第044話 ちょっと冷たいですが
リーヤとミラーナ、保護した五人の子ども達と共に、宗徳と寿子は町に帰ってきた。
「やっぱ、速かったなぁ。さすがは龍だ。ありがとな、徨流」
《くきゅきゅ》
現在、時刻は夕方の五時といった所だ。夕日を背にして帰ってきたのだが、子ども達に仮眠を取らせ、目覚めて十分後には町へ着くことができた。それは徨流のお陰だ。
「自由に大きさを変えられるのは助かりますね」
「おう。あの大きさでなら、どれだけの人数を運べるんだろうな」
町は相変わらず避難して来た人で溢れていた。とはいえ、悲壮感はない。眠るための場所も確保されており、食事もギルドから配給されているようだ。
そんな中を、宗徳の腕に巻き付いている徨流と話しながら進む。
《くきゅぅ?》
「マジ? 五十人くらい余裕?」
《くすぅ!》
「あ~、まぁそうか。けど安全面の保証は大事だぞ。なら、確実なのは二十人くらいだな」
《くきゅきゅっ》
長い胴体に五十人乗せても平気だが、それだけの人数になると、全員に気を配ることができないので、落とす危険があるらしい。
二十人ならば安全も確保できるから大丈夫だと頷く徨流の頭を宗徳が指で撫でる。すると、それらを見ていた寿子が今更ながらに尋ねた。
「あなた、徨ちゃんの言っていることがわかるのですか?」
「ん? おう。普通に」
「そう……ですか……」
寿子が頭を抱えて首を振った。まるでお手上げだといわんばかりだ。
「……ムネノリ殿は凄いですね……確かに会話をしているようにしか見えません」
リーヤが感心しながら、宗徳と徨流を見つめた。宗徳には何故か徨流の言っている事が分かるのだ。声というより思念のようなものが感じられることで、会話のようなものが可能となっていた。
「そういえば、騎獣の契約をした者はそうやって言外にやり取りすると聞いた事があります」
「へぇ。便利だな」
「いえ……」
「あなたの事でしょうに」
「はははっ、いやぁ、上手く説明できないからなぁ」
どうやって聞こえているのかとか、何故分かるのかと言われても、分かるからとしか言いようがないのだから困ってしまう。
「お、おとうさん、あそこにいくの?」
聞いてきたのは一番年長の六歳の男の子。
「おう。スゲェだろ。設計したのは俺と、俺の師匠だぞ」
「うん! すごいっ。おしろだよねっ」
子ども達は、宗徳をおとうさん。寿子をおかあさんと呼ぶことになった。
「そうだ。とりあえずは、あそこで暮らすことになるからな。最初の内はちょい留守番が多くなるが……人はいる。ユウエンは一番兄貴だから、下の奴らのこと、頼んだぞ」
「うんっ」
ユウエンとは『悠遠』のこと。子ども達には名前がなかったため、寿子が付けた名前だった。
徨流のように一族の名前の付け方で決めようと思ったのだが、五人には時に関する名前にしようと寿子が言い出した。
一番年長の狼のような灰色の耳と尻尾を持つのが『
井戸に落ちていたのが真っ白い猫の獣人。おっちょこちょいで慌てん坊な男の子で歳は五つの『
家と家の狭い路地に倒れていたのが、怖がりやで四つの女の子。狐の獣人の『
そして、草木の垣根の下でうずくまる様にして倒れていたのが食いしん坊な熊の獣人の五歳の女の子。『
「先ずは俺らの師匠に報告だ」
「あなた一人で行ってきてくださいな。私はこの子達とお風呂で温まってきます」
「ん? それなら俺も……」
「行ってきてください」
「……おう、任せろ……」
寿子はいくら魔術で綺麗にしたとはいえ、これまでとても衛生的ではなかっただろうと感じており、なんとしてでも子ども達をお風呂に入れたいらしい。
「ミラーナさんもご一緒にどうです?」
「いいんですか? お、お風呂ってお湯で水浴びなんですよねっ。凄く贅沢なっ。あっ、で、でも裸……っ」
「ふふっ。あら、若い子はこちらでも裸の付き合いは恥ずかしいのかしら? でも大丈夫よ。ここのお風呂では、専用の布着を着て入るようにしましたからね。体を温めるのが目的ですから」
汚れは入る前に魔術で落とすように専用の道具がある。元々、この世界にあった道具だ。もちろん、安いものではなく、村ならば村長の家に一つあるかどうかという代物になっている。
当然、風呂の習慣はなく。水で濡らした布で拭く程度が一般的なものだ。
だが、宗徳と寿子は、この道具をいとも簡単に作り、更に改良した。お陰で竜守城では使いたい放題だ。
「それでは、師匠への報告、お願いしますね」
城に入って風呂場への通路と別れる時にもう一度言われ頷いた。
「リーヤ坊も温まってこいよ」
「え、ですが……」
彼も宗徳と一緒に行こうとしていたらしい。いい奴だ。
「いいんだよ。ちょい難しい説明もあるからよ。子ども達が出てきたら手伝ってやってくれ」
「はい。では、少し失礼します」
「おう」
風呂場の方は、多くの人々が避難してきているにも関わらず、あまり混雑していないようだ。おそらく、大半がこの施設を知らず、知っていても気後れしているのだろう。
お陰で子ども達はゆっくり浸かれそうだ。
「お前も後で入ろうな」
《くきゅっ》
宗徳は徨流を腕に巻き付けたまま、善治のいる執務室へ向かったのだった。
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読んでくださりありがとうございます◎
一人で報告に。
次話どうぞ!
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