわしわのおばあちゃんが湯のみを手に日向ぼっこしている姿だったのだ!!!
「な、なんだこれは?!誰だこのはBBA《ババア》っ?!?!」
あの時は思わずこう叫んでしまった。後から分かったのだが座標以外にも術式に間違いが有り、それによる現象だと分かった(違いを探す為に少し術を組み替えては起動を繰り返した。アンナの良い所も見てしまったり、見てなかったり…)。
「今日こそ俺は…この世界に…。」
転移とゆう魔術が有る。設定した座標へ一気に移動する魔術だ。遠隔視とゆう魔術もある、指定した座標を見る魔術だ。
つまり、遠隔視で見れたのなら転移で行けるのでは?そう思って試行錯誤を繰り返し、術式の編纂をし直し、早くも3ヶ月…。ついにあちら側へ無傷でリンゴを送り、それを異世界視(遠隔視の異世界版)で確認したのだ!!!
無論、リンゴが無事だからと俺が無事な保証は無い。ただ一度の成功のために数多の失敗をしてきた。
だが、それでも俺は今日…この術を使う!!
結局何をする時も大事な事は変わらないのだ、
何かを成し遂げたいのなら、自分を取り囲む環境に流されるのではなく立ち向かうのなら…
乗り越えるしかない、危険だ不安だなんて言う暇は無い。背中を向けるのが怖くて逃げ出す事が出来るか!!
「起動・
かなりの集中力を要する並列詠唱。その限界に挑戦する様に最高クラスの身体強化魔法を唱える。
足元に魔導陣が描かれ始め、終わる。
白い閃光を放つそれに魂を吸われるような感覚がする。
「いよいよだ、もうこの世界に俺の平穏は無い!未練も無い!後のことは弟子達に丸投げだ!!」
もともと楽するために育てた弟子達だ、頑張れとしか言うつもりは無い。
「さぁ、腕を広げて待っていろ異世界!!俺の無くした平穏と共にな!!」
視界が白で埋め尽くされていく。頭の中身も白く塗りつぶされていく。俺とゆう存在が白に溶け、光に霞んでいく……
俺が向かうのは一体どんな世界なのだろうか…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます