第168話 分かり合える時は来る
寿子が箒で飛んだという衝撃から、何とか立ち直った徹と征哉。沙耶はもう数歩進んでおり、獣人の子ども達が一生懸命に説明してくれるので、理解が及んだ所だ。
「じゃあ、この世界とは違う世界でお義母さん達は働いているのね?」
話をしながら、沙耶達は美希鷹や廉哉について、ゾロゾロと敷地内を歩く。
色々と混乱しているが、何かしていれば落ち着けると思ってのことだ。宗徳と寿子、それと徨流と
「そうですっ。むこうでは、お父さんのたてた、おっきなおしろにすんでるんですよっ」
一番年長の悠遠の説明がやはり一番理解しやすかった。一生懸命分かりやすいように説明してくれる悠遠に、沙耶はもうメロメロだ。
悠遠は特に、何かを学ぼうとする意思が強く、日本語のひらがなも覚えた所だった。足し算と引き算もやっている。他の獣人達の一番上というのも大きいだろう。面倒見も良い。
「あっそれと、だいじなことをいっていませんでした。むこうだと、お父さんたちはサヤさんよりも、わかがえるんですよっ」
「私より? そう言えば、お義父さんも、来る時に若返ってるとか言っていたわね……」
「はいっ。こっちでのすがたも、だんだんとわかがえるんだそうです」
「え?」
ここで、美希鷹が説明を引き継ぐ。
「ノリさんとヒサちゃんは、特に魔力への適性も高いから、細胞が活性化するんだよ。本来の老いる速度よりも活性化するから、逆に若返ってくるんだ。十年後は今より少し若返ってる見た目になるんじゃないかな」
「……それって、これからずっと、年を取らないってこと?」
「ううん。二十年後には、さすがに誤魔化し効かないくらい若返るよ。たぶん、今のおばさんくらい。そんで、そのまた十年後には、二十代後半か三十代くらいの見た目になる」
「っ……そんなことっ……」
「「っ……」」
何となく聞いていた徹と征哉も息を呑む。
絶句してしまった両親達に代わり、律紀が確認する。律紀は少しずつだが、宗徳と寿子に今後起きる事を聞いて知っていた。
「確か、一番魔力が馴染みやすい肉体年齢になろうとするんだよね? 向こうだと、二十代くらいのお兄さんとお姉さんだったもん。おじいちゃんの方が少し若い感じの」
「そう。向こうでの世界の見た目が、ノリさん達のベストなんだろうな。そんで、あの姿で若返りも止まる」
そこで、今度は悠遠が問いかけてきた。
「お父さんたち、ぼくたちが大きくなっても、あのまま?」
「そうだ。魔女とか魔導士が次に老いるのは、魂の寿命が来る時か、転生するのが決まった時」
「転生が決まるって、どういうこと?」
色々とイザリや薔薇にも話を聞いて、魔女達のことを知っている廉哉もこれは知らなかった。
「たまにだけど、どうしても転生してくれって頼まれる時があるんだってさ。存在の仕方が違うから、魔女や魔導士が居るだけで魔力が巡ったりとか、エネルギーが発生するみたいになるから、その魔力が上手く回らなくなった世界とかに呼ばれるんだよ」
転生して、よりその世界に根付くことで、そのエネルギーや魔力が巡りやすくなるためだ。
「まあ、今はライトクエストから他のそういう世界にも扉を繋いで人を派遣してるから、昔よりそういうことはなくなったみたいだな。お陰で寿命をまっとうすることが出来るようになったって聞いてる」
無理に今の生を終わらせる事になる転生よりも、魂の寿命が尽きるまで生きて、終える方が良いという考え方だ。多くの魔女達はそれを望んだ。
「やっぱり、生まれた世界で終えたいんだってさ」
これに、廉哉は少し考え込んでから頷いた。
「それは……うん。分かるかも。最後はこっちに帰って来て……って僕も思ったから」
「そっか、レンは……そうだよな。帰って来たかったよな」
「うん……」
たとえ、こちらで生きた年数の方が少なく、幼い頃の記憶でしかなかったとしても、あちらの世界は、廉哉にとっては最後まで、異世界だったのだ。
そこで、徹が遠慮しながらも廉哉に尋ねる。
「君は……異世界に居たのか?」
徹はファンタジーの定番もよく知っている。だから、黙って驚きながらも、それを理解したようだ。
「あ、はい。幼い頃に召喚されまして……それで相手させられたのが、この白欐と黒欐です。悪い邪神だとかって言われて……無理やり戦わされて……途中でおかしいと思ったので、倒したと誤魔化しておいたんですけど……役目が終わった勇者って、国の偉い人達にすると邪魔なんですよね……」
《くるる……》
《ぐるる……》
あははと後ろ頭を掻きながら笑う廉哉。白欐と黒欐には、気にしないでと言っておく。
「一人で逃げ続けて、ようやく徳さんや寿さんと出会えた時は、ほっとしました……それで、やっと帰って来られた……本当の家族がもう居ないって知れて悲しくもありましたけど、こうして新しい家族もできましたから」
「……本当にそんなことが……いや、大変だったね……」
「そうですね……必死でしたから、今思うと、よくやったなあと……徳さん……お父さんにもそう言われて頭を撫でられました」
「っ……そうか……」
宗徳は、笑ってよくやったと息子を褒めるように誇らしげな様子で頭を撫でたのだ。廉哉は同情されるでもなく、今までの全部をよくやったと認めてもらったことで、とても心が軽くなった。
それは、美希鷹にも覚えがある。
「ノリさんって、同情しないよな。なんて言うか……全部認めてくれるんだ。こう……途中で転んだり、騙されて道を間違えたりして辿り着いたゴールに居て、笑顔でよく走り切ったなって背中をさすってくれるみたいな」
「そうかも……」
二人はただ、待っていて欲しかったのだ。助けて欲しいと思ったこともあったが、それも全て過去の事としたい。
「それで十分なんだよな。騙されたって言い訳よりも、今度は騙されなかったって報告したい。痛かったって訴えるよりも、あそこ危なかったんだって、越えてきたことを誇りたいんだ。そんなことがあったのかって、怒ったり悲しんだりして同情されるより、よくやったなって笑い飛ばしてもらった方が、スッとする時ってあるからさ」
話したことで逆にモヤモヤする時もある。だから、同情は欲しくない。美希鷹や廉哉は、乗り越えた事を誇りたいからだ。
「で、俺は思ったわけ。合う合わないって、こういうことかって」
「そういえば、クー様も結構豪快に笑い飛ばしたりしてるもんね」
「アレな……もうちょっとデリカシーっていうか……仮にも母親ってことになってんだから、こう……心配したりとかさあ。あるじゃん?」
美希鷹の母親代わりというか、後見人であるクーヴェラルも、宗徳や寿子に似た所がある。とはいえ、少し不満はあるらしい。
「この前の保護者会の時なんて『高校は好きなとこ行かせるつもりなんで、無理な所でもやらせてやってくださいね〜』なんて笑ってたんだよ……担任に、ちゃんと相談できてるかって心配された……」
「ちょっと放任なとこあるのかな……けど、鷹くん学年一位でしょ? なんか言われたらとかはないんじゃない?」
「えっ! 美希鷹さんっ、学年一位なんですか!? 進学校だって聞いてましたけど!?」
治季が驚きの声を上げる。だが、美希鷹は苦笑気味に手を横に振る。
「律紀が行ってるとこよりは下だし〜。暇な時間、勉強してただけなんだよ。ライトクエストの食堂で勉強してるとさあ、大人達が面白がって教えてくれたりするから、楽しくてさ。それに、俺の後見人は『勉強しろ』とか言う人じゃないから、逆にやっとくかって気になったんだよ」
「あ〜、分かりますわ……言われないと逆に心配になるのですよね……アレはずるいですわっ」
やれとも言わないが、やらなくて結果が出なければ、当然だよなと笑われる。自分でもまあそうだよねとなるだけだ。
「結局は自分のためにとやるしかないですわよね」
「お父さんもお母さんも、ぼくたちに、やれっていわないね? あんまりべんきょうばっかりしなくていいっていわれるときもあるよ?」
「そういえば、おじいちゃん、前から勉強だけはやれって言わないかも。友達と遊べとか、ちょっと運動しろとかは言うけど」
「それはアレだよ。集中するのも良いけど、感情を揺らす経験も必要だから、頭を使う勉強だけになるなって言ってたかな」
「っ……」
これを聞いていた徹は、何かに思い当たったようだ。マジマジと律紀を見つめる徹。そこで律紀が視線に気付いて少し振り向くようにして尋ねる。
「何? 父さん。どうかした?」
「っ、いや……俺は……運動しろとは言われたが……確かに勉強をしろとは……言われていない。それに、ゲームをやるなとも言われなかった……」
「おじいちゃんのこと? まあ、言わないんじゃない? 何が役に立つかわからないって、おじいちゃんは知ってるから。ん? もしかして、今気付いたの?」
「……っ」
人から父親である宗徳と言う人の事を聞く事で、徹は色々とすれ違いがあったことにようやく気付き始めていた。
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