第163話 扉の先で

扉の先には、光が溢れていた。自宅の物置きの扉と繋がる場所は温室だ。


今日はとても天気が良いので、少し暑いくらいだ。だが、上の方の窓を開けてあるようで、涼しい風を感じた。


先頭は宗徳。そして、律紀と治季が続く。


「「「……え……」」」


次に息子の徹、その妻の沙耶、そして、二人の息子である征哉が目を見開いて一歩入った所で立ち止まる。


一方、異世界転移も体験した律紀と治季は、駆け出してうっとりと周りを見回していた。


「うわあっ。すごくキレイな所だね! 温室? 本物初めて見た!」

「とってもステキですわ……ああ、お庭も綺麗……」


そんな様子に笑いながら、寿子は動かない三人に声をかける。


「ほらほら。つかえてるから、進んでちょうだい」

「え、あの? お、お義母さん? こ、これは……?」


沙耶が動揺しながら振り返り、答えを求める。


徹と征哉は動かない。


「ふふふ。言ったでしょう? 魔法の扉だって。ここ、家からだと車でも二時間くらいかかる所なのよ。箒だと十五分くらいなんだけど」

「ほうき……?」


思考停止したらしく、沙耶はそれ以降、声を出さなかった。


義母が箒で空を飛ぶなんて考えられるわけがない。


「さあさあ、扉閉めるから、進んで」


寿子はグイグイと立ち止まってしまっている三人の背を押して、扉を閉めた。


そこに、廉哉が屋敷からこの温室に繋がる渡り廊下を通ってやって来る。それを見とめて、律紀が手を振った。


「あっ! 廉君!」

「こんにちは。律紀さん。治季さんも久し振り」

「お久しぶりです。廉哉さんっ」

「子ども達や鷹君は?」

「食堂でクッキーを焼いてますよ。宗徳さん達が来たら、庭でお茶会するんだって」

「「お茶会!?」」


キラキラっと律紀と治季の笑顔が輝いた。これに、廉哉が微笑ましそうに柔らかく笑った。


必死さや不安がなくなった廉哉は、そうした良い顔をするようになり、ますます王子様の様だと言うのが治季だ。


「はい。メイドさんや執事さんが淹れてくれますから、美味しいですよ」

「「メイドと執事!!」」


反応が一々可愛らしい。お茶会に女の子は憧れるものかもしれない。


「まだ朝ですから、軽く。午後のおやつの時間は本格的なアフタヌーンティーを用意してくれるそうですよ」

「っ、それって、三段になったやつある?」


律紀が期待するように目を輝かせる。治季もハッとして廉哉に詰め寄っていく。


「えっと……ケーキスタンドですか? 使うと思いますよ」

「「やったぁー!」」


律紀と治季はハイタッチして喜んでいた。


そこに、宗徳は複雑そうな表情を浮かべる。


「慣れろと言われたが、やっぱまだ気恥ずかしいんだよな……」

「あら。薔薇様と一緒にすると、自然に出来てたじゃないですか」

「まあな……あの人はあの感じが似合いすぎるくらい似合うしな」


滞在している薔薇とのお茶会は、ほとんど毎日行われていた。


子ども達にとっても、おやつの時間は大事だ。そこで、少しマナーも学んでいくというのが、宗徳と寿子で決めた事だった。もちろん、二人もだ。


「それにあなた。あちらでも王宮に遊びに行くじゃないですか。慣れないと困りますわよ」

「む〜ん……しゃあねえなあ」


そんな会話も聞こえているはずの徹や沙耶達は、未だ動けずにいた。


それを見兼ねて、宗徳が目を向ける。そして、そうだと思い出した。


「そういや、紹介してなかったな。俺らの遠縁の子どもってことになってる廉哉だ。俺らの息子みたいなもんだから、仲良くな」

「あ、廉哉です。よろしくお願いします」

「「「……はあ……」」」


多分、沙耶達三人の耳を素通りしているなと気付きながらも、宗徳は先に心の準備もしてもらうためにと、子ども達の事も伝えておく。


「あと、五人養子を取った。その五人の長男がレンだ。そんで、その五人は獣人だから、先に言っておくぞ」

「「「……は?」」」

「徹は分かるんだろ? ふぁんたじ……んんっ、ファンタジーの世界だ。耳とか尻尾とかある獣人族な。あんま無遠慮に触らんように」

「「「……」」」


言葉も失くした三人。けれど、宗徳は更に続けた。


「それと、異世界の神とか、龍とか、空飛ぶ虎みたいなやつとか居るが、それも俺らの家族だから傷つけんじゃねえぞ?」

「……あ、あの……お義父さん?」


沙耶が回復したようだ。だが、戸惑いは隠せない。そして、徹と征哉は、宗徳に心配げな目を向けていた。それの意味を宗徳は察してムッとする。


「なんだよ。その『遂にボケか!?』みたいな顔は……言っとくが、逆に俺ら若返ってんだからな? まあ、年齢は関係ないって聞くが……おかしくなってねえから」

「「「……」」」


ちょっと信じられないという様子だ。


これに宗徳は、腰に手を当て、大きくため息を吐いて見せる。


「はあ……お前ら、その扉で体験してんだ。受け入れろ。ああ、因みにその扉以外は、お前ら通れないからな。安心しろ」

「……そういえば……扉がいっぱいある……」

「色が違う……繋がる場所が違う……?」

「知らない場所に出ないなら安心……安心? かしら?」


まだまだ混乱中。宗徳と寿子は、これ以上はまた後でと頷く。


「ほれ。そんじゃあ、子どもらに会いに行くぞ。荷物持って着いてこい」


いつの間にか、手荷物は下に落ちており、三人は慌てて拾い上げる。


そして、宗徳と寿子に続いて、とりあえずはと歩き出した。


「先に部屋に案内しましょうか。荷物もありますしね」

「だな」


律紀と治季で一部屋。沙耶と徹、征哉の三人で一部屋を割り振った。部屋はいくらでもある。


そして、遂に子ども達との対面となったのだ。








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