第169話 もう自然に使います

律紀達が敷地内を何とか半分見て回った所で、昼食の時間になった。


丁度、屋敷の転移機能を使うために戻って来たところを、寿子が呼び止める。


「みんな。お昼ご飯の時間よ。食堂で食べましょう」


美希鷹が近くにあった壁掛けの時計を確認する。


「えっ、もうそんな時間? まだやっと半分ってとこだな。寿ちゃん。今日の昼メシ、何?」

「オムライスにしましたよ」


並んでいたのは、綺麗に形取られたオムライス。


そこに、お弁当用の小さなケチャップの入った容器を五つ持って宗徳が厨房から出てくる。この食堂は、一般的な社員食堂のような作りだ。


厨房と食べる所はきちんと区切られている。


「おっ、来たか。ほれ、絵描いてもいいぞ」

「描く描くっ、うわっ、ケチャップ、ちっさっ。そんなのあるんだ〜」


律紀が宗徳から受け取り、はしゃぐ。


「この前、瑠偉が弁当用に持っていける容器だが、子ども用に良いってくれたんだよ。マヨネーズ用のも買ってもらったんで、今度使おうな」


子どもには普通のサイズでも大きい。これは丁度良さそうだ。


悠遠も嬉しそうに受け取っていた。


「かけていいの?」

「おう。ゆっくりな。久遠達も、順番にやってみろ」

「うんっ」


オムライスに楽しそうにケチャップで絵を描いていくのを見ていて、宗徳は少し魔力を使う。


「このままだと冷めちまうな。こうしたら……いいな」


そうして、自然に保温するように魔法を使う。見た目は全く変わらない。けれど、寿子には何をしたか分かったようだ。


「まあっ、あなたっ。これは……いいですねえ」

「だろ?」

「今までも使ってました?」

「いや。考えてはいたけどな」

「そうでしたか。こういう使い方もあるんですねえ。これは料理中も使えそうです」


宗徳は、ここのところ、魔法を使うのに抵抗がない。それも、思いついたら使ってしまう感じだ。


もちろん、外では使わないが、屋敷では遠慮しない。


寿子は料理に魔法を使うという発想自体がなかったらしく、これは使えるとうんうん頷いていた。


美希鷹はライトクエストで育ったようなものなので、こうしたことにも気付く。


「ノリさん。これ……保温? 冷めないようにしたんだ?」

「おう。この間、レンチンするやつもこっちのが早いことに気付いてなあ。まあ、焼いた方が美味いのもあるから、それはまた別の手を考えたんだが。アレだ。電化製品が大体どうにかできる」

「いや、まあ……魔法ってそういうもんだけど……うん……」


美希鷹は、ここまで自然に魔法を使うのも珍しいと引き気味だ。やはり、異世界には電化製品などの便利なものがないから、魔法でどうにかするというのはあるが、こちらでそれを改めて認識できるほど使う人は珍しい。


「いやあ。なんかズボラな人間になりそうだぜ。こう、道具とか取ってくる前に、どうにかできちまうからなあ」

「ノリさんは空間収納もあんなコンテナハウスが入るくらいだし、大きいもんな」


魔法に頼らなくても、道具自体、持って歩けるというものだ。工具箱なんて丸々入っている。重さも関係ないのは有り難い。


「そうなんだよ。あっちで使うのに、耕運機とか持って行けるのに、ルール的にはダメらしいから、もどかしいぜ……」

「あ〜……基本的に、向こうで一般的に使うのは、向こうで用意出来るものでってのがルールだからな〜。けど、作るのは良いから、頑張ってみたら?」

「だなあ。俺一人で耕すわけにいかんし……」


宗徳だけで使うなら良いが、あちらで他の人に使わせるというのはルール違反。解体して向こうで用意できる物を使い、改めて作るならばセーフらしい。


そんな話しを、一応は沙耶や徹達も聞いている。そして、沙耶はオムライスがいつまでも冷めないことに気付いた。


普通ならば、こうして、ケチャップで絵を描いたりしている間に、遠慮なく冷めていくものだ。


「……お義父さんの……魔法……便利だわ」

「っ……」


沙耶は完全にこの現実を受け入れだしていた。


言葉もない徹だが、実は一番必死で考え、色々受け入れようと努力中だ。宗徳の事は、何であっても否定しようとするのが常だった。けれど、誤解もあったというのに気付いた徹は、考え方を改めようとしていた。


そんな中で、ふと思い出す不思議なことがあった。


「……母さん……この前の薬って……」

「え? ああ。そういえば、あなたに薬をあげたわねえ。よく効いたでしょう?」

「……ああ……」


顔色が少し悪くなる。以前、律紀のことで寿子に色々諭され、殴られたのだ。その時、寿子の魔法薬を飲んでそれを癒した。


もうあの時には、宗徳と寿子の変化に気付けるはずだったのだ。もっと仲が良かったならば、秘密も打ち明けてもらえただろう。


「あの時から……母さん達は……」

「ええ。向こうに行ってたわ。お陰で、力もついちゃって。ちょっと力が有り余ってたのよね」

「……」


母親に殴られるとは思っても見なかったが、それよりも衝撃だったのは、その威力だろう。この意味を徹はようやくここで理解する。


「……本当に、若返ってるのか……」

「そうねえ。力は特に……魔女様にこの前聞いたんだけど、身体強化? を自然にしてるみたいで。強くなってるみたいなのよ」


ここで美希鷹が口を挟む。


「ヒサちゃんもノリちゃんも、近年稀に見る高い魔力適性の持ち主だからな〜。魔力の使い方知って、自然に出来るようになったんじゃないかな? 一番弱いとこ、補おうとするのが人だし」

「……」


それだけ、適性が高かったということだろう。徹は、少し羨ましくも感じているようだった。


そこに、イザリがキュリアートを肩に乗せてやって来たのだ。










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