第045話 許可は取れました

宗徳は善治に連れているリヴァイアサンを始め、件の問題を起こしていた湖から日本に戻り、善治の家へ行った事、イザリに会った事、廃村で保護した獣人族の子どもの事までを報告した。


「そのリヴァイアサンが、我が家の祀っていた龍神様か……繋がっていたとはな……」

「こっち側にあった法具はこれだ。イズ様に渡すということで良いんだよな?」


空間収納によって保管していた水晶のようなものを見せると、善治は少し瞠目した後、頷いた。


「ああ。この手のものはイズ様にお任せしよう。すぐにそれに関する長への報告書を上げる。持って行ってくれ」

「善じぃ、帰らないのか?」


また残るような言い方だったので、気になった。


「ここが落ち着くまではな。こちらではそのリヴァイアサン……徨流についての報告もせねばならん。今しばらくはこちらで生活する事になる」

「そうか……」

「私は今や独り身だ。待っている者も日本にはいない。死んだ事になっているしな。何より、こうして派遣された者がこちらの世界に居つくのも珍しい事ではない」

「そうなのか?」


情報の規制がかかる地球より、こちら側の方が生きやすいのは確かで、時折報告書を送るだけでこちらに永住してしまう者は、昔から多いらしい。


「魔女なんかは仕事関係なく、色々と放浪して、気に入る世界を探していたりする。日本は中間地点のようなものだ」

「へぇ」

《くきゅ?》


思い出してみれば、地下のチェルシャーノのいる部屋には、沢山の扉があった。あれは全て違う世界に繋がっている扉だ。


普通は、他の世界からあれだけの通路を通すことはできない。地球とは特殊らしく、それが可能となる次元にあるらしい。


よって、力ある魔女達が集い、扉も彼女達の力によって追加されていく。あの扉の多さは、そうして増えていったものだった。


「そうだ。なぁ、ここへ帰ってくるまでに聞いたんだが、この世界では子どもでも働くのが普通らしいな。それって、日本の戦前みたいな感覚でいいのか?」

「同じだ」

「なら、ここで子ども達を働かせられるか? 危ない事はさせる気はねぇけどよ」

「そうだな……お前や寿子の部下としてなら問題ない。小姓のような扱いになる。ついでに冒険者登録はさせておけ。身分証の代わりになる」


この世界では、大人も子どもも常に危険と隣り合わせで生きている。多くの死因は病だ。衛生的な面においての環境は劣悪と言える。


出産率は高いが、それ以上に死ぬリスクが高い。生産性は上がらず、貧しい生活になり、更に死亡率も高くなる。その悪循環だ。


親を亡くした子ども達は、コミュニティを作り、生きるために働く。それが普通の世界なのだ。五、六歳ならば冒険者登録をして、街中の薬草や作物の採取を担う者も出てくる年だった。


「じゃぁ、ここに住まわせても問題ないよな?」

「構わん。職員の居住スペースは多く取っただろう。食事も食堂を使えばいい」


実はこのギルド。食堂での食事は、職員はタダだ。多少は給料から差し引くが、これに風呂も使いたい放題。その上、住む場所も確保されているとくれば、文句は出ない。


大きな食堂は、冒険者達や旅人、この町の者も使用でき、値段はかなり安価だ。定食なので満足度も高い。メニューは寿子監修だ。既に美味いと評判だった。


この世界を知るために善治が長く冒険者として活動していたらしく、その間に蓄えたお金は、半分以上を準備金としていた。今はまだ採算が合っていないが、もう半年もすればギルドの運営も上手く回り、プラスになっていくだろう。


「俺らはあっちに帰らなくちゃならないからな。助かるぜ。これからは泊まりも考えるぞ」

「わかった。その方がこちらとしても計画が立てやすい」


こうして、あっさり子ども達と徨流のことは受け入れられた。


「それで明日だが、また昼前には来てくれ。先ずは、寿子に毒霧の浄化薬を作ってもらう。それから、件の廃村の周りから、作物などに影響がないかの調査をすることになる」

「おう。まぁ、帰そうにも帰る場所の安全を確保しなけりゃならんか」

「そういうことだ。だがその毒霧は……法具の暴走ということなのか…….?」


善治が思案する。今回の件について、報告するとすれば、法具も提出を求められるかもしれない。それはあまりよくないだろう。何のための道具なのかを知られるべきではない。ましてや、それが地球とを繋ぐためのものだと知られてはまずい。


その善治の独白に、徨流が反応した。


《くきゅきゅきゅっ!》

「ん? 毒を湖に入れた奴がいる?」

《きゅふっ。くきゅきゅ!》

「だってよ、善じぃ」

「……悪いが何を言っているかわからないのだが……」


徨流の言っていることは、善治にも分かるはずもなく、鳴いているとしか認識できなかったようだ。


「お、そうか。あのな、誰かが湖に毒を流したらしい。それを異物と判断した法具が吸い込んだらああなったんだとよ」


この話には、まだ裏がありそうだ。


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読んでくださりありがとうございます◎



報告は完了しました。

また明日です。

よろしくお願いします◎

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