mission 16 家族と友人と

第162話 魔法の扉?

薔薇そうびとの再会からひと月ほどが経った。


あの後、屋敷に薔薇とイザリの部屋を用意し、ライトクエストとの扉は、自由に行き来してもらうようにした。


薔薇は屋敷を拠点にするようになり、イザリも会いやすくなったことを喜んでいる。


家の方には、ご近所の目があるため、子ども達を連れて行けない。よって、宗徳と寿子は、自宅を扉で繋いだことで、それも一つの部屋として使いながらも、普段は屋敷の方に住むようになった。


悠遠達、五人の獣人の子どもや徨流や白欐、黒欐、それと、魔獣の子の琥翔ことは、屋敷の広い庭を遊び場にして、のびのびと過ごしている。


時折、ここにライトクエスト所属の獣人の青年である瑠偉るい美希鷹みきたかが扉を使ってやって来て、遊んでくれる。


扉は、宗徳と寿子が連れてきて、許可した者しか使えないため、安心だ。


善治郎が未だにあちらの世界から戻って来ないが、彼の部屋も用意し、待っている状態だった。


そして、祝日と土日を合わせた連休の今日。


久し振りに、律紀がやって来ることになっていた。


屋敷では、美希鷹が既に前日から遊びに来ており、子ども達も廉哉共々楽しく過ごしている。善治の血縁である治季はるきにも連絡しており、彼女も今日初めて屋敷に呼ぶことになっていた。


よって、この日の朝、朝食を屋敷の方で済ませた後、宗徳と寿子だけで自宅の方にやって来て、律紀と治季の到着を待っている所だった。


「もうそろそろですかねえ」

「だな。治季は迎えに行ってもよかったんだがなあ」

「律っちゃんが一緒にって言ったんですもの」

「まあな。この家の場所を知っとってもらったら、治季や律紀も会いやすくなるかもしれんか」

「そうですね」


屋敷の方で三日間過ごすため、のんびりと戸締まりの確認をする。そして、しばらくしてベルが鳴った。




ビルルル!




昔から変えていないちょっと耳障りなベルの音。それを聞いて、宗徳と寿子は出迎えに玄関へ向かう。


「おお。良く来た……な……?」

「あらあら」


宗徳が歩みを止める。その理由は、律紀と治季の後ろ。


とおるに……征哉せいやまで来たの? 珍しいわねえ」

「あ、ああ……久しぶり……」

「……」


宗徳と寿子の息子である徹。彼とは、疎遠になっていた。だから、こんな風に来るとは思わなかったのだ。その手には、しっかり泊まりの準備だろう、旅行カバンがあった。


その隣には、少し不貞腐れたような顔をした律紀の兄である孫の征哉が、同じように旅行カバンを持って佇んでいる。彼が来るのは、小学校に上がる前だったかもしれない。


「聞いてくださいよっ、お義母さんっ。もうっ、二人してピリピリしちゃって本当に嫌になるんですっ」


征哉は今年、高校の入試がある。どうやら、勉強に身が入らないらしく、それを徹が注意して、更に意固地になって勉強をサボるという悪循環ができてしまっているようだ。


寿子は少し前から沙耶からメールで相談を受けていた。


「確かに、受験勉強は頑張ってほしいですけど、言い方ってものもあると思うんですよ!」

「ふふふっ。そうねえ。それで、私たちに徹を叱ってくれってことかしら?」

「お願いします! ついでに征哉も!」

「はいはい。けど、息抜きも必要でしょう。ちょっと環境も変えて、楽しんでみたらいいかもしれないわねえ」

「はい! なので、律紀だけじゃなく、私たちもお世話になります!」

「良いわ。ね、あなた」


寿子が納得しているなら、宗徳も言うことはないと頷く。


「おう。ほれ、上がれ。そんで、戸締まりをしっかりしろ。良いとこ連れてってやるよ」

「戸締まりして?」


律紀が不思議そうに。けれど、嬉しそうに目を輝かせた。


「そうだ。言っただろ? 別荘に案内するってよ。治季もよく来たな。タカはもう昨日の内に来てるぞ」

「そうなんですか!? ずるいですっ。あっ、お邪魔しますわっ」

「おうっ、上がれ。悠遠達も、会えるのを楽しみにしてたぞ」

「嬉しいですっ。あの子達、かわいいんですものっ」


そうして、治季と律紀は、すぐに家に上がってきた。


残された三人は、意味がわからないという顔で立ち尽くしている。


それを見兼ねて、寿子が玄関の鍵をし、背中を押す。


「ほらほら。何をばさっとしてるんです? 早く行きますよ。私たちの屋敷に」

「屋敷……? どう言うことです? お義母さん?」

「説明するのは面倒なのよ。だから、先に見てちょうだい。徹と征哉も、きっと驚くと思うわ。あなた達は好きなんじゃないかしら。この家にはねえ、魔法の扉があるのよっ」

「「「魔法の扉……」」」


まさか、そんな言葉が出るなんて思ってもみない三人は、呆然としながらも、寿子に押されて家に上がる。


「ほれ、行くぞ」


そして、物置きとして使っていた部屋のドアを宗徳が開けたのだ。









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