第150話 時差

竜守城の最上階の善治の執務室の奥。


プライベート用の空間のドアの一つが、地球と繋がるものとして使っている。そこに、魔女達も合わせて子ども達も全員が集まっていた。


今回は悠遠達五人の獣人の子ども達も一緒だ。


「ほんとうに、いってもいいの?」


悠遠は不安そうに尋ねてくる。人族しか居ないというのを聞いているためだ。


これに答えたのは、魔女達だった。


「確かに、人族しかいないから、見た目で目立っちゃうんだけど、ちゃんと隠せる導具があるから平気よ」

「外れるとかのハプニングもなし! 完璧なやつだから、子どもにも安心なのっ」

「ひと昔前はね〜、写真に写っちゃったりしてたんだけど〜、それの調整もちゃんとできてるから〜」


これに笑って宗徳と寿子が頷いたことで、大丈夫なのだと理解できたようだ。


次に、召喚されてこちらに来てしまった律紀達だ。これには、イザリが説明をしてくれた。


「お前達が召喚された時とは時間軸がズレていてな。今まで待ってもらったのは、それを合わせるためだ。現在は召喚される二時間ほど前になっている」


彼らは治季の家に遊びに行っていた。そして、庭に出ている時に召喚が起こったのだ。


「この世界はまだ調整が出来ていない。よって、宗徳達も大体、こちらで二日滞在しても、三日ほど経っている状態だ。だが、門番の力によって、そのズレを調整していた」


これを聞いて宗徳は、なるほどと思った。少しだけ、感覚がズレる時があった。


「体内時計が狂ったんだと思っていたんだが……なるほど、そういうことか」


そうかそうかと納得する宗徳。これに、イザリや魔女達が思わず顔を見合わせた。


「宗徳……お前、違和感を感じていたのか?」

「いやあ、若くなったから腹減るのが早いんだと思ってたんですけどね」

「そんな深刻なことなのですか? この人は感覚で生きてきた人なので、当てになりませんよ?」


寿子の意見に、宗徳も頷く。


「まあ、たった十分や十五分の違いなんで、誤差ですよ」


カラカラと笑う宗徳。だが、イザリ達にしてみれば、それは異常な鋭さだった。


「イズさま〜、間違いないですよ。来る前にチェルシャーノに聞きましたもん。調整が難しくて、十分から十五分は誤差出てるって。まあ、それでもチェルシャーノだからそれだけの誤差で済んでるんだろうけど」


この誤差を修正するのは、とても大変なことらしい。バランスの取れていない世界では特に、どれだけ調整しても誤差が出る。それでも、チェルシャーノは優秀で、他の門番ではニ、三時間まで詰めるのが限界な所でも、三十分まで詰められるらしい。


本人が面倒くさがりというか、余裕を持って生きるがポリシーとしているため、今は問題のある門や、新しい門の調整役しかやらないが、彼ならば多くの世界の門を一度に管理出来るだろう。


「そういえばこの人、昔から時間当てが正確なんですよ。三十秒や一分を当てるゲーム。ピッタリ過ぎて怖いので、やらなくなりましたけど」

「……なるほど……」


寿子が思い出した宗徳の得意技に、イザリは考え込む様子を見せた。そして、一度頷いて口を開く。


「宗徳。師匠に会ってみるか」

「へ?」


イザリの師匠とは、薔薇そうび様と呼ばれる音信不通の人のことではないかと首を傾げる。


「宗徳の話を聞けば、恐らく出て来られるだろう。こちらとしても、所在が知れるので助かる」

「探しても見つからないですもんね」

「お会いしたいと言っても、あちらが興味を持たれないと会えないですもんね」

「ヒサちゃんの飛び方も見てもらいましょうよ。きっと気に入っていただけるわっ」

「うむ……帰ったら、すぐに噂を流すとしよう」

「はあ……」


なんだかよく分からないが、イザリの師匠を紹介してくれることになったようだ。


「さて、お前達も行くのだったな。姿を消す導具を貸そう。存分に楽しむがよいよ」

《くすぅ》

《くるるっ》

《ぐるっ》

《みゅうっ》


徨流と白欐、黒欐、そして、新しく仲間になった琥翔ことも連れて行く。


《みゅっ、みゅっ、みゅ〜》


琥翔は好奇心旺盛だ。そして、宙を翔ぶ。


《みゅ〜っ》

「琥翔、向こうでは勝手に飛んでいくんじゃないぞ?」

《みゅっ》


賢く、可愛く返事をして、宗徳の胸に飛び込む。抱っこも大好きだ。


落ち着いたところで、いよいよ、扉を開いたのだ。


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