異世界で過ごす休暇の為に
@papikon
第1話 俺は賢者だったりします
コツン…コツン…
大理石で出来た階段。その1段1段を登る度に、心地良い音が響き渡る。
(あぁ…何だって俺は謁見の間に呼び出されてんだ。)
そう、俺が登っている階段。実は俺の国の王城の階段だったりする。横幅は5m程有り、数段ごとに鎧を来た近衛兵が立っている。人件費の無駄遣いだ、階段を守るくらいなら入口に待機所でも作れば良いのに… 。
(あぁ…身体中が痛い。俺の戦果に対しての報酬を渡すとか何とか言ってたが。それなら俺を呼び出さずそっちが来いよ。クソッ…)
そう、実は俺はそこそこ強かったりする。なのでこうして国からあれをやれ、これをやれと命じられ…どれだけ満身創痍だろうと褒めてやると呼び出される。流石王様、威厳は無いが…それ以上に常識が無い。
(はぁ…この20段前後の階段。今は大変しんどい…)
心の中で愚痴をこぼし、イライラをつのらせながらも階段を登りきる。するとそこには開けた空間が広がる。天井は高く、支える柱全てに精巧な彫刻が彫られている。大きめの窓から差し込む何本もの光の束が白い壁の石材を照らし、中は光で溢れている。
そんな荘厳な作りの空間、その丁度中央に赤い絨毯が引かれている。俺の手前から伸びるそれは部屋の突き当たり、この空間の中でも最も金と時間が掛けられた部分へと伸びている。
「光輝の賢聖…ケンラ・ギドアス!!此度の『夜刻の19』顕現の阻止…誠に大義であった!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチ
心のこもってない拍手が鳴り響く。
背が低めで、小太りで、ゴテゴテと装飾品を身に付けた男(王様)が偉そうに今回の俺の戦果を叫んだのだ。
この世界には24の強大な存在が居る。この24体はそれぞれの性質で時刻に割り振られ、呼ばれている。4時〜9時の朝刻、10時〜15時の昼刻、16時〜18時の夕刻…そして人に対しての害意が特に強い19時〜3時の夜刻。
今回はその夜刻の19を信奉する魔族の集団を壊滅させる任務であった。もとより魔族は戦闘力が高い種族が多く、更に夜刻の19から加護を受けていた奴も居たようでかなりの苦戦を強いられた。おかげで俺も全身が痛い(筋肉痛や急激な魔力消費による弊害で)
「いえ、陛下。今回の作戦で陛下から貸し与えられている騎士団から多くの死傷者を出してしまいました。私の弟子達も怪我を負い、私も満身創痍です。現状ではオークの群れを蹴散らすことすら危ういでしょう…。」
最後のは大袈裟だがそれ以外は事実を正確に伝ええた。あ〜疲れた。休みをくれ、休みを。
「うむ、激戦であったと既に聞いておる。今回の任務に参加した者には多額の報酬と休暇を与える。無論お前にもな。」
お、まってました!やっぱり激務の後には何も考えず休むべきだ。くれっ!休みを!!
「お前には2000万Gと6日の休暇を与える!!、6日後からは別の任務を用意しているからしっかりと休むのじゃぞ!!」
…む、6日?…冗談じゃない!6回寝て、18回飯を食ったら終わるじゃないか!!!
確かに外傷は無い。だが外傷が無いだけで中身はズタボロなんだ!!。それに別の任務ってなんだよ?まだ悪さをしようとしてる奴らが居るのか?…休めよっっ!!悪も休めよっっ!!
「もう下がって良いぞ…ん?それとも次の任務に就きたくてろくに休む事も考えられるのか?そうかそうか…それなら仕方ない。すぐにでも作戦の詳細を…」
ズシヤァッッ!!
音が鳴るほどの勢いで、靴底を床に擦りつけながら爆速で後ろを振り向き、来た時の倍以上早いペースの早足でこの場を後にする。
殺される、この仕事(賢者)に殺される…
ああ、そうか。俺に必要なのは勇気なのだ。魔族の王を名乗る魔王に立ち向かう勇気ではなく…
この職場の上司…すなわち王様へしっかりと伝える勇気だ。
階段を降り終わると近くの近衛兵に手紙を渡し、王へ渡すよう伝える。こうすれば王の手に渡る頃には既に事後だ。
そう、王が『休みます。探さないでください…』と書かれた手紙を見る頃には…既に俺はスーパー休暇タイムに突入しているはずだ。
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