第159話 その人は
自宅の扉と繋がった白の扉から出てきた寿子とライトクエストの五階にある転移専用の部屋の扉と繋がった青の扉から出てきた宗徳。
寿子の方が一歩早かったが、ほとんど変わらないタイミングで出てきた。
「あら。これでもかなり急いだんですけど」
「あ〜、家の方が遠いよな。どうせ飛ばしたんだろ。迷わんかったか?」
寿子は魔女達をも唸らせるスピード狂だ。知らない異世界とは違い、何十年と生活してきている世界だ。方向さえ分かれば、目印になる建物も目星が付くし、上からの景色でなんとなく分かるはずではある。
ただし、寿子はスピード狂。速さでどれだけ目印を生かせるかだけは心配だった。
「線路が分かりましたから、知ってる駅から辿っていって、すぐ分かりましたよ。新幹線なんて目じゃないくらいの速さで飛びましたけどねっ」
「……あんま飛ばすなよ……」
事故る心配よりも、呼び起こされる狂気が怖いというのは、宗徳も口にする勇気はなかった。
「平気ですよ。ただ、降りる場所を見つけるのが大変でした」
「あ〜……確かに……で、どこに降りたんだ?」
「スーパーの屋上駐車場に。あそこ、カメラがあるのは店内へ入る所だけですから」
「なるほど……」
抜け目なかった。確かに、店から出る姿しかなかったとしても『車で屋上に来て、その後、店を出て下に待ち合わせていた車に乗った』という言い訳が出来るだろう。
「魔法を覚えてから、何だかカメラが気になるようになってるんですよ。魔法は映りにくいって聞いてますけどね」
「……だな……そういえば、入口のカメラとか最近すごく気になるわ……」
「嫌ですよね。なんだか悪いことしてる気になって」
「映るの避けたくなるんだよな……」
変に気を回すようになっていることに気付いた二人だ。
「「はあ……」」
悪いことしていないのに、ちょっとモヤモヤするなと、二人で肩を落とした。
そこへ、悠遠が駆けて来た。待っている間、どこか違う場所に案内してもらっていたらしい。この場所には誰も居なかった。
ただ、あんな有能そうなメイドやバトラーが出迎えないのは少し妙だとも感じていた。
「どうした悠遠」
「あっ、えっと、イザリ? さまが、すっごくキレイなおきゃくさまをつれてきたんだ。おうせつしつにいるよ!」
「イズ様が……ああ、師匠さんを探すって言ってたな」
「そうですね。見つかったんでしょうか? 魔女さん達の話だと、すごく見つけるのが大変そうでしたけど」
薔薇様と呼ばれる、イザリの師匠。話を聞いた限りでは、姿を見るのも中々に大半そうだった。
「まあ、行ってみるか」
「あっ。おうせつしつのとなりに、ひかえしつがあるから、そこに『転移』するんだよ。『控えの間藤』だって。あんないするねっ」
「おう。頼む」
「お願いね」
「うん!」
さすがは子どもだ。すぐに覚えるし、実践に移せる。特に悠遠達は、幼い頃から自分達だけで生き抜いてきた。余計にこうしたことの覚えは早い。
そうして、転移して応接室まで案内してくれた。
「そういえば、なんで悠遠が迎えにきてくれたんだ?」
「メイドのお姉さんも、お兄さんも、おもてなしするのに手いっぱいだってレン兄が。テンパってる? から、おねがいって」
「テンパ……あの二人が動じるとか、どんな人なんだ?」
「その世界では有名な方なんですかねえ?」
あの不思議なメイドとバトラーが戸惑う様子など、とても想像出来なかった。
「まあ、会ってみれば分かるか。ん?」
宗徳が応接室のドアをノックしようと手を上げた所で、扉がゆっくり開いた。
その扉を開けたのは、妖艶で美しい女性だった。
「「っ!!」」
二人揃って息を呑んだのは、感じた感情が予想外のものだったからかもしれない。
そう。なぜか懐かしいと思ったのだ。そして、それはその女性も感じたらしかった。
「っ、お前達は……会ったことがある……」
「「っ……」」
こんな綺麗な人なら、一度見たら忘れないはず。考えたのは一瞬だった。同時に思い出したのは恐らく、故意に消えてしまっていた記憶だ。
「「山に居たお姉ちゃん!!」」
「っ……あの時の子ども……!」
出会ったのは、今日が初めてではなかった。
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