第170話 新たな才能発見?

イザリに気付いた宗徳は、時間を確認する。


この間にキュリアートは羽ばたいて美希鷹の頭の上へと着地した。


「イズ様。今日はオムライスなんですが、食べます?」


これはイザリや薔薇そうびが来て知ったことだが、魔女は昼ご飯を食べることは稀らしい。


昼ご飯どころか、朝も夜も食べない者が多いという。食に興味がないのだ。それと面倒だというのがある。


よって、ほぼお茶など間食だけで食事というものを済ませる。


食べなくても問題ない者も居るらしいが、そこは、人として最低限、体の機能を損なわないようにするためと聞く。


ライトクエストでは、多くの飲食店がフードコートにある。それは、少しでも食に興味を持ってもらう為でもあった。


逆に中には何年も続けて気に入った物ばかり食べる者もいるらしい。唐突に、食に目覚める時もあると聞くので難しいところだ。


「うむ……オムライス……それで絵を描くのか……小さな旗が立ったものを食べた事がある」

「あ〜……なるほど。旗要ります? 日の丸……ライトクエストのマークとかにしますか」

「……良いのか?」


フードコートに、お子様ランチを出す所があった。それを知っているのだろう。イザリの見た目は、小学生の低学年くらい。お子様ランチを食べていても違和感はなさそうだ。


「いつかあっちで使おうと思って、楊枝を使ってコツコツ作り溜めしたのがあるんですよ」


宗徳は得意げに、亜空間収納からお菓子が入っていただろう缶の箱を取り出す。長細い箱だ。


子ども達には無難に色が付いただけの旗を立ててお子様ランチを作ることはあった。だが、もっと子ども達に楽しんでもらうためにと、旗に絵を描くようになったのだ。


「そうか……なら頼む……その……オムライスは小さいものでいい。師匠にもいいか?」


これを聞きながら缶を開けると、旗が沢山あった。楊枝の尖った方を落とした棒に紙の旗が付けてある。日の丸もあるが、梟や虎、兎や熊、犬や猫などの動物の絵があるものもあった。


国旗というのは寧ろ少ない。


「薔薇様のなら、やっぱバラが良いですかねえ」


薔薇を描いたものを取り出すと、注文通りの小さめのオムライスが二つメイドの藜蘭れいかによって用意される。


自然にケチャップも手渡されたので、バラを描き、その真ん中にバラの旗を立てた。


その旗に描かれたバラは、豪華だ。ただのお子様ランチに立てたならきっととてつもなく浮いただろう。


「うわぁっ。おじいちゃんケチャップ上手っ」

「可愛いですわっ」


オムライスに描かれたバラの花を律紀と治季が目を輝かせて絶賛してくれた。これならばなんとか旗も浮かないだろう。


寿子が缶の中を覗き込む。


「あらあら。本当に沢山作って。子ども達にもくださいな」

「おうよ。イズ様はどれにします?」

「む……この白い虎が良い」

「さすがイズ様っ。これは自信作ですよ!」

「うむ……すごいものだ……」


それは、白い地。とても小さい範囲だというのに、見事な写実的な白い虎が墨絵で描かれていた。


「濡れたり食べ物に付いても滲まないように、きちんとこーてぃっ……んんっ、コーティング加工もしてるんで安心っすよ」

「……うむ。感心したのはこの見事な絵になのだが……」

「すごいわ……お義父さん……」

「うわ〜……」

「「っ……」」


沙耶は心底感心し、律紀は思わずというように声を上げる。


そして、徹と征哉は目を丸くしていた。新たな宗徳の才能を発見して驚いているようだ。


「いやあ、絵なんて久しぶりに描いたんで。小さくしたから誤魔化せてるだけっすよ。見本もあったんで。ただ見て写しただけです」

「そんなレベルではないのだが……どおりで……魔法陣を描くのが正確で早いわけだ……」


イザリが戸惑うほどの腕ということだ。


オムライスに描かれたバラも単純な絵だが、見た目もとても良い。


次に子ども達が缶箱の中を覗き込む。旗にある動物の絵は、可愛らしいデフォルメされた絵ではなく、今にも飛び出して来そうな生き生きとした墨絵風のものばかりだった。


「「「「「っ……すごい……」」」」」


幼くても、悠遠達にもその凄さが伝わるくらいだ。普通ではない。


しかし、宗徳にはそれほど大したことという認識がなかった。


「そうか? 見て真似るくらいしか出来ないんだがなあ」

「あなたはまた……あ〜、でも確か、あなたは長く書道をやられていましたよね」

「おう。臨書が楽しくってなあ。どう筆を動かしたらこんな線が書けるのかって考えるのが良いんだっ。そっくりに出来た時、嬉しくなるんだよ」


臨書とは、書道をやる中で、先人の書や書き彫った詩などを、その通りに書き取ることだ。


文字のバランスはもちろん。線の細さや太さ、入り方、はらい方、止め方、全てをそっくりにしなくてはならない。


そうして見て書き写すという力を養い、気に入った線を自身の作品に落とし込んでいく所も書道の楽しさだった。


「お父さん、しょどう? ってなあに?」


そう尋ねる悠遠を始め、子ども達は首を傾げていた。








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読んでくださりありがとうございます◎

ステキなレビューをいただきました。

これからものんびり続けていきますのでよろしくお願いします!

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