第114話 誓いの言葉ですから
宗徳は寿子の声を聞いた途端、自分の体から力が抜けていくような感覚を覚えた。
安堵し、完全にへたり込んでしまった所に、寿子が廉哉と駆け寄ってきた。
「あなた……無茶しましたね?」
「っ……すまん……だが、聞いてくれよ」
寿子の少し低くなった声を聞いて、宗徳は長年の経験からとりあえずは弁明することにした。
この大陸での治療院という存在や、教会があっても意味を為していないことなどを、一気に語った。
廉哉はそういえばと頷いていた。
「異世界ですから、それがこの世界での普通だと思っていたんです。ですが、向こうの大陸ではきちんと教会が機能していましたね……こちらではそうだということも忘れていました」
奇妙に感じたとしても、違う世界だからと考えればそれが常識になる。まだ小さかった廉哉でも病院という場所がどういうものであるのかというイメージは持っていたため、受け入れるのには多少抵抗はあったという。それでも、異世界だからという理由でだんだんと受け入れるようになっていたらしい。
「なるほど……わかりました。私は精一杯やりましょう。とりあえず、あなたはコレを飲んでしばらく大人しくしていてください」
細められた目は笑っていない。
「うっ……それ、罰ゲーム用の……っ、はい! いただきます!」
こういう目をした時は、昔から逆らってはいけない。特に若返った寿子からは逃げられないだろう。逆らった場合、投げ飛ばされる。それこそ、若い頃に何度投げられたかわからない。あれはかなり楽しんでいた。
投げ飛ばすことも考慮して、部屋は綺麗に片付けていた寿子だが、それを宗徳は知らない。綺麗好きな良い妻だと外で誇っていた宗徳だ。
震える手で、瓶に入った薬を受け取る。一般的な栄養ドリンクと同じ大きさだ。その中身は驚くほど不味い。
口元に瓶の口を持っていくのも難しいほど震えながら、それを一気に煽った。
「ぐっ……っっっ!!」
「だ、大丈夫ですか?」
絶望するように両手を地面に突き、その力を失くすように地面に転がる。そうして、悶え苦しんだ。
そんな様子を寿子はチラリと確認しただけで怪我人達の対応へ向かってしまった。
「え? あれ? ちょっと、おじいちゃん? どうしたの?」
「っ、っぅっぅぅ~っ……っ」
口を動かそうとすれば、舌に残った味を感じ、また悶えるしかなかった。
「おじいちゃん……?」
「あ、あの、これは寿子さんの薬のせいです」
「おばあちゃんの薬?」
廉哉が代わりに説明してくれるらしい。はっきり言って助かる。
「寿子さんの薬はとても良く効くんです。異世界特有の体力回復薬とか、魔力回復薬とかあるんですけど、それの思いっきり不味く作ったのを……その……」
「飲んだの? 不味いって、不味いの?」
「えっと……コレ、舐めてみます?」
廉哉はいざという時のために持たされていた薬を取り出し、蓋を開けた。差し出されたそれを受け取り、臭いを感じて驚いたように遠ざけた。放り出さなかった律紀は偉い。
「すっ、すごい臭いだよ!? コレを飲んだの!? 死なない!?」
「いや、あの。回復はしてるから……」
「本当? ちょっと、おじいちゃん?」
「お、おお……」
ようやく落ち着いてきた。
「効果は冗談みたいに良いんだがな……」
「そんなのしかないの?」
「いや……これは罰ゲーム用だ……あいつ、味の調整を完璧にできるようになったからって、死ぬほど不味いのを作ったんだよ……」
逆に驚くほど美味しいと思える薬を作り上げた寿子だ。美味しすぎてついつい飲みたくなるのは困る。そうして、味をコントロールできるようになったために出来たのだ。遊んだとも言う。
「……おばあちゃんって……可愛いことするね」
「どこが可愛いんだよ!」
「……あなた?」
「ひっ……ひ、寿子っ、も、もう終わったのか?」
「ええ。もう既に亡くなっていた方はどうにもなりませんが、その他を仮死状態にしたのは正解でしたね。流石に人数が多かったですけど、何とかなりましたよ」
寿子は宗徳よりも魔力が高いらしい。そのため、ある程度集められる者は集め、広範囲の術で治し切ったのだ。
「あれ以上死人が出んくて良かったよ……」
「そうですねえ。あなたのことですから、絶対に助けるとか言ったんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ。絶対とかないですからね? 助けたいと思うことと、助けられるかどうかは別ですよ」
「……すまん……助かった」
「いいえ。あなたを支えるのが私の役目ですからね」
神さまに誓ってますものと言われると、宗徳は真っ赤になった。
神前式で結婚した二人だが、寿子が教会での式に憧れた時があったのだ。もう年もいった時だったので憧れだけだったが、それを知って宗徳は、休みの日に近くの教会に寿子を連れて行って誓いの言葉だけ交わし合ったのだった。
後で考えるとかなり恥ずかしい。だが、寿子が喜んだので、よかったとは思っていた。
「どうしたの?」
律紀が心配するように、座り込んでいる宗徳の顔を覗き込んでくる。少々赤くなったのを感じて、誤魔化すように顔を別方向へ向ける。
「い、いや。大丈夫だっ。そ、それより、鷹と治季はどうした?」
「あ、うん。子ども達とおにぎり作ってる」
「子ども……もしかして、悠遠達か?」
「うん」
美希鷹が寿子に頼まれて指揮を執っているらしい。確かに、炊き出しは必要だろう。
「ん? あれは……アルマの母親じゃなかったか?」
ユマは一人、多くの人が集まる場所へ向かっていた。そこに、彼女の父親がいたのだ。
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読んでくださりありがとうございます◎
キツめのお灸も愛あるからこそ。
次話どうぞ!
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