第056話 王都らしい
善治が若い頃から大人びた物静かな少年だったと宗徳が聞いたのは、祖母からだった。
最低限の事しか口にしない時が多かったし、いつでも冷静で、善治の周りの雰囲気は、とても凛としていたから、昔からそうだったのかと納得した。
けれど違うのだ。確かに冷静に見えるし、落ち着いた雰囲気も感じる。しかし、善治ほど熱い男はいないと思う。
まず、筋の通らないことは許さなかった。卑怯な手で脅されたのなら、それを正面から打ち砕く。物理的にだ。そうして、壊滅した組織は結構な数だったらしい。
もちろん、売られた喧嘩は買う。それが格下でも、格上でも、正面から貰い受けるのが善治のやり方だった。
だから、決して大人しい人ではないと思うのだ。熱い人間でなければ、座右の銘に『悪即斬』は掲げないはずだ。まったく、どこの時代の剣士か。
「善じぃのやつ……めちゃくちゃ速いなぁ……」
《グゥゥ……》
気配は分かるものの、宗徳はその姿を未だに捉えきれずにいる。徨流に乗って障害物のない空を飛んでいるというのにだ。月明かりの中であっても宗徳には見えると思っている。
「この辺初めてだし、あんま町から離れたくないんだがなぁ……」
飛び立った竜守城はもう遥か後方。そら豆程度の大きさになっている。とはいえ、仄かに光る町の明かりがその程度という所だ。
「こっちの方角だと首都……じゃねぇ、王都か」
宗徳の手には、地図があった。急遽出かける前にこの大陸の大まかな地図を手にしていたのだ。
「ホントに大雑把な地図だなぁ……落ち着いたらちゃんとしたのを作るか。あ~、でも善じぃがこれをこのままにしてるって事には理由が……」
あるのかもしれないし、単に人手が足りなかったために後回しになっているのかもしれない。とはいえ、作るべきだろうと思う。
「俺らだけが確認できればいいしな。世に出しちゃならんなら、隠しとけばいい」
そんな計画を立てながら、進むこと三十分。
「……マジで大きな町まで来ちまった……これが王都ってやつか……」
宗徳の前方には、丸く大きく囲われた都市がある。それが見え始めたころから、徨流には速度を落としてもらった。もう手遅れだと思ったからだ。
「……追いつけねぇとか……どういうことだよ……」
本気で追いつけなかった。おそらく、善治も本気で走ったのだろう。異世界人とは、とんでもない。
「俺もできっかな……」
《グル》
「お、マジで? なら、できるか今度頑張ってみるぜ」
《グルル》
徨流が宗徳にもできると太鼓判を押したので、是非今度挑戦してみようと思う。
「さてと……もうここまで来たら見届けるしかないな。降りるぞ」
《グルっ》
既に王都の中に入ってしまったらしい善治を追って、宗徳と徨流は王都の手前に降り立つのだった。
◆ ◆ ◆
「分厚そうな壁だな」
《くすぅ》
さすがに夜で見えにくくなるとはいえ、上空から入るのは問題だろう。しかし、中に入るためには、門の前から続く列に並ばなくてはならなかった。
そろそろ閉門の時刻が近づいているので、長い列となっている。その最後尾に並びながら、王都の外壁を見上げていた。すると、前に並んでいた男が声をかけてくる。
「はっ、田舎者か? この国の王都は特に審査も厳しいからな。坊主にゃ、入れないんじゃないか?」
「坊主?」
そんな坊主がどこにいるのかと周りを見回す。
「坊主は坊主だろ。これだから田舎もんは」
「……ああ、俺のことか」
そういえば、宗徳はこの世界では二十代の青年の姿だった。
「あん? フザケてんのか?」
「いや、今思い出したんだ。すまんな」
相手の男は四十代ぐらいだろうか。山賊のような大柄でボサボサのヒゲと頭をしている。
「年長者への口の利き方がなってねぇなぁ……おい、ちょいツラ貸せや」
「と言われてもなぁ」
実年齢は明らかに宗徳の方が上なのだから。
「はっ。その格好、冒険者だろ。なら、いいよなぁ?」
そうして、男はニヤリと笑いながら、おもむろに拳を握ったのだ。
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