第113話  信じられない国でした

宗徳は城を退かし、流石に疲れたと座り込んでいた。目の前には、どの世界でも変わらない情景がある。とはいえ、良い光景とは言えないかもしれない。


助け出された怪我人達を、周りの住民や兵士、城勤で被害にあった者の家族達が必死で手当てをしていた。宗徳の方を気にする者は誰もいない。なので、宗徳は申し訳ないと思いつつも見渡していた。


現在は明らかに魔力の使い過ぎらしく、倦怠感けんたいかんが酷いのだ。この調子で手当てなど始めたら倒れてしまう。自身が倒れることが、助けようとする者達の気持ちまで折ってしまいかねないとわかっているのだ。


「……酷ぇな……」


改めて見てみると、城があったであろう場所には基礎ぐらいしか残っていない。瓦礫と化したものは崩れることがないようにと、大きさを分けて積み上げてある。


そして、助け出した怪我人達の状態は酷いものだった。その上、見事に大混乱中である。助けたいがどうすればいいのか分からないという者ばかりなのだ。


宗徳は、呆然と近くで立ち尽くしてしまっている、若い兵士の一人に声をかけた。


「なあ、おい」

「え、あ、はい……」


振り向いた兵士はとても若かった。まだ十代だろう。美希鷹や廉哉とそう変わらないように見える。こんな少年までもが兵士なのかと思うと少しだけ痛ましかった。


「悪い。ちょっと聞くが、怪我人を治療するような……教会のやつとか、この町には居ねえのか?」

「キョウカイ……とはなんでしょう……えっと、治療するのは、治療院があるんですが……」

「それはどこにある? というか、誰か呼んできてるか?」

「あ、いえ……治療士の方達は外に出てきませんから……運ばないといけないんです。でも、あの辺は多分……動かせそうにないから……」

「は?」


そういえば、軽傷の者達は自分達で歩いてどこか同じ方向へ向かっている気がする。意識のある怪我人を運んでいくのも見ていた。どこへと思っていたのだが、治療院だったらしい。


「もしかして、あっちにそれがあるのか?」

「はい」

「一つか?」

「えっと……どの町も治療院は一つですよ?」


質問の意味が分からず、不思議そうにする少年兵士。宗徳はそんな彼に構っている状態ではなかった。


「ばかな……なら、風邪ひいたとき、病気の時どうすんだ?」

「病気の時は治療院に行きませんよ? 薬屋で薬を買います」

「怪我人だけの受け入れってことか? そんで良くやってこられたな……」

「そうですね……大怪我をしたらもう助かりません……病気も、酷い時は諦めます。それに、治療院に入れる人数も限られるので、今回のように大きな事故が起きた場合は……平民はまず放置されます。自分たちでどうにかするしかないんです」


これまでの話を整理してみる。


1、治療院は各町に一つ。

2、怪我人は治療院、病人は薬屋。

3、治療院からの出張はない。

4、治療院の受け入れ人数は少数。入れなければ諦める。


「なんだそれ……」


思わず絶句した。その上、神頼みもしていない。なんて過酷な国だろうか。


宗徳達の来た大陸には、教会があった。神官やシスターが怪我人や病気の者達に、簡単な治癒魔術をかける。薬も調合する。それが普通だと思っていたのだ。


「ん? いや、だが、教会はあるよな? 神さまにお祈りとかせんの?」


宗徳は、廃墟と化してはいたが、教会をあの町で見ている。住民達もわかっていた。


「あ、他の町から来られましたか? ここ王都や近くの町には、そういう場所はありません。昔、神官達を追放するようにと、その時の王が命を出したそうです」

「……マジかよ……」


確かに、勇者召喚により、邪神となった神と敵対したのだ。神とは知らないかもしれないが、敵対すると決めた時から、信仰心を失くしてしまったのだろう。正しくあろうとした神官達の言葉も聞く気がなかったということかと納得する。


「とんでもねえな……」


ということはと、命が次々に尽きていく怪我人達の方へ目を向けた。


彼らはもう、怪我をした時点で生きることを諦めてしまっているのだ。


「バカかっ」


そして、見てしまった。今まさに、怪我で苦しんでいる同胞達へと剣を突き立てて苦しみから解放しようとする者達を。


「やめろ!!」


宗徳は飛び上がるようにして立ち上がり、怒りに任せた魔力の放出だけで彼らの手にする剣を粉々に吹き飛ばした。


「「「は!?」」」

「「「キャっ!」」」


一気に放出したために、宗徳も頭がくらりと揺れるのを感じた。まるで寝過ごしたと驚いて飛び起きた時に似ている。頭だけは冷静だったのだ。


「おい……せっかく助けた命を……ふざけんなよ!」


そうして、宗徳は怒りに任せたまま、一気に広範囲に渡る治癒魔術を発動させていた。だが、宗徳の魔力も限界が近いのだ。全てを治癒させることなどできない。それでも死にかけていた者達は首の皮一枚で命をつなぎとめていた。


「くっ……」


宗徳は膝をついた。だが、そこで終わりにはしない。歯を食いしばり、最後の力を振り絞った。


「え?」

「何……?」

「っ、死んでしまったの?」


宗徳が次にかけたのは、怪我人達を仮死状態にするものだった。近付いてくる寿子の気配を感じて、せめて時間をと思い立ったのだ。


「大丈夫ですかっ」


突然立ち上がり、すぐに地面に手をついた宗徳を心配して、少年兵士が駆け寄る。


「おう……怪我人は仮死状態にした……いいか。誰も殺すなと言え。もうじき、俺の妻や子ども達が来る。治療してやっから……怪我人に触るなと言ってくれ」

「え……あ、はい!! 皆さん! 怪我人はこの方の魔術で仮死状態にされています! もうじき救援が来るそうです! だから、落ち着いて待っていてくださぁぁぃ!」


顔を真っ赤にして少年兵士は大声で告げた。理解しようと皆が動きを止める。それで十分だった。


「あなた!」

「宗徳さん!」


寿子と廉哉の声が聞こえてきたのだ。


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読んでくださりありがとうございます◎


そういう世界もありますよね。

また明日です。

よろしくお願いします◎

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