第046話 応援します
宗徳と寿子はリーヤとミラーナは勿論、ギルド職員のイーサとウッズにも頼み、子ども達を任せると、地球へ帰ってきた。
「おっ帰り~ぃ。アレ? またゼンゼンは居残り?」
出迎えたチェルシャーノが心配そうに首を傾げた。
「当分、落ち着くまでだそうです」
「オヤオヤ。それはタイヘンだ。報告忘れないようにネ」
「はい。お先に失礼します」
「お疲れ様です」
「ウン。まったネ~」
二人揃って先ず着替えると、二十二階の宗徳達の上司、クーヴェラルの下へ向かった。
「そう……こちらからも調べる必要がありそうね……分かったわ。これは確かに預かりました。イザリ様の依頼、頼むわね」
「はい。連絡が来たら直ぐに受け取りに行ってきます」
あちらで回収した宝具をクーヴェラルに預ける。話を聞いて、彼女も地球の側に残されているはずの宝具を、欠片であっても回収する必要があると判断した。
「そのハルキさんだったかしら? ゼンちゃんの血縁の女の子への対応は任せます。何度かゼンちゃんからも確認していると思うけど、私たちは別に正体を隠しているわけではないわ。知られない方が穏便に済ませられるからそうしている時はあるけれど、基本、知られた所で問題はないの」
「理解できないものは出来ないからですね」
何十年、何百年と姿が変わらなくても、その人を知らなければ、よく似た人がいるなという感想だけで終わる。
仮に知られたとしても、吹聴した所で正気を疑われる。何より、信じられないものを目の前にした時、誰かに同意を求められないとしたら、忘れるという選択を取るのが人だ。一方、言いふらさない者は、そういうものだと受け入れるだけでなんの問題もない。
よって、ライトクエストの実態は、必然的に黙秘されているだけにすぎない。
「ええ。それに、例えばこういった魔術……」
クーヴェラルが右手を何かを受けるように手のひらを上にして少しだけ前に出す。胸辺りの高さに固定した手のひらの中に、風の玉が出来上がった。
「風か」
「そう。これを映像で残そうとするとね。どうしても映らないのよ。魔術は力。力が集まる時の光の屈折、振動といったものが、画像を乱してしまうの。どれだけ性能の良いカメラでも、これだけは無理みたいなのよ」
「不思議ですね……」
それはとても都合が良い。実際、人の脳は案外正確に情報を受け入れてはいない。そのせいで、少々映っていたとしても、それを認識できないのだ。
目の前で見ていたとしても、錯覚だとして認められない場合も多い。証拠として映るものが役に立たない状況では、魔術の実証も難しいというわけだ。
「魔女達も、高速で飛ぶから、肉眼では確認できないしね~。あのスピード狂共……」
「危ないっすよね……」
もしスピードを落としたとしても、高いところを飛んでいるし、箒は鳥の尾羽、大きなツバ付きの帽子とローブを着ければ、シルエットは鳥にしか見えない。
未だ足を踏み入れてはいないが、魔女が飛ぶ事を許された階では、毎月数人、下り立った者が轢かれる事故が起きているらしい。ただ、ここライトクエストにいる者が轢かれたところで、死ぬことはない。丈夫な社員が集まっているのは幸いだ。
「って、何の話だったかしら? え~っと……」
「イズ様の依頼において、色々秘密にしなくても良いって事ですよね」
「そうそう。なんなら、そのハルキちゃんも連れてきても良いからネっ」
「……善じぃの身内を見たいだけでしょう……」
「あったりーっ。え? ダメ? だってゼンちゃんの血筋よ? きっとキレイなんでしょ?」
「……まぁ……けど、あまり巻き込まない方向で行きますから」
「え~っ……ツマンナイぃぃぃ」
「仕事してください……」
ダレてきたところで、宗徳と寿子はその部屋を後にした。
◆◆◆◆◆
最上階の部屋で待っていた律紀と美希鷹を迎えに行き、揃ってライトクエストを出る。
「鷹もウチに来るか?」
「そうね。クー様、まだ仕事ありそうだったわよ?」
クーヴェラルの机には、間違いなく今日中には終わらなさそうな書類の山があった。パソコンには、ひっきりなしにメール着信のランプが付いていたのを二人は見ている。
最後の、だらけ具合からいっても、徹夜決定だろう。
「マジ? ちょい確認する……」
美希鷹がメールを送ると、すぐに返事が来たようだ。
「ホントだ。徹夜決定だって……行っていいか?」
「もちろんっ。またお夕飯、一緒に作りましょう」
「着るものならウチにあるし、構わんだろ」
「うん……なら泊まる!」
これには、キュリアートも賛成らしく、ツンツンと美希鷹の頭を突いていた。
「それじゃぁ、宿題の残りも今日中に出来そうだね」
「そうだなっ」
仲の良い二人は、笑いあった。
「なんだ。終わらなかったのか?」
そう言ってやれば、二人揃って目をそらした。
「あはは……つい、テレビ観たりとか……」
「オヤツの時間がなんでか増えるんだよな……」
「キュリアート、お前がいながら……」
《……一緒になって遊んでました……》
キュリアートも、律紀という理解者ができた事を喜んでいるのだろう。二人の自由な時間をと思ってしまったらしい。
「まぁ、終わるなら良いけどな」
「そうですね。息抜きも必要ですから。勉強は根を詰めすぎるものではありませんし」
「だな。だが、やる事はちゃんとやれよ?」
「「は~いっ」」
本当に二人とも、良い関係を築けたようだ。
「ねぇ、それより、今日はどんな事してきたの?」
「そうだよっ。魔獣退治だって言ってたじゃんか。どうなったんだ?」
「ん? ああ、退治っていうか……懐いた。それと、子どもが五人できた」
「「はぁっ!?」」
キュリアートまで口を開けて固まっている。
「もうっ、あなたったら、言い方が悪いですよっ。悪さをしない良い子だったから、仲間になったの。それで、そこで見つけた孤児の子ども達を引き取ることにしたんですよ」
「へ、へぇ……なんか、やっぱり普通じゃない事が起きるんだね」
「その子ども達、今どうしてるんだ?」
律紀は素直に感心し、美希鷹は自身の生い立ちもあり、子ども達が気になるようだ。
「善じぃもいるし、知り合いに頼んできた。部屋もちゃんとあるし、飯も問題ねぇ。ただ、明日っから、何日か泊まりにしようと思ってるけどな。まだガキ共が小さいこともあるし、善じぃを手伝わねぇとなんねぇから」
これを告げると、二人は急にしょんぼりとテンションを落とす。
「泊まりか……」
「そっか……なら、明日は家に帰るよ……」
「律紀……心配するな。帰って来たら連絡するから、その時にまた来い」
律紀は家出中。しかし、さすがに学校もあるのだ。ずっと休んでいるわけにはいかないだろう。宗徳と寿子の息子である徹の頭も冷えた頃だ。
「うん……」
不安ではあるが、逃げ続けるわけにもいかないとわかっているのだ。
そこで、寿子が唐突に提案した。
「鷹君。明日も予定空いてる?」
「日曜だし、空いてるけど?」
「それなら、律ちゃんと一日出かけてみない? それで、悪いんだけど、お家に送り届けてほしいのよ」
「え?」
言い方を変えれば、一日デートということだ。美希鷹はそれを察したらしく、顔を赤らめている。
「それは良いな。鷹のメールなら、あっちにいても届く。律紀を送り届けたら連絡してくれれば安心だ」
「あ……そっち?」
「なんだよ。お前……デート経験あんの?」
「っ!?」
分かっていないとでも思ったのだろう。声を落として『デート』とあえて言ってやれば、面白いくらいに動揺した。
「まぁ、頼むわ。なぁ、律紀はどうだ? 鷹と明日、一日遊んで来るってのは嫌か?」
「嫌じゃないよっ。友達と遊ぶなんて……小ちゃい時以来だから嬉しいっ!」
「……友達……」
美希鷹がしょげる。意識はしていたようだ。だから、耳元で囁いてやる。
「おいおい、諦めんな。これからだって」
「お、おうっ……って、いいのか?」
「良いに決まってんだろっ。頼んだぜっ」
「おうっ!」
断然、応援するぞと背中を叩いてやった。
「それじゃぁ、寿子。泊りがけの用意だな」
「ええ。忙しくなりますね」
こっちも本格的に始動する時が来たようだった。
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読んでくださりありがとうございます◎
次は何が起きるのやら。
次話どうぞ!
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