第154話 正しい時間へ
その上空で滞空し、下を見下ろすと、今まさにこの時間に存在する治季、律紀、美希鷹が裏庭に向かう所だった。
「本当にりっちゃん達が居る……」
「なんか妙な感じだなあ」
宗徳と寿子は、不可視の術が効いていても、少しばかり緊張した様子で見つめる。
同じように律紀達は、それぞれ魔女の箒や杖にに同席させてもらって下を見る。
「……もう一人居るって聞いて、わかってたけど……」
「ええ……言いたいことは、分かります。なんでしょう……この妙な感覚……気持ち悪いというか……恥ずかしいと言いますか……」
「自分の映ってるビデオ観てるみたい」
「それだっ」
「それです!」
得体が知れないという恐怖心や不安は、さすがに事情を聞いていたので、なかった。もしこれを聞いていなかったら、叫び出したくなるほど、怖かっただろう。自分の方が偽物のような、消えてしまうような感覚があったかもしれない。
「私、あんな歩き方なんだ……あ、ちょっと太ったかも……」
「太って見えますよね!? 見えるだけでしょうか? もっと鍛えなくてはっ……」
「鏡で見るのとはまた違うな〜。キュアなんて毛玉……っ、痛いっ」
《失礼なっ》
いつものように美希鷹の頭の上にいるキュリアートが頭皮をつついて抗議していた。
そうして、いよいよ、その時が来た。
「光ってますね……」
「湖のあった範囲だな……っ、あそこに誰か居るっ」
宗徳が、治季達が光に包まれる瞬間、反対側に居る何者かを指差す。
目を凝らして確認し、呆然と呟いたのは、イザリだ。
「っ……イルマン……」
「知り合いですか」
イザリへと問いかける宗徳。イルマンという人の姿は、光に包まれた治季達と共に消えていた。
その場所を見つめながら、イザリが答える。
「……兄弟子だ……」
「……」
その横顔からは、複雑な心情が感じ取れた。
宗徳が何か言おうと口を開く前に、イザリは魔女達へ伝える。
「三人を下ろす」
「「「は〜い」」」
三人はこの時、召喚された時の服をきちんと着ている。召喚された時に汚れたり、破れたりした所もあったが、寿子がしっかり直して整えていた。
よって、三人が居なくなったことは誰にも分からないはずだ。
「これで問題はない。ただ、日にちの感覚はしばらくおかしいはずだ。気を付けるように」
「「「はいっ」」」
向かうの世界で数日過ごした。学生なら特に、曜日の感覚を持っている。七日のサイクルが狂うのだ。単純に夏休みなど、長い休みがあった感覚とは違う妙な感覚があるだろう。
「今日はもう休んだ方が良い。明日は学校だろう。無理せず過ごすように。できれば、次の土日にもう一度、こちらで健康状態を確認する。この……美希鷹と一緒に来てくれ」
イザリは美希鷹へ目を向け、頷いて見せる。
「分かりましたわ」
「はい」
「了解です。ちゃんと連れて行きます」
美希鷹はしっかりしているので、仮に宗徳と寿子がその時に居なくても、きちんと連れて来てくれるだろう。
「うむ……では、宗徳と寿子はどうする。この子ども達のこともあるだろう」
「あ、はい。その……もう少し空から景色を見せてやりたいんです。それから、ライトクエストで部屋を借ります」
いきなり、悠遠達を自宅に連れ帰ったら、近所でどんな噂が流れることになるか分からない。
寿子も同意した。
「家に連れていくにしても、もう少しこちらの世界に慣れてからが良いですからねえ」
「そうだな……よければ、中継地点となる家を貸そう。その家の庭から、飛んで来ればいい。公共の交通機関を利用するのは大変だろう」
「そうですねえ……電車とか、この子達を連れて乗るのは不安です……」
宗徳の寿子で、五人の子ども達を連れ歩くのは難しいかもしれない。
そのため、中継地点に遊びに行ったと対外的に見せ、そこから空を飛んでライトクエストとを往復するのがいいだろう。
「それじゃあ、その中継地点の候補を案内するわ。移動している間も町の様子も見られるでしょうっ」
魔女の一人が提案した。
それに乗ることにする。
ここで、イザリが少し離れる。
「イズ様?」
宗徳が目を向けると、ふむと頷く。
「あの兄弟子のこともある……師匠のことを探してくる……お前たちにも会わさねばならんからな」
「それ、難しいんじゃ……」
「お前たちの存在には気付いているはずだ。上手くいけば、今日、明日にはどこぞの穴蔵から出て来られるだろう……うまく生捕りにしてみせるわ」
「……え……」
「生捕り……?」
なんだかどんな人が来るのか一気に不安になった。
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読んでくださりありがとうございます◎
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