第014話 そう見えました

宗徳と寿子には、善治の周りに力が集まっているように感じられた。肌がチリチリと緊張感を持つ何かに触れている。


瞬間、善治の足下に光の輪が現れた。その線上に一点を接するいくつもの円が出現し、垂直に立って線上を転がる。その中には、模様が描かれていた。


その模様を良くみれば、同じものが幾つもあるのが分かるだろう。


善治を囲んで転がっていたそれらは、次第に一枚ずつ善治の方へ倒れ、重なっていく。そうして出来上がった複雑な紋様。


それと同じものが、次に善治が手を翳した城の上空に現れ、一息に城を囲みながら落下する。


城が一瞬、淡い光を放ち一つ拍動したように見えた。それが消えると、何事もなかったかのように沈黙する。


そして、善治は二人を振り返った。


「見えたか?」

「え~っと……ボワっ、シュッ、ドクンだな」

「……そうか。見ていたことはわかった」

「おうっ」


宗徳は感覚の人だ。だが、正しく見ていた事は理解してもらえた。寿子もそんな宗徳を分かっている。だから、寿子はなるべく細かく思い出しながら言語化していく。


「いやですねぇ、あなた。見えていたでしょうに。師匠、私には円の中に、模様となる前に『強固』『柔軟』『守護』という文字が見えた気がしたのですが」


そう寿子が言う。それに善治は嬉しそうに答えた。


「よく見ていたな。そうだ。以前から言っているように強くイメージする力は重要だ。どの世界でも強力な力となる。それを世界に魔力を使って伝える事で、その効果を魔術という形で行使する事ができるのだ」


善治は、文字によって行使したいと思った力を強くイメージした。これに、魔力を通す事で世界が魔術として形作る為に必要な紋様へと翻訳され、描かれるのだ。


「へぇ。ん? 三つ? もう何種類かあったよな? 軽……『軽減』? と『維持』だったような……」

「宗徳……良く見えたな。『軽減』は特にあまり軽くしても問題だからと、弱く少なくしたのだが……変換されるのも早かったはずだ……」

「そうか?」

「私には見えませんでしたよ? 三種類だと思ったので」


瞬きしていたら見えないようなそんな刹那の速さで変換されていた。その上、淡い光で作られた円だったのだ。それが、宗徳には見えたという。


「マジ? けど、綺麗な青っ……じゃねぇ緑だったからな。その他は赤っぽい感じだったのに、目立つだろ」

「え? 色はどれも白っぽいものでしたよ?」

「そんな事ねぇよ。橙の濃い感じのと、翡翠の綺麗な緑だ」

「……まさか……」


善治は宗徳が言っている意味を理解して驚く。それを確認する為に、善治は右手を広げて手のひらを上に向ける。まるで見えない何かを持って見せるようにすると、そこに小さな手のひらサイズの模様の描かれた円を出現させる。


「これは炎の魔術式だ。寿子、何色に見える」

「白です。蛍光灯のような光の白です」


見えない白ではない。光で出来たものだと言う。善治はそれに頷き、今度は顔をしかめる宗徳に尋ねた。


「宗徳、お前は何色に見える」

「赤だ。橙に近い。ガスの炎じゃなくて、焚き火する時に見るあの色だ」

「そうか……では次、これはどうだ? 寿子」


炎の魔術式だと言っていたものをあっさり消した善治は、次に違う紋様のものを見せる。


「白です。先ほどと同じ」


はっきりとした寿子の答えを聞き、善治はまた頷いてから宗徳へ尋ねる。


「お前はどうだ?」

「青じゃないのか……? 空の青だ……白は多いんだが……青に見える」

「そうか……いや。私には寿子同様、どの魔術式も白に光って見えるのだが、稀に魔術の種類によって色で見える者がいると聞いた事がある。お前がそれだろう」

「へぇ……」


善治は感慨深そうに言うが、宗徳にはいまいちピンとこない。その声音で善治もそれを察したのだろう。笑みを浮かべて切り替える。


「まぁ、それもその内分かるようになる。さぁ、今日は少し早く帰るとしよう か」

「そうか? 別にまだ居ても良いんだけどな」

「そうですねぇ。ようやくこちらで落ち着けそうですし」


二人としては、これまで駆け足気味に作業をしていたので、区切りがついた今、こちらの世界を知るチャンスだろうと思ったのだ。


しかし、善治は苦笑して言った。


「少し無理をさせたからな。いくら肉体がこちらでは若返り、身体能力が上がるといっても、休息は必要だ。ここからはゆっくりいこう。今日の所はこれで終いだ」

「そうか……分かった……」

「そうね。たまにはあちらでゆっくりしましょう」


よく考えてみれば、夢中で作業をしたこの一週間と少しは、まともに買い物もしていない。


特にここ三日は、完成が見えた事で半ば会社に泊まり込んでいた。仕事としては、明らかに労働基準を無視し過ぎている。


「おう。体が資本だし、休養は必要だな。あ、でもなぁ、そういやぁ善じぃ。ここの留守は大丈夫なのか?」


宗徳は城を指差す。


「ああ。セキュリティに問題はない。さっきも術で『守護』はかけた。まだ一階部分しか開放していない。それに、こちらにも職員がいる」

「職員?」

「それも明日以降にな」


首を傾げる宗徳と寿子に、善治はこれもまた今度なと言う。


「ちぇっ、分かったよ」


無理やり納得し、三人は竜守城へ向かう。城があらかた形作られてからは、わざわざ村を出てあの朽ちた神殿に入り口を繋げる必要はなかったのだ。


宗徳達は、今日も城の中の適当な扉からあちらの世界に戻るのだった。


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読んでくださりありがとうございます◎



そして、久し振りの地球での休日へ。

では、次話どうぞ!

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