第152話 想いはいつも
異世界ではなく、こちらで空を飛べと言われ、困惑する
二人は、子どもたちの問診などが終わるまでにと、イザリに連れられて、ビルの四十階にやって来た。
「ここは……」
「すごいですね……」
そこは、運動場や訓練施設、ジムがある階らしい。空間拡張がこれでもかとかけてあるらしく、馬鹿みたいに広かった。端まで数キロありそうだ。それも、天井には空がある。
「ここは、新人の魔女や、魔導具の試験で飛ぶ時にも使うのだ」
「はあ〜、すごいもんですね」
「あの空は本物ですか? 天井はあるんですよね?」
「あれは映像だ。ただ、天井まではかなりある。十メートルくらいだったか……」
「……上にも拡張されているのはすごいですね……」
確かに、飛ぶとなるとそれくらいないと不安かもしれない。だが、一階分のフロアとして認識しているので、どうしても驚かずにはいられない。これだけは二人とも未だ慣れそうになかった。
「では、まず、これをやろう」
イザリが差し出したのは、直径二センチほどの太めの木の棒だ。長さは一メートル近い。
「これは特殊な木の枝でな。持ち主となった者の意思で形を変える。これも元はソレだ」
イザリは、自身の巻いているストールを指す。それは、彼女の杖であり箒だ。
「へ? だ、だって、布じゃねえっすか……」
「木が……布に……?」
「うむ。魔力を込めてみろ」
言われた通りにその木に魔力を通してみる。すると、感覚的に分かった。
宗徳は、それを武骨な太めの親指にはめられる黒い指輪に変えた。飾りとして彫られた蔦や蝶の模様は繊細だ。
寿子は、それを手のひらサイズの鼈甲飾りの蝶のブローチに変えた。
そして、お互いに変えた物を見て声を上げる。
「「っ、それ」」
「……ん?」
二人はテレテレと頬を染めて目を逸らす。その様子に、イザリが首を傾げた。無表情のままだが、不思議に思っていることがわかる。
それに気付いて、宗徳は頬を掻きながら答える。
「いや、その……っ、昔、お互いプレゼントしたものと同じだったんで……っ」
宗徳は、社員旅行として行った横浜で、寿子に鼈甲飾りの蝶のブローチをお土産にした。
「仕舞い込んでしまって……付けたことはなかったんですけど……っ」
寿子は頬に手を当てて、恥ずかしそうにする。宗徳の作った黒い木の指輪は、北海道の友人の結婚式の時に、お土産として買った物だったのだ。蝶のブローチのお礼だった。
「なるほど……本当に仲が良いな」
「「っ……」」
お互い、付けるのがもったいなくて、それぞれ仕舞い込んでしまった物だったのだ。
「それならば、普段から身に付けていても問題なさそうだ。良い選択をしたな」
「そ、そうですか……っ」
「な、なるほど……っ」
久し振りに、二人は思いっきり動揺していた。
「問題なく形も変えられた所で、本番だ」
「「はいっ」」
「次はそれを杖や箒に変えてみろ」
そして変えたのは、宗徳が杖、寿子が箒だった。二人ともその柄には、蝶や蔦の絵が彫られていた。
「よさそうだな。では、あちらでやった復習だ。不可視の術もな」
「「はい!」」
それから五分ほどで、問題なく飛べるようになったのだ。
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