mission 15 古の魔女との邂逅

第151話 こっちでも?

扉をくぐると、いつもはふわふわと浮く一人がけ用のソファに腰掛けて飛んでくるチェルシャーノが、床に立ち、両手を広げて出迎えてくれた。


「やあ、大変だったようだネ」

「チェシャさん、ただいまです」

「お帰り〜徳々のりのり。随分と大所帯だネエ」

「あはは。いやあ、自然と増えまして」


こうして、戻って来た後、少し今回は何をしてきたかなど、チェルシャーノと話すことが常だった。なので、五人の獣人の子ども達のことや、徨流こうりゅうについてもチェルシャーノは知っている。


そこに更に今回は白欐はくれい黒欐こくれい、そして、虎のような魔獣である琥翔ことも、当然のように連れてきているのだ。増えたと笑われるのも仕方がない。


「こんなにお持ち帰りして来た子は、はじめてダヨ。それも神さまクラスまデ」

「いかんですか?」

「ウウン。この扉を潜れた時点で問題ナシっ、ダヨー」

「なら良かった」


チェルシャーノが扉の管理人の中でもすごい人であるというのは、もう分かっているのだ。その人が問題ないと言えば、安心出来る。


「ソッチの子達が、召喚されちゃった子だネ。まだ時間的には余裕がアルし、この後、診察は受けてもらうヨ」

「やっぱ、何か悪くなってたりするんで?」


宗徳と寿子も、最初の数回は軽い健康診断のようなものを受けている。全身スキャンされて終わりという感じの早い診察ではあったが、何らかの確認はしていたのだ。


「時差ボケみたいな違和感を確認するだけダヨ。あとは未知の病原菌とかがないかをネ。徳々のりのりたちの付けてるその腕輪は、そういうのからも守るものでもあるんダヨ」

「へえ。知らんかったですわ……」


宗徳は、もう着けているのが当たり前で、体の一部として馴染んでしまった細い腕輪を見る。メール機能や写真も撮れる。翻訳機能付きで更に病原菌からの保護までできる腕輪。すごいものを着けている。


「病原菌の選別まではできないし、効果を切ることもできないカラ、こっちでも風邪一つひかなくなるんダけどネ〜」

「それは有難いですけど?」

「いやいや、人類も環境に適応できないといけない生物だカラ、本当は良くないんだヨ。体の機能がサボるからネ。けど、魔法とか魔術とカ、異世界で適応しようトしてるカラ、そこはまあ同じカナって妥協したんダヨ」


方面は違うが、体の機能を完全にサボらせることにはならないだろうとの結論に至ったらしい。


「さてト、じゃあ、子どもたちハ、あっちの黄色い通路を通っテくれるカナ。そのアト、ちょっとダケ問診を受けテ、召喚される前にイタ場所に行ってもらうヨ」

「我々で送る」


これはイザリからの言葉だ。これにチェルシャーノが笑った。


「それはイイ! 魔女さんの宅配便ナラ、時間ギリギリでもいいもんネ」

「は〜い。じゃあ私が案内するわね。そっちの神さまやこうちゃんと琥翔ことちゃんもね」

「あっ、俺も一緒に行くよ」

「なら僕も。悠遠達は僕の弟だからね」


魔女の一人と美希鷹と廉哉に案内され、律紀や子ども達が検査に向かう。子ども達は、宗徳と寿子の姿が変わった事に少し驚いているようだった。だが、それだけだ。


「いってきます」

「「「「いってきま〜す」」」」

「おう。話をちゃんと聞くんだぞ」

「怖い事はないからね」


手を振る子ども達に、宗徳と寿子も笑顔で振り返す。


「可愛いネエ」

「「でしょう?」」


ちょっと自慢げだ。そして、残った魔女達にこの後の説明を受ける。


「召喚された子達は、私たちが空からお届けすることになるわ。今の時間は、あの子達がここと、もう一人居ることになってるの。だから、見られないようにしないとダメなのよ」

「はあ……なら、空からが一番っスね」


今現在は、召喚される前の律紀達も存在している。よって、他に見られるわけにはいかない。


「もちろん、のりちゃんと寿ひさちゃんは自分達で飛んでね?」

「飛行コースを教えるわ♪ 不可視の術も使ってもらうからね」

「「……え……」」


宗徳と寿子は、ポカンと口を開けた。しかし、二人はすぐに何を言われたのか理解して慌てる。


「いやいやっ。さすがにこっちで飛ぶとか術とか無理ですよね!?」

「えっ? こっちでも使えるんですか? と、飛べる? そんなことできませんよね!?」


異世界だからこそ魔法が使えるのだと思い込んでいたが、まるでそうではないと言っているようなもの。飛べると言われた時も、当然異世界でだけの話だと思っていたのだ。


「「使えるわよ」」

「徳々達なら使えるヨ?」

「「……」」


当たり前のようにチェルシャーノにまで言われ、二人揃って言葉を失くす。そんな宗徳と寿子を見て、珍しくイザリがクスリと笑っていた。


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