第112話 見た目はこうですけど
美希鷹に声をかけようと口を開いた時、ゆっくりと固定されたソファから律紀と治季が起き上がったのが目の端に映った。全員がそちらに揃って目を向ける。
「ん? 鷹君……この人たち……」
「こ、今度は美女が二人と……っ!? ケモミミの子どもですって!? これぞ、ファンタジーですわ! 私の描いた妄そっ……幻想が現実に!!」
「……」
宗徳や律紀から治季の話は聞いていたが、とても面白いお嬢様だなと寿子は内心苦笑する。
「落ち着いて、治ちゃん! 好物なのは分かったから」
「好物などとっ、大好物です!」
「……」
寿子は話しがちゃんとできるか心配になってきた。とりあえずはと、自己紹介をすることにする。
「はじめまして。あなたが師匠……善治さんの血筋の方ね? 私は
「「ええっ!!」」
「やっぱり……」
美希鷹は予想していたようだ。キュリアートが平然としていたからだろう。
《本当に美人だ~♪ 自慢するだけある!》
「あら。キュアちゃんったら。もしかして、あの人?」
《そう! しっかり惚気られたの》
「もうっ。恥ずかしいわぁ」
恥ずかしいと言いながらも、温度を上げる頬を確認するように手を添えて笑った。
「ヒサちゃん……可愛い」
「やだっ。鷹君まで!」
「だっ、だって……本当に美人だし……ノリさんと結婚した時の年齢くらい?」
「もう少し若かったわね」
「へぇ。ノリさんやるねっ」
美希鷹は、本心から宗徳を尊敬した。
「ほ、本当におばあちゃん……?」
「そうよ~。律ちゃんは見た目が変わらなかったのね。あら? あの人の魔術かしら?」
寿子は、律紀達の体に薄く膜を張るようにある宗徳の魔力を感じていた。
《転移だったからね。それも失敗に近いやつ。だから、こっちの世界の魔力に体が適応できないの》
「なるほどね。異常はないかしら?」
「うん。律紀と治季も落ち着いてきたみたいだし。俺は元々がちょっと普通の人とは違うから」
美希鷹は翼人種という種族であるため、この異世界でも適応しやすいようだ。見た目は天使。翼の部分がキュリアートだ。
だからだろうか。寿子の腰にくっ付いて美希鷹達を見ている獣人族の子ども達にも臆することなく話しかけた。
「こんにちは。俺、美希鷹って言うんだ。コイツは俺の翼。名前はキュリアート。えっと、言葉伝わってるか?」
美希鷹は異世界もののファンタジー小説を知っている。普通に考えても異世界と言語は違うだろうと冷静に思い当たったのだ。しかし、そこはチート気味な宗徳だ。美希鷹達の体に保護膜を張る時にこちらの世界に適応させるというのを念頭に置いたため、きちんと翻訳されて伝わっていた。
「わ、わかります。ボクはジナンのユウエンです」
「よかった。しっかりしてるのな。いくつ……何歳?」
「六サイです」
「そっか。よろしくな。あっちの少し背の高い方が律紀で、ヒサちゃんの孫だ。そんで、もう一人が治季で、善治さんの玄孫? もっとか? まあ、孫みたいなもんだ。善治さんはわかるか?」
「はい! マスターです!」
「マスター?」
逆に美希鷹が分からなかったらしい。
「ふふ。師匠はギルドマスターと呼ばれているのよ」
「あ、なるほど。ギルマスかあ。善治さんに似合うな」
キラキラとした目は、美希鷹が善治に会った時に見せる瞳だった。憧れの人を見る目だ。
「さあ、立ち話もなんだわ。一度座りましょう」
今まで立ったままだったことに気付き、ユマも手招いてソファに座った。
「こちらを紹介するわね。ユマさんよ。本当の名前は……」
「ユミール・ロサ・ケーリアと申します。このケーリア国の第三王女です」
「へ? 王女様? 俺らを喚んだ国の?」
「っ!? あなた方が異世界から召喚された!? 申し訳ございません! 愚かな父に代わり謝罪させていただきます!」
ユマは素早くソファから立ち上がり、深く頭を下げた。
「え? あ~……うん。でも、王様が喚んだんじゃないかもしれないじゃん。少なくとも、あの儀式場には……どうだった? キュア」
《居なかったと思うよ? 王様だし、豪華な服とか着てるんでしょ? あそこには、黒と白のローブを着たのしか居なかった》
「そうなのですか……ですが、父ならば儀式は術者達に任せて、部屋で踏ん反り返っていた可能性が高いです。あの人は自分の時間を優先するので」
儀式など、人に任せられるならば丸投げする人のようだ。喚び出せるかどうかも分からない儀式を見物することさえ
「それならあの城に……その……」
美希鷹もあの映像を見ているようだ。ライト・クエスト専用の連絡用の端末を美希鷹も持っている。上に居る廉哉が、こうして折り返す理由として教えていたのだろう。
父親である王があの城の中に居たというならば、もしかしたらと考えられる。それを娘であるユマに言い難い様子だ。だが、ユマは父親である王に反発していたのだ。生死の心配よりも、一言二言会って文句を言えるか言えないかの心配しかない。
「死んでいたらそれまでですが、生きていたなら、必ず謝罪させます!」
「え……」
「私は勇者召喚はしてはならないと父に忠告してきました。神でもない只人が、異世界から人を招くのです。必ず歪みが生じると思っておりました。それに聞く耳を持たなかった父に、私は王都から追放されたのです。既に、親子の情はございません。あるのは、愚かな血縁の者という
「……お姉さん……強い人だね……」
美希鷹はなんとも言えない表情で告げた。少し怯えてもいるようだ。一方、律紀と治季は手を握り合いながら、ユマをキラキラとした目で見つめていた。あれは先ほどの善治に憧れを持つ美希鷹と同じだ。
「勇者様にお褒めいただくとは、光栄です」
「「(きゃ~)」」
小さな声で歓声を上げる二人。強い王女様として受け入れらたようだ。
そうして、すっかりリラックスした状態で話をしていた一行は、王都が見える位置までやって来ていた。
降り立つ時前、上から見えた王都の様子に寿子達は絶句するしかなかった。
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読んでくださりありがとうございます◎
カッコいい王女には憧れるものです。
次話どうぞ!
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