第156話 目覚めたらしい

扉に、魔力を流さなくてはならない物がある時点で、少し考えるべきだったと宗徳は肩を落とした。その心情を、寿子も察している。


「もう少し、警戒すべきできたわね……」

「……こっちで魔力を使うとか……いかにも怪しいもんな……感覚がおかしくなってるか?」

「そうですねえ……」


普通に空も飛んで来たし、一般の人に見えないように不可視の術までかけていたのが、もはや普通に思えてきていることに気付く。


「慣れって怖いですわね……」

「だな……」


魔女達はさっさと手を振って飛んでいってしまっている。本気で任せたと言うことなのだろう。


「で……あのメイドさんと執事さんはどうしたもんか……」


宗徳の前には、真っ直ぐにオレンジ色の瞳を向けてくる若い男女。メイドと執事の格好をしている。二人の表情には感情が見えなかった。


「あ〜……俺は宗徳だ。こっちは俺の妻の寿子。それと、子ども達だ」


頭を掻きながら伝えれば、二人の男女は数度瞬きをして、顔を少し上げて宗徳達を確認する。


すると、その瞳に感情が宿った。頬が弛み、微笑みが浮かべられた。目を覚ましたかのような変化が見えた。


「ん?」


宗徳は何かを感じた。それは庭から地面から、何かが立ち昇ってきた感覚だ。


「っ、なに……?」


寿子にも感じられたのか、同時に後ろを振り返る。すると、門まで続く道の間にある草木や花々が美しく揺らめいていた。


悠遠達を抱え込むようにしていた廉哉もこれに気付く。


「……なんで……あれって桜? 葉っぱもあるけど……」

「本当だわ。あの辺は冬の花だし、あっちは夏の……木蓮やハナミズキも咲いてるわ……」


木々が青々と葉を茂らせる。桜は葉と花が同時に最高の状態で風に揺れている。木蓮もそうだ。本来、花と葉が同時に付かないものが同時になっていた。


まるでそれは、全ての植物が一気に同時に目覚めたような、不思議な光景だった。


これに呆然としていると、メイドと執事の声が聞こえて、慌てて振り向く。


「「お帰りなさいませご主人様」」

「……え……あ〜……っと?」


片手を胸に当て、優雅にお辞儀をしている二人。この扱いは初めてで戸惑う。


すると、青年の方が顔を上げ、一歩前に出る。彼は胸に片手を当てたまま口を開いた。


「この屋敷を管理するバトラーです。ご主人様のお帰りを心待ちにしておりました。ここは『時結びの屋敷』と呼ばれております。資格を持つ方が居なければ本当の姿を見せることもない特別な屋敷になります」


次にメイドが一歩歩み出る。


「同じくこの屋敷を管理するメイドです。お屋敷の敷地内には、この土地特有の力が満ちております。それ故、本来は時を同じくすることのない植物が、同じ時を刻むことができます。それも半永久的に」

「……季節関係なく咲いてるのは、その力のせいってことか……?」

「「その通りでございます」」


声を揃えて告げられた。


「資格を持つ主人がやって来るまで、我々は全ての時を止めてお待ちしておりました」

「資格を持つ方がいらしたことで、その時が再び動き出したのです」

「「……」」


とても嬉しそうに宗徳と寿子を見ている二人。最初の無表情は夢だったかと思えるくらいだ。


「ま、まあ、難しいことは分からんが……不思議な所だってことは分かった。そうだっ、徨流、白欐、黒欐、なんか変化ないか? 大丈夫か?」


廉哉や子ども達といた徨流と白欐、黒欐を確認する。精霊だとか何とか魔女は言っていたのだ。その上、特殊な土地。何か異常がないか心配だった。


《くきゅっ》

《くるる〜》

《ぐるる》

「はあ……異常がねえならいい。こいつらも家族なんだが、問題ないか?」


後半は執事とメイドへ確認する。


「……守り神を連れてこられるとは……」

「神格を持つものを連れて来られるとは……」

《くきゅ?》

《くる……》

《ぐるる……》


二人は、マジマジと徨流達を見つめる。そして、頷き合った。


「問題ございません。よろしければ、守り神様には、中庭の湖にご案内いたします」

「そちらの方々には、どうぞお好きなようにお庭を飛んで過ごしていただければ。果実の生る木もございますので」


お好きにどうぞということだ。おかしな影響はないようで安心した。


「そうか……なら……案内してもらってもいいか? 中庭に湖があるとか……間違いなく広そうだよな……」

「上から見た時は、森のように見えただけでしたけど……もしかしてと思うと怖いわね……」

「「では、先ずはお屋敷内をご案内いたします」」


そして、ようやく屋敷に足を踏み入れた。


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