mission 3 救護活動
第021話 冒険者ギルド
宗徳と寿子が、少々この歳では恥ずかしい『冒険者スタイル』と呼ばれるものに着替えて門のある地下へ下りると、チェルシャーノと話す善治の元へと急いだ。
「悪りぃ、善じぃ。遅くなった」
「急な時間変更、申し訳ありません」
二人して頭を下げると、善治は振り返って笑みを見せる。
「いや。他に予定もないから問題はない。こちらに緊急事態でも起きなければ、原則、身内を優先させるのが社の方針だ。勤務時間も自由だからな。出社時間も退社時間も好きにしていいのがここの良い所だ」
体を壊さない程度には、過剰労働は禁止されているが、基本、期限が決められる仕事内容でなければ、朝方でも夜であっても、好きな時間を選択して仕事をしろという、大変自由な体制を取っているのだ。
だが、そういう自由な体制であるからこそ、問題もある。
「まぁねぇ。ウチは結構、ってかかなり時間にルーズな輩が多いからねぇ。緊急時はピリッとするんだけど、そうじゃなければ、会議も集まったら始めよかって感じだからサ。いつまでも会議が始まらないなんて事もしょっちゅうヨ?」
チェルシャーノが笑いながら言う。宗徳と寿子は、これに関しては文句なく優秀だということだ。
「まっ、肩の力を抜いて、抜き過ぎなくらいが丁度イイかもね~。ってことで、準備はイイカナ?」
「もちろんっ」
「いつでも大丈夫です」
宗徳と寿子はこれから楽しみにしていた遊園地や動物園に行く子どものように、キラキラとした表情を見せていた。
それに苦笑しながら、善治も門の前にスタンバイする。
「頼む」
「はいな~。では、いってらっしゃい」
降りてくる黒く大きな扉。チェルシャーノが手を振ると、扉が大仰に開かれる。三人はその中に躊躇なく飛び込んだ。
光の中を数歩駆けると、そこは新品の畳の匂いに似た青い香りが漂う真新しい部屋。
宗徳達が創り上げた『竜守城』の天守閣だ。
「ここに出んの? あれ? 石の神殿じゃなく?」
「ああ。こちらに固定してもらった。入る時にチェルシャーノさんに頼めば、またあの神殿に繋げてもらえるがな」
「へぇっ。ここの方が便利だなっ」
何より安全な場所だ。ここは善治の魔術によって外敵から守られている。ただ、宗徳や寿子にはいまいちまだその凄さは分からないが、感覚的には心から安心出来る場所だと感じていた。
「それで? 今日は何すりゃいいんだっ?」
「また何か作るんですかっ?」
ようやく城創り以外の事を出来るはずだとあって、宗徳の今日のテンションは高めだ。寿子もそんな期待が滲み出る笑みを見せている。
二人はこちらでは二十代頃の姿になる。それでも善治にはヤンチャな子ども達を相手にしているような気分を拭えないようだ。
「そ、そうだな……少しはその成り……かっこうらしい仕事をしてみるべきだろう」
最近分かったのだが、善治は意識して言葉を最近の子でも分かるものに変えているようだ。
昔はハンカチも手ぬぐいと一括りにして話していたはずだよなと思った時をまだ覚えている。だが、あえてそこには口を出さないようにしようと、無言で寿子と意見を一致させていた。
だから、今回もわざわざ言い直した所は気にせず、先を進める。
「かっこう……この『こすぷれ』の事か。あれだよな? 古代のヨーロッパとか、こんなかっこうしてそうだよな? 革の胸当てとか、防具的には軽いし薄いけどな」
「蒸しますけどねぇ。ですが、腕とか脛、膝もちゃんと保護されているのに、動きやすいのはありがたいです」
伸縮性もあり、最初はすぐにダメになるだろうと思っていたのだが、かなり丈夫だ。
「まぁ、いい革だよな。牛か?」
「そうだな……牛……に似ているから、そうだろう」
大変キレの悪い解答だった。
「ん? 牛じゃねぇのか?」
「似ていると言われましたか?」
二人は、ここは流すべきではないと判断した。
「牛に似てるって、あれか、水牛」
「それは牛だろう」
「牛ですねぇ。それでもないとなると……馬系ではないんですもんねぇ?」
「牛系……だ」
「だから、なんでそこで首傾げんだよ……意味わかんねぇ」
そろそろ、得体の知れない物を身に付けている嫌悪感を感じるようになってきた。それを察したのか、それともこれ以上誤魔化せないと思ったのか、善治はようやく白状した。
「仕方がないだろう。牛の見た目に近い姿なんだ。こちらにいるバフモーの革だからな」
「も、モー……た、確かに牛っぽいな」
「あなた、注目するのはそこではありませんよ」
おかしな感じに納得している宗徳を寿子が呆れながら嗜める。これはいつも通りだ。お陰で善治も落ち着いて次の提案を口にする。
「実物を見るのも良いだろう。肉も旨いからな」
「へぇ。どこにいるんだっ?」
「見て見たいです!」
「そ、そうか……落ち着け……」
宗徳達が子どもの頃は、こんな時どうしていたんだったかと遠い目をする善治だ。
城の最上階から降りて行くと、幾人かとすれ違う。彼らは厳つい鎧を着けていたり、宗徳や寿子と変わらない物を身に付けている。
ただ、そんな事よりも、顔色が優れない者が多いのが気になった。思わずこんな事を尋ねる。
「なぁ、ここ、病院にするのか?」
「いや……ここは冒険者ギルドだ。ギルドとは組織という意味でな。冒険とは、地球で考えられる意味合いと同じだ。未知のものを探求し、危険な場所も顧みず活動する強い信念を持った者の事をいう」
どの国にも属さず、たいていの町には必ずあるらしい。
「だが、意味合いは同じでも、内容は少々違ってくる。この世界には、人の住めない土地や、未開拓の土地が多い。その理由は植物であったり、環境、魔術を扱える危険な獣の存在が大きい。それらを排除したり、時には保護したり、土地を調査するなどの仕事を請け負うのが冒険者だ」
「なるほど。そうなると……身を守る術とか、戦ったりする力とかが重要だな。だからあんな厳つい鎧とか、物騒なデカイ剣とか提げてんのか……」
地球でいう冒険者は、己との戦いがかなりの比重を占めるように思う。挑戦という要素が強いのだ。しかし、この世界に於いての冒険者は、挑戦よりも過酷な地で生きのびて、その土地の問題を解決する事が主なものになってくるのかもしれない。
「そうだ。だが、そんな危険な事を無償でやりたがる者はいない。だから、冒険者ギルドがある。分かりやすくいえば役所……いや、ハローワークや派遣会社のようなイメージなら分かるか」
「お仕事の紹介所という事ですか?」
「ああ。能力に応じて仕事を割り振り、見合った報酬を渡す。下手に任せては、命の危険があるからな」
実力よりも強い獣が相手になったら、容赦ない死が待っている。冒険者ギルドはその仕事内容を調査し、これまでに集められた情報を元にそれらを実力に合った冒険者達に割り振るのだ。
「しかし……だ。そんな冒険者ギルドも、この百年程で質が落ちてしまってな……冒険者達の数が徐々に減っている。このままではいずれ、人自体が滅んでしまいかねない問題だ。戦える者が減るという事だからな」
現状を維持するにしても、危険な獣は増える一方。それを駆逐する冒険者が減ってしまっては、安全な場所がなくなってくる上に、獣から取れる革や牙、肉が手に入らなくなり、物流にも影響が出てくる。
「人がいなくなるなんて、そりゃぁ、大事じゃねぇか」
「だから、足がかりとしてここから始める。王都からは遠く、国境までも距離があるからな。変革を促すには良い場所だ」
「なるほど。周りに何もないですものね。好き勝手やっても、目は届きにくいと」
「そういう事だな。もちろん、ギルドをまとめる元老会には話が通っている。いくらなんでも、勝手に冒険者ギルドを創る事は出来ないからな」
全て準備は整い、こうして建物も出来上がったというわけで、ようやくここからスタートだ。
「お前達には先ずは冒険者の仕事を体験し、この世界をもう少し知ってから、ギルドの職員として働いてもらうつもりだ」
「って事は、善じぃがここの長か」
「あら。だからみなさん『マスター』とお呼びになっていたのですか?」
「ああ。ギルドマスターと呼ぶ」
「そりゃぁ、カッコイイなぁ! けど、俺は善じぃって呼ぶけどなっ」
「……お前は……」
簡単にはブレない宗徳だった。
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読んでくださりありがとうございます◎
善じいに抜かりはないようです。
また明日です。
よろしくお願いします◎
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